AV監督だったけれどファンタジー異世界に転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件

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第1章:女勇者が巨乳で露出度が高いのに陰キャなのは俺の所為じゃない

第3話

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 フロルは、ミクルに視線を送った。ミクルは、当惑したように視線を泳がせ、不安な表情を俺に向けてきた。
「違う」フロルは語気を弱めずに言った。「ボクは女だ」
「『ボク』か…。テンプレート通り過ぎて現実味がないが…」俺が言った。「お前と同じ名前の、某SF漫画に出てきたフロル・ベリチェル・フロルは、自分が女である事を強く否定しながらも、外見は完全に美女だったし、長髪だった。そして一人称は『俺』。同じレベルの『言ってることとやってることの矛盾』が君からも感じられる事に対する笑いはこの際伏せておくとしても、そこまで頑なに否定するには理由がある筈だ」
 俺の言葉に、ミクルとフロルは再び視線を送り合った。
 もし、一人称が「ボク」であり、女を主張するのであれば、かなりの策士だ。通常は「ボク」に対し、男なのかと思わせて、実は女、と言うのが筋書きだ。だが、コイツは、自分を男だと疑う人間に対し、女の外見で以て、敢えて「ボク」を使ってきた。これは、俺の様に、一人称を聞くまでもなく男である事を見破るような人間の裏をかく時にのみ有効な判断だ。つまり、俺が探し求めていた男の娘だ。このフロルという少年は。まあ、男である事は確定ではないが…。
「カナヤマさん…」ミクルが不安そうに言った。「フロルは女の子よ。わたしの妹なの。男の子に見えたなんて、心外です」
 お前の言い分は知っている。
「なるほど」俺が言った。「そうか。済まなかった。俺が詮索していい内容ではなかったな」
 俺の言葉に、ミクルはほっとしたような表情を見せた。つまり、間違いない。フロルは男だ。だが、まあいい。当面、少女という扱いで行こう。

「さて」俺が言った。「これ以上君らに迷惑をかけるのは俺の流儀に反する。早々に立ち去りたいし、この世界の事をもっと理解したいし、俺が元の世界に戻れるかどうかも調査したい。少なくとも俺が居た世界には魔法なんて物はなかったが、この世界ではそれがあり、しかも色々便利そうだ。あらゆる可能性を当たってみたいのだが、それを為すためにこの次に俺がどこに行けばいいかの見当が全くつかない。最後にそのアドバイスだけ貰えれば、喜んで君たちの前から消える事ができるのだが」
 と言いつつ、俺はこの2人を出演させたAVを撮る事を諦めていない。何故なら、これほど理想的な逸材は、俺の知る限り、AV界にはいないからだ。諦めていないという事は、当然、元の世界に戻ってFanzaやxvideosあたりの商流で販売する事も視野に入れている。
「あの…」ミクルが言った。「良かったら、わたしの母さんにも会って欲しいんです」
「なんだって?」思わず訊き返した。「君の母君に? 俺が?」俺の言葉に、ミクルは首肯した。俺はまた、ははは、と笑った。「それは到底お勧めできない。もう理解していると思うが、俺はこの純粋ファンタジー世界に最も似つかわしくない粗野な人間だし、全ての人に自慢できるような職業にも就いていない。どちらかというと、ゴブリンとかのザコキャラのうちの1人が似合うような人間だ」
 俺の言葉に笑ったのは、フロルの方だった。そうか。皮肉の妙味が解るか、お前。
「母さんは占い師だ」フロルが言った。「カナヤマが突然この世界にやってきて、ボクたちの家にいる事は、まだ限られた人しか知らない。だって、貴方は神の使いかもしれないし、または悪魔かもしれない」
「悪魔か」俺が言った。「悪くない見立てだ」
「母さんの占い次第では、貴方を警邏隊か国軍に突き出す」フロルが言った。「そうでなくとも、この国では最近おかしな事ばかりおこっているんだから」
「そうか。それはめでたいな。俺にとってはお前の存在含めて全てがおかしな事だがな。占いなんかで運命を決められる身にもなってみろ。まだ天気予報の方が科学的根拠があるってもんだ」
「一番気がかりなのは、魔物たちの出現です」ミクルが言った。「以前は狂暴ではなかった種族が、わたしたちを襲うようになったりしています。既に、この街でも犠牲者がでています」
「そうなんだ」フロルが言った。「噂に依ると、魔王が復活した、って言うんだよね」
 さて、大分情報量が多くなってきた。俺として最も気になったのは、ミクルが言った「種族」だが、恐らくそこに突っ込むと、この世界のエコシステムを疑似科学の観点からミクルに説明させることになるから、やめておこう。何よりも気に食わないのは、さっきからあらゆる事が、陳腐で使い古されたRPGゲームやラノベの文脈を辿っているように見えるって事だ。この調子でいくと、俺は数日後にはエクスカリバーを抜く試練に耐えなければならなくなる。
「魔王な…」俺が呟くように言った。「今の俺には、恐らくお前たちの御母堂よりも明確に未来が予言できる気がするが、そんな事はどうでもいい。俺にとって一番のストレスは、これからこの世界で起こる全ての出来事に対して、際限のないツッコミを入れ続けなければならない諦観にも似た感情だ」
 コミケで薄い本を買うような連中なら喜んでこの世界観で中二病を存分に発症させながらのめり込んだんだろうが、生憎、俺だ。このタイミングでフロルに対して、魔王は何を目的で復活して、魔物を操っているのか、を訊いてその説明を受けるのはあまりにも面倒だから、俺が俺の曇りなき眼でいずれ判断する。

 占い師という母親は、間もなく帰宅した。まだ昼前だろう。俺はそこそこ腹が減ったが、飯にありつけるかは占い次第という訳か。もっとも、この世界の食事に対して多大な不安はあるが。
 母親は予定調和的ではなかった。何を言っているかというと、俺の頭の中にあるテンプレートとは違った。フードのある陰気なローブ、ゴテゴテとしたワザとらしいアクセサリー類、大きい水晶玉、長い爪。そういう類ではなく、むしろ若くて美人で巨乳だった。ミクルが18歳だとしても、この母親はまだ30代半ばくらいだ。まあ、この世界の人間の老い方が同じかは解らんが、俺の感覚からすれば、10代で結婚して子供を産むのが平常なくらい、この世界の娯楽産業は発達していない事が伺われる。そして何より、ミクルとこの母親で親子丼物のAVを撮れるし、この世界でAVは圧倒的に流行る可能性がある。
 母親は、俺の姿を見るなり、薄く微笑むと、その口角が上がった口許とは対照的に鋭い視線を投げかけてきた。俺は鼻白んだ。俺の知ってる占い方と違う。俺の反応から心理状態を読んでいるのか。それとも、脳波やDNAの情報を感知する能力でも備わっているのか。
 暫くして、母親は俺から視線を落とすと、ミクルとフロルに目で合図をした。それから、この人は信頼して大丈夫だ、と告げた。マジか。俺は、俺自身ですら信頼できないのに。大丈夫か、この母親。不安になるぞ。
「信頼して貰った事に礼を言いたい。それと、貴女の様な美人と話ができる喜びを伝えておきたい」
 俺の言葉に、母親はクスクスと笑った。まあ、ミクルは母親似だろうな。
 母親は、俺に椅子を勧めてきた。俺は座った。
 母親は、ミクルとフロルを部屋から出した。俺と2人きりで話がしたいらしい。
「会ったばかりで本当に申し訳ないのですが…」母親が言った。「あなたに助けて頂きたい事があります」
 そう来たか。意外過ぎる展開だ。
「助ける…か」俺が言った。「俺は、この世界に来たばかりで、まだ何の事も解っちゃいない。ミクルとフロルに占いが終わるまで外出禁止にされちまったから、無垢な箱入り娘状態だ。そんな初対面の世間知らずに助けを求めなければならないような事案、というのは、興味をそそりますな」
「重要な事なんです」母親が言った。「ミクルは…国王から召聘をかけられているのです」
「国王か」この際、この国が王政だったのか、という気づきと文化に対する憶測はどうでもいい。「学校の過程を終えたばかりの少女を、この国は召聘するのか。何の為に? 戦争でもするのか?」
 母親はかぶりを振った。
「学問を修めた全ての乙女が召されるという習慣はありません。召聘されたのは、ミクルだけです。ミクルを勇者に仕立て、魔王討伐に向かわせる、というのが、話の筋だそうです」
「はっ」俺が声を上げた。「そこまで理屈が通らない話は、某国がGSOMIA破棄を言い出して以来、久々に聞いた。その根拠は何なんだ? なぜ、ミクルがそんな大儀に選ばれた?」
「占いです。王室付占い師の」
 まあ、そうだよなあ…。
「で」俺が言った。「御母堂、あんたの占いではどうだったんだ?」
 俺の言葉に、母親はゆっくりとかぶりを振った。俺は、大きく溜息をついた。
「なるほどな」俺が言った。「魔王を討伐するのに、国王が女勇者を派遣しなければならない理由は、堀井雄二や水野良がそのファンタジー脳を絞っても思いつかないだろう。となると話は簡単だ。ミクルは、生贄に選ばれたって訳だ」
 母親は、わたしもそう思います、と返してきた。
「定かではありません。でも、その可能性が高い、というのがわたしの見立てです」
「生贄で物事が解決した歴史を、俺は知らない。正直者のアブラハムだって、生贄に連れたイサクは神の手に依って返されたのだからな。となると、国王は魔王とグルになっているか、またはそもそも魔王なんて存在しない、という結論もあり得るな」
「それは違うと思います」母親が言った。「魔王復活の兆しについては、わたしの占いでも出ていたから…」
 どこから突っ込んでいいか解んねえよ…。
 俺は、暫くの沈黙の後、立ち上がって母親に視線を向けた。
「とりあえず、解った」俺が言った。「ミクルを連れて首府へ向かおう。国王との謁見に俺も立ち会うとしよう。あんたの占いによる大儀を根拠にな」
 俺の言葉に、母親は、ありがとうございます、と言い、深く頭を下げてきた。
「あと、フロルも連れて行って下さいな」
「フロルも?」俺が訊き返した。「彼、もとい彼女も危険な目にあう恐れがあるのでは?」
「あの子が剣術を身に着けたのは、この時の為です。ミクルを護れるように」
「そうか。それは解せんな」俺が言った。「であれば、より体が大きいミクル自身に剣術を習わせればよかった筈だ。にも拘わらず、フロルが剣を覚えなければならなかった理由はただひとつ」
「ええ」母親が言った。「あの子は、男の子です」
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