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第7章:お姫様は歯槽膿漏で歯抜けの12歳ですが何か?

第1話

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「よくお越し下さいました。私は秘書室の副室長です。本日いらしたのは…ええと…ギルド長さん、ギルド所属の鍛冶屋のキルベガンさん、ギルド所属の錬金術師のターコネルさん、床屋のクーリーさん、そしてミドルトン殿の奴隷の、5名で間違いないでしょうか」
「副室長殿、ご認識に相違はないが、この奴隷氏の事はシカイと呼んでやってくれ」
「シカイ…ですか。奴隷を固有名詞で呼称するのですか?」
「便宜上だ。ご容赦願いたい。何より、奴隷氏の技術と知識がなければ自分たちは歯科治療のチームを結成できていない」
「…左様ですか。承知致しました」
「で、副室長の姉ちゃん、俺たちは、何の用で呼ばれたんだ?」
「それは、私も存じ上げないのです」
「あんたも知らないのか…。今日は、国王が直々に話してくれるのかい?」
「いえ、秘書室長が国王から内容を仰せつかっておりますので、代理でお話します。まもなく来ると思うのですが…」
「どうもおまたせしました」
「来ました。こちらが秘書室長です」
「下名(「私」と同じ一人称)が王室の秘書室長をやっております。どうぞ、お立ちにならないで、おかけ下さい。いや、本当によく来てくださいました。急なお呼び立てで申し訳ありませんでした」
(奴隷くん、思ったより物腰柔らかじゃない? 悪い話じゃなさそうだね)
(…だといいんですが…。とりあえず僕は、立場的に話を求められるまでは黙っていますね)
「お噂は下名も聞き及んでおります。ミドルトン殿の娘さん…あの子も立派な騎士になりましたが…の治療をされたとか?」
「その通り。自分のギルド協力の元、このシカイが主導してカネマラ女史の治療を行った。秘書室長、奴隷氏に発言を許可して頂けぬか?」
「もちろんです。シカイさん、お話しいただけますか? あの子に施した治療の具体的な内容を。我々の想像を超えた高度な施術だったと小耳に挟んでおります」
「ええ、ありがとうございます。カネマラさんに施した治療は、ご存知の通り、歯科治療です。つまり、口腔内の歯の治療です。具体的には、抜歯、齲蝕部の切削および銀歯の建設、歯列の矯正です。矯正はまだ始めたばかりですが…」
「かなり多様かつ複雑な治療器具を用いられているとか?」
「そうですね。今日、お見せするためにいくつかお持ちしました。たとえば…これらの道具ですね」
「ほう…。まるで工芸品を作るための専用道具や冶具のようですな。見たことのない道具が満載だ…」
「カネマラさんの齲蝕部の切削には、ギルドに開発して頂いた足踏み式のドリルを用いました。こちらは広場で実際に使ったので、秘書室のどなたかはご覧になられているかと思いますが」
「なるほど。よく解りました。ところでシカイさん。下名の認識では、あなたが奴隷として連れてこられる前に住んでいた国の医療レベルは、この国と同等か、あるいはそれ以下だと考えていました。あなたはご存知ないかと思いますが、既に首都は陥落し、現在は資源の開拓や治世の回復を行っているところです」
(そうか、だから、あれから特に戦をしている兆しがないのか…)
「それは…つまり、僕の歯科医療の知識がどこから来たものなのか、を気にしていらっしゃるのでしょうか?」
「その通りです。少なくとも、下名が知る限り、この周辺国家ではそのような高度な医療の情報がありません。とある一国を除いて」
「とある一国…ですか」
「あ、ほら、奴隷くん、前にあたしが言わなかったっけ? 虫歯に悩まされている人がほとんど居ない国の噂。あたし、あんたはてっきりその国から来たんだと思っていたんだよね」
(僕がどこから来たのか…。現代日本の歯医者だったなんて、信じて貰える訳がないよな)
「正直…連れてこられる時に強く頭を打ったのか、よく覚えていないんです」
「そうですか。では、はっきり言いましょう。虫歯や歯並びの治療技術は、その国家の軍事力と直接的に結びついてくる可能性があります。そのくらい多くの人間が、歯痛からくる様々な身体の症状に日々悩まされているのです。もっとシンプルに言いましょう。シカイさん、あなたの技術は、兵器です」
「兵器…ですか…」
(うかつだった…。公開での歯科治療なんて、軍事機密を広場で宣伝していた様なものだったのか…)
「秘書室長殿、今回、自分たちを招聘した目的を明確にして頂きたい。これではまるで尋問だ」
「…いえ、失礼しました。下名も、シカイさんを追い詰めるつもりは全くないのです。むしろ、協力をお願いしたいと思っているのです」
「僕に、協力を…ですか」
「そうです。大きく3つあります。これは国家にとって、非常に重要な事なのです。1つ目は、今後の版図拡大に向けた軍事連略の立案です。つまり、シカイさんが過去に居たと思われる、虫歯に国民が悩まされていない国の特定。現在、攻め入ろうとしている国家はいずれも兵力的には我が国家よりも上ですが、そこに歯の悩みがないとなれば、まず勝ち目はありません。そして2つ目は、歯科医療技術の拡大です。この国の兵士はもとより、国民の歯の悩みをなくしたい。これは軍事力強化と治安維持の両側面の意味があります。そして、最後が一番重要なのですが…」
「「「ご、ごくり…」」」
「王女様の虫歯の治療をお願いしたいのです」
「お、お姫様の虫歯だって!? ど、奴隷くん、なんだか凄い事になってきちゃったね」
「皆さん、秘書室長としてのお願いですが、王女様の歯の状態については国家機密情報です。決して、口外はなさらないようにお願いします。…秘密裡に、かつ迅速に治療をして差し上げたい」
「秘書室長殿、王女様の治療の件については神妙に承知した。また、2つ目の歯科治療技術の拡大についても賛成だ。特に道具についてはギルドが全面的に支援をして用立てさせて頂く。だが、1つ目の依頼については…どうかな。少なくとも、ギルドは奴隷氏の技術と、これから開業予定の医院に多額の投資をしている。奴隷氏の身の安全は保証されるのだろうな」
「そこはご安心下さい。下名も、敵対他国家のスパイがわざわざ奴隷として我が国に侵入して、機密技術を惜しげもなく公開するとは考えておりません。だから、現段階ではシカイさんに何かしらの危害を加えるつもりは一切ありません」
「…ありがとうございます。その前提であれば、僕も不安要素なくご協力できると思います。ちなみに、その虫歯に悩まされていないという国がどこの国なのか、目星はついているんでしょうか?」
「ついています。それは、南の国家です。『南のお告げ所』による国民のスキル管理が成功している事から、この国だけは周辺国家も容易に手が出せないでいます。歯の治療がなんらかのスキルで以て行われている可能性が高い」
「歯の治療スキルねえ…そんな夢みたいなスキル、あたしは聞いたことないけどな」
「スキル管理ができているという事は、その他の技術の管理もできている可能性があります。現在、南の国家と我が国は互いに中立ではありますが、交易関係もありません。つまり、相互に情報がない状態なのです。この国については、そう遠くない将来に、調査隊を派遣したいと考えています。シカイさん、もしあなたが、その国家にゆかりがあるのであれば、あなたを是非調査隊に加えたい」
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