16 / 45
第6章:あのホーキングが解けない課題に挑戦しなければならない理由を俺は知りたい
第1話
しおりを挟む
「そのエモい兵器が完成する前に、俺たちの命を護る行動をしておきたい」俺が言った。「恐らく有松も含めて、俺たち全員の行動は監視されているだろうし、このスタジオにも盗聴器が隠されている可能性がある」
豊橋は、テーブルの上に置いたノートPCで作業をしながら、俺の話を頷きもせずに聞いていた。
「そうだな…」豊橋は視線をディスプレイから動かさずに言った。「盗聴されている事が前提であれば逆に色々対策はし易そうだ。だが、マンションのロビーでインターフォンを鳴らしまくる阿保どもに、このスタジオに忍び込んで盗聴器を仕掛ける技術があるとは思えない」
「俺はそうは思わない」俺が答えた。「既にシェアは色々な手段で集まってきているし、部品だっていくつも届いた。そのうちの一つは、お前の部屋に届いただろ」
「そうだな。であるなら、奴らは盗聴器なんて古風な趣味はないと見た方がよそうだ」豊橋は俺の方に顔を向けた。「このスタジオは有線LANはないのか」
「ただでさえ機材の配線が多くて気が狂いそうな俺に、ネット環境まで有線にする趣向はない」
「そうか。なら、付箋を頂こう。奴らが盗撮しているとしたら、このノートPCのカメラも対象デバイスのひとつだろう」
「ビニルテープで我慢しろ」
俺は、豊橋に黒のビニルテープを渡した。豊橋はそれを適当に千切ると、ノートPCのカメラに貼り付けた。俺は、ザッカーバーグ気取りかよ、と囃した。
「どの道、奴らに対して情報を遮断しようとするのは無駄だ。国家レベルの機密であれば、あらゆる手段を使ってくるだろう。少なくとも俺たちを泳がせている間、俺たちは安全だ」
「なら、いつまでも完成しないフリでもするか?」
「それはあまり意味がないだろうな」豊橋は顎に手を当てると、考える素振りをした。「寧ろ、完成のタイミングで交渉ができる準備をしておいた方が良い。盗聴されているなら好都合だ」
「今の内に命乞いでもするか」
「見苦しいお前の命乞いを見るのは興醒めだが、やりたければやるがいい」
「おい! 聞こえてるか!」俺は部屋全体に向かって叫んだ。「お前たちの望み通りコイツは完成させてやるし、完成したモノが何の目的なのかも一切詮索しない…待てよ、完成したブツがあからさまに兵器の形をしていたらどうすればいいんだ」
「さあな。訊いてみたらどうだ」
「おい! あからさまな形なら、完成する前の今の内にブツを全部渡してやる。またピエロの面でも被って出てこい! ペニーワイズみたいにな!」
豊橋は、ククク、と笑った。
「恐らく奴らは、完成まで姿を現さないだろう」豊橋が言った。「最初の訪問でブツを置いていったのが根拠だ。あの時もし直接交渉できたなら、USBメモリを渡して完了だったかもしれん」
一理ある。結局、何も知らない俺たちに作らせた方が奴らにとっては色々と都合が良かったんだろうか。
「要らん情報まで知るのは面倒だ」俺が言った。「不必要な情報を知ったと奴らが判断した時点で、否応なく抹殺リストに載るだろうからな」
「心配するな」豊橋が言った。「仮令完成しても、お前にはそれが何か理解できんさ」
「そうか。それはめでたいな。だが、お前もだろ?」
俺が言うと、豊橋は俺に三白眼を向け、小さく頷いた。
「…そうだな。俺にも解らん」
豊橋から、USBメモリのパスコードが解除できた、と連絡があったのは、それから更に1ヵ月後だった。俺は、すぐに豊橋の家に向かった。豊橋の所にも荷物が届いた、という事は、当然、豊橋の部屋にも何らかの監視が入っているというメッセージに他ならない。
インターフォンを鳴らすと、すぐに扉が開いた。
「来たか」豊橋が言った。「移動するぞ。駅前にレンタカー屋がある」
「レンタカーだと?」
俺が訊いた。
「お前がひとつ質問するごとに、俺たちは死に一歩近づいていく事を忘れるな」
言われて、俺は黙って豊橋についていくことにした。俺の乗ってきた車じゃ駄目なのか。
豊橋は、テーブルの上に置いたノートPCで作業をしながら、俺の話を頷きもせずに聞いていた。
「そうだな…」豊橋は視線をディスプレイから動かさずに言った。「盗聴されている事が前提であれば逆に色々対策はし易そうだ。だが、マンションのロビーでインターフォンを鳴らしまくる阿保どもに、このスタジオに忍び込んで盗聴器を仕掛ける技術があるとは思えない」
「俺はそうは思わない」俺が答えた。「既にシェアは色々な手段で集まってきているし、部品だっていくつも届いた。そのうちの一つは、お前の部屋に届いただろ」
「そうだな。であるなら、奴らは盗聴器なんて古風な趣味はないと見た方がよそうだ」豊橋は俺の方に顔を向けた。「このスタジオは有線LANはないのか」
「ただでさえ機材の配線が多くて気が狂いそうな俺に、ネット環境まで有線にする趣向はない」
「そうか。なら、付箋を頂こう。奴らが盗撮しているとしたら、このノートPCのカメラも対象デバイスのひとつだろう」
「ビニルテープで我慢しろ」
俺は、豊橋に黒のビニルテープを渡した。豊橋はそれを適当に千切ると、ノートPCのカメラに貼り付けた。俺は、ザッカーバーグ気取りかよ、と囃した。
「どの道、奴らに対して情報を遮断しようとするのは無駄だ。国家レベルの機密であれば、あらゆる手段を使ってくるだろう。少なくとも俺たちを泳がせている間、俺たちは安全だ」
「なら、いつまでも完成しないフリでもするか?」
「それはあまり意味がないだろうな」豊橋は顎に手を当てると、考える素振りをした。「寧ろ、完成のタイミングで交渉ができる準備をしておいた方が良い。盗聴されているなら好都合だ」
「今の内に命乞いでもするか」
「見苦しいお前の命乞いを見るのは興醒めだが、やりたければやるがいい」
「おい! 聞こえてるか!」俺は部屋全体に向かって叫んだ。「お前たちの望み通りコイツは完成させてやるし、完成したモノが何の目的なのかも一切詮索しない…待てよ、完成したブツがあからさまに兵器の形をしていたらどうすればいいんだ」
「さあな。訊いてみたらどうだ」
「おい! あからさまな形なら、完成する前の今の内にブツを全部渡してやる。またピエロの面でも被って出てこい! ペニーワイズみたいにな!」
豊橋は、ククク、と笑った。
「恐らく奴らは、完成まで姿を現さないだろう」豊橋が言った。「最初の訪問でブツを置いていったのが根拠だ。あの時もし直接交渉できたなら、USBメモリを渡して完了だったかもしれん」
一理ある。結局、何も知らない俺たちに作らせた方が奴らにとっては色々と都合が良かったんだろうか。
「要らん情報まで知るのは面倒だ」俺が言った。「不必要な情報を知ったと奴らが判断した時点で、否応なく抹殺リストに載るだろうからな」
「心配するな」豊橋が言った。「仮令完成しても、お前にはそれが何か理解できんさ」
「そうか。それはめでたいな。だが、お前もだろ?」
俺が言うと、豊橋は俺に三白眼を向け、小さく頷いた。
「…そうだな。俺にも解らん」
豊橋から、USBメモリのパスコードが解除できた、と連絡があったのは、それから更に1ヵ月後だった。俺は、すぐに豊橋の家に向かった。豊橋の所にも荷物が届いた、という事は、当然、豊橋の部屋にも何らかの監視が入っているというメッセージに他ならない。
インターフォンを鳴らすと、すぐに扉が開いた。
「来たか」豊橋が言った。「移動するぞ。駅前にレンタカー屋がある」
「レンタカーだと?」
俺が訊いた。
「お前がひとつ質問するごとに、俺たちは死に一歩近づいていく事を忘れるな」
言われて、俺は黙って豊橋についていくことにした。俺の乗ってきた車じゃ駄目なのか。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について
楠乃小玉
ファンタジー
上司から意地悪されて、会社の交流会の飲み会でグチグチ嫌味言われながらも、
就職氷河期にやっと見つけた職場を退職できないオレ。
それでも毎日真面目に仕事し続けてきた。
ある時、コンビニの横でオタクが不良に集団暴行されていた。
道行く人はみんな無視していたが、何の気なしに、「やめろよ」って
注意してしまった。
不良たちの怒りはオレに向く。
バットだの鉄パイプだので滅多打ちにされる。
誰も助けてくれない。
ただただ真面目に、コツコツと誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、こんな不条理ってあるか?
ゴキッとイヤな音がして意識が跳んだ。
目が覚めると、目の前に女神様がいた。
「はいはい、次の人、まったく最近は猫も杓子も異世界転生ね、で、あんたは何になりたいの?」
女神様はオレの顔を覗き込んで、そう尋ねた。
「……異世界転生かよ」
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる