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第7章:ドーナッツの一番美味しいところは、真ん中の『穴』ですのよ?
第3話
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「な、なんですの、このスイーツは…! キンキンに冷えてやがりますわ…。に、匂いは、あまりありませんのね…。ぺ、ペロ! …あ、あま~い! 初めての経験ですわ! これがアイスクリームですの…。噛まずとも口の中でほどけるように溶けていきますのね。そして、溶けると同時に、素材の香りが鼻から抜けていきますわ…。か、快感…」
「ラフロイグの姉キ! これ、麻薬か何か入ってんじゃないの!? このうまさは中毒になっちまうよ…。今夜、禁断症状で震えて眠る事になるかもしれない…」
「なるほど。お前たちのような子供の舌には、アイスクリームはまだ早すぎたようだ」
「一体、何種類用意されましたの? 3日間で全部食べ切らなければ…」
「あ、あたしも、お客さんのところに持っていく途中に、うっかり食べちゃわないように気をつけなくっちゃ…」
「カリラはラフロイグさんじゃなくておじさんの給仕でしょ。アイスクリームを運ぶことはないから安心していいと思うよ。それに、そろそろ、おじさんのところにもどりなよ。ドーナッツを待ってるお客さんが沢山いるみたいだよ」
「おっと、そうだった! じゃあね! オバサン、姉キ、エレン!」
「やれやれ、みなさん騒がしいですね。まあ、楽しそうでなによりです」
「キルホーマンか」
「いよいよ始まりましたが、出足はいかがですか?」
「悪くない。最初こそ警戒されたが、ひとり食べればそこから口コミで広がるからな。勝敗のポイントは、この新機軸のスイーツがどこまで広く受け入れられるのか、および、一度食べた客がリピートしてくれるか、だ。3日間あるからな」
「さすが、ラフロイグさんは冷静に状況を判断されていますね」
「バリエーションも潤沢に用意した。プレーンは単価を下げ、その他のフレーバーは割高にしてある」
「低価格のプレーンで客を釣って、そこから利益率の高い他のバリエーションにアップセルしていく、というわけですね」
「キルホーマン、お前には商才があるようだ」
「ご武運を祈っておりますよ」
「ゴブおじ、また腕を上げましたのね、もぐもぐ。前に頂いた時よりも、ずっとおいしくなってますわ、ぱくぱく。表面カリッの中はモチッですのね、むしゃむしゃ。チョコレートがかかったのも異常なおいしさですわ。このデニッシュみたいな生地のドーナッツも大変香ばしいですし…クリームが挟んであるやつは最高ですわ! むしゃむしゃ」
「ちょっとオバサン、食べ過ぎ。デブになっても知らないよ?」
「というカリラちゃんだって、もう5つ目じゃねーですの?」
「へへ…。あたし、この表面に砕いたナッツをまぶしてあるやつが気に行っちゃったよ。ドーナッツってこんなにおいしい食べ物だったんだね」
「いや~、気に入って貰えてよかったよ。この街で色々な素材が手に入ったし、なによりカフェの店主の秘伝レシピがあるからね。客足もおかげで絶えないし。まあバリエーションについては、ラフロイグちゃんのアイデアを参考にしたとは口が裂けても言えないけれどね」
「オジサン、まじでこのドーナッツ、最高だよ! こりゃ、姉キとどっちが勝つかわからなくなってきたな…」
「さあさあカリラちゃん、お客さんを待たせちゃ悪いから、出来上がったドーナッツからどんどん持って行ってよ。あと紅茶もわすれずにね」
「はいはい、精一杯はたらいてやるから、見てなって」
「ラガヴーリンさんも堅調のようですね」
「おっ、キルホーマン。オレの新作ドーナッツ食べてくれた?」
「後ほどいただきますよ。ところで、ラガヴーリンさんの屋台では紅茶をセットにして出しているのですね」
「ドーナッツはどうしても口の中がパサパサになっちゃうからね。ドーナッツの値段に少しだけ上乗せして、セットにしてるんだ」
「なるほど、紅茶のおかげでドーナッツが食べやすくなるし、何より口なおしになるから、2個3個とドーナッツを食べられる、という寸法ですね」
「ドーナッツは口の中が甘くなっちゃうしね。そういえばラフロイグちゃんの屋台でも紅茶を出しているけれど、別売だろ? アイスクリームと紅茶ってどうなんだろうね?」
「口の中が極端に冷たくなりますから、熱い紅茶は悪いとりあわせではないと思いますよ」
「そんなものなのかねえ…」
「ん? あら? キルホーマン、ちょっと来て下さる? あれれ? ですわ!」
「おや、お嬢様、どうされました?」
「あたくし、さっきアイスクリームを食べた時に一緒にいただいたラフロイグさんの紅茶と、ゴブおじにいただいた紅茶を飲んでいたんですけど…。ちょっと、キルホーマンも飲み比べてみてくださる?」
「飲み比べ…ですか。なにか、気になる事でも?」
「いいから、飲んでみてくださいまし」
「そうですか…。では、失礼して、カップに口をつけさせていただきますね。まずは、ラフロイグさんの紅茶から…。なるほど、いい香りですね。で、次にこっちがラガヴーリンさんの紅茶ですか…。ふむ…なるほど…。確かに。お嬢様がおっしゃりたい事が、わかりました」
「でしょ!? ですわ!」
「なんだいなんだい? どうしたんだい? 二人とも」
「ラガヴーリンさんは、紅茶に何か特別な香辛料を入れたりとか、工夫をされていますね?」
「紅茶に香辛料だって? おいおい、そんな事するわけないだろ? 紅茶の香りが殺されちゃうもの」
「ふむ…そうですか。それは妙ですね…」
「妙って…いったいなんだよ、気になるじゃんかよ!」
「正直に言いますと…少なくとも私の舌と鼻腔で味わった限りですと、ここだけの話、ラフロイグさんの紅茶よりもラガヴーリンさんの紅茶の方が、明確においしいのです」
「え? オレの紅茶が? ラフロイグちゃんより? そ、そうなのかい?」
「あたくしもキルホーマンと同意見ですの。ゴブおじの紅茶の方が、ずっとおいしく感じますわ…」
「うれしいこと言ってくれるじゃないの。でも、なんでなんだろう? オレとラフロイグちゃんは同じ茶葉を仕入れていると思ったんだけどな。ラフロイグちゃんの淹れ方が下手なのかな?」
「そう言えば…。ラガヴーリンさん、ちょっと気になったのですが、さきほどからドーナッツや紅茶を作り終わった後に、何か特殊な仕草をされていますよね。あれは何か意味があるのでしょうか?」
「仕草? ああ、この仕草かい? 意味はないよ。以前は、この動作をするとオレのスキルが発動して、甘い食べ物が、もう少しだけ甘くなると思ってたんだけれどね」
「甘いものが、さらに甘く…。やはり妙です。ラガヴーリンさんの屋台の紅茶と、ラフロイグさんの屋台の紅茶は、どちらもお二人が同じ商店で仕入れてきたもの。お二人の力量が同じだとすると…ラガヴーリンさんの紅茶の方が明らかにおいしい事の説明がつかないのです。カップは主催者が用意したものですから、同じですし…。何が違うのでしょう? やはり淹れ方でしょうか。抽出時間? 温度? しかし、そんなに差がでるものでしょうか…。ここは、実験をしてみる必要がありそうです。ラガヴーリンさん、紅茶をもう一杯淹れていただけますか? それとお嬢様、お手数ですが、ラフロイグさんの紅茶も、新しく一杯もってきていただけますか?」
「実験? どうやってやるんだい?」
「ラガヴーリンさんの紅茶とラフロイグさんの紅茶を並べて、私のスキルで各種のパラメータを比較します。そうすれば、何が違うのか、はっきりとわかるはずですからね…」
「ふうん。オレは別に、何かが違うとは思わないけれどなあ。ほら、もう一杯淹れたよ」
「キルホーマン、あたくしも、ラフロイグさんの紅茶を新しくお持ちしましたわ」
「お二人とも、ありがとうございます。では、調べていきますか…。まずは、温度…ではありませんね。お湯の量…も大差ありません。茶葉以外の成分…の違いもない…。では一体…」
「ドーナッツとの組み合わせでおいしく感じているのかもしれないよ?」
「その可能性も否定できませんが…」
「ゴブおじ、あたくしもキルホーマンも、さきほど紅茶単体で味わって差を感じましたのよ? ですから、紅茶自体に違いがあると思いますの」
「そ、そうかい…」
「…ん? このパラメータには明らかな差がありますね」
「キルホーマン、何か違いがありましたの?」
「ええ…。この数値は…ああ、やはり、香りですか。香りのパラメータに大きな差がありますね」
「香り…ですの?」
「その通りです。どうやら、ラガヴーリンさんの紅茶の方が、強く香っているようです。なるほど、だからドーナッツを買ったお客が、紅茶の香りに引き寄せられて、2個目3個目の購買活動を行うのですね」
「香りねえ…。でも、オレ別に何も特別な事やってないぜ? 茶葉の分量を増やしたり、とかもしてないし」
「ラガヴーリンさん、お手数ですが、私の前で、もう一度、手順を追って紅茶を淹れてみていただけますか?」
「う、うん。構わないよ。まず、ポットにお湯を張るだろ? そこに茶葉を適量入れて、しばらく蒸らす、と。それから茶葉をポットの中で踊らせるようにマドラーでかき混ぜた後に、雑味が出る前に茶葉を濾す。カップの方は先にお湯で温めておくんだ。で、ゆっくりと注ぐ…と」
「あら、いい匂いですわね」
「確かにいい匂いです。でも、この段階ではまだ香りの数値はラフロイグさんの数値とあまり違いがありません。ではラガヴーリンさん、次に、先ほどの動作をやっていただけますか?」
「なんか、改めてやれ、と言われると恥ずかしいな。おまじないみたいなものだからさ。ええと、ほら、こんな感じだよ」
「…なるほど…」
「ど、どうですの? キルホーマン」
「…これは驚きました。ラガヴーリンさんがその動作をすると、紅茶の香りのパラメータが急上昇していきます」
「ええ? こ、この動作でかい? そんなバカな」
「いえ、間違いありません。その動作がきっかけになっています」
「動作が…ですの? それって、どういう事ですの?」
「ラガヴーリンさん、よくきいてください。あなたは『自分にはスキルがない』とおっしゃいました。でも、どうやらそれは大きな間違いのようです。そもそも『甘いものをさらに甘くするスキル』が勘違いだったんです。ラガヴーリンさん、あなたのスキルは『食べ物や飲み物の香りを増幅する事ができる』スキルに違いありません」
「な、なんだって!? お、オレにスキルがあったっていうのかよ? しかも、お菓子づくりに役立つ…? そ…そんな…」
「ゴブおじ…ショックですの? わからなくもありませんわ…? 結局、だいぶ微妙なスキルですものね」
「しょ、ショックなのかな…。イマイチよくわかんないよ。でも…でも、おおおお! オレにもスキルがあったあ! スキルがあったあ!」
「ラフロイグの姉キ! これ、麻薬か何か入ってんじゃないの!? このうまさは中毒になっちまうよ…。今夜、禁断症状で震えて眠る事になるかもしれない…」
「なるほど。お前たちのような子供の舌には、アイスクリームはまだ早すぎたようだ」
「一体、何種類用意されましたの? 3日間で全部食べ切らなければ…」
「あ、あたしも、お客さんのところに持っていく途中に、うっかり食べちゃわないように気をつけなくっちゃ…」
「カリラはラフロイグさんじゃなくておじさんの給仕でしょ。アイスクリームを運ぶことはないから安心していいと思うよ。それに、そろそろ、おじさんのところにもどりなよ。ドーナッツを待ってるお客さんが沢山いるみたいだよ」
「おっと、そうだった! じゃあね! オバサン、姉キ、エレン!」
「やれやれ、みなさん騒がしいですね。まあ、楽しそうでなによりです」
「キルホーマンか」
「いよいよ始まりましたが、出足はいかがですか?」
「悪くない。最初こそ警戒されたが、ひとり食べればそこから口コミで広がるからな。勝敗のポイントは、この新機軸のスイーツがどこまで広く受け入れられるのか、および、一度食べた客がリピートしてくれるか、だ。3日間あるからな」
「さすが、ラフロイグさんは冷静に状況を判断されていますね」
「バリエーションも潤沢に用意した。プレーンは単価を下げ、その他のフレーバーは割高にしてある」
「低価格のプレーンで客を釣って、そこから利益率の高い他のバリエーションにアップセルしていく、というわけですね」
「キルホーマン、お前には商才があるようだ」
「ご武運を祈っておりますよ」
「ゴブおじ、また腕を上げましたのね、もぐもぐ。前に頂いた時よりも、ずっとおいしくなってますわ、ぱくぱく。表面カリッの中はモチッですのね、むしゃむしゃ。チョコレートがかかったのも異常なおいしさですわ。このデニッシュみたいな生地のドーナッツも大変香ばしいですし…クリームが挟んであるやつは最高ですわ! むしゃむしゃ」
「ちょっとオバサン、食べ過ぎ。デブになっても知らないよ?」
「というカリラちゃんだって、もう5つ目じゃねーですの?」
「へへ…。あたし、この表面に砕いたナッツをまぶしてあるやつが気に行っちゃったよ。ドーナッツってこんなにおいしい食べ物だったんだね」
「いや~、気に入って貰えてよかったよ。この街で色々な素材が手に入ったし、なによりカフェの店主の秘伝レシピがあるからね。客足もおかげで絶えないし。まあバリエーションについては、ラフロイグちゃんのアイデアを参考にしたとは口が裂けても言えないけれどね」
「オジサン、まじでこのドーナッツ、最高だよ! こりゃ、姉キとどっちが勝つかわからなくなってきたな…」
「さあさあカリラちゃん、お客さんを待たせちゃ悪いから、出来上がったドーナッツからどんどん持って行ってよ。あと紅茶もわすれずにね」
「はいはい、精一杯はたらいてやるから、見てなって」
「ラガヴーリンさんも堅調のようですね」
「おっ、キルホーマン。オレの新作ドーナッツ食べてくれた?」
「後ほどいただきますよ。ところで、ラガヴーリンさんの屋台では紅茶をセットにして出しているのですね」
「ドーナッツはどうしても口の中がパサパサになっちゃうからね。ドーナッツの値段に少しだけ上乗せして、セットにしてるんだ」
「なるほど、紅茶のおかげでドーナッツが食べやすくなるし、何より口なおしになるから、2個3個とドーナッツを食べられる、という寸法ですね」
「ドーナッツは口の中が甘くなっちゃうしね。そういえばラフロイグちゃんの屋台でも紅茶を出しているけれど、別売だろ? アイスクリームと紅茶ってどうなんだろうね?」
「口の中が極端に冷たくなりますから、熱い紅茶は悪いとりあわせではないと思いますよ」
「そんなものなのかねえ…」
「ん? あら? キルホーマン、ちょっと来て下さる? あれれ? ですわ!」
「おや、お嬢様、どうされました?」
「あたくし、さっきアイスクリームを食べた時に一緒にいただいたラフロイグさんの紅茶と、ゴブおじにいただいた紅茶を飲んでいたんですけど…。ちょっと、キルホーマンも飲み比べてみてくださる?」
「飲み比べ…ですか。なにか、気になる事でも?」
「いいから、飲んでみてくださいまし」
「そうですか…。では、失礼して、カップに口をつけさせていただきますね。まずは、ラフロイグさんの紅茶から…。なるほど、いい香りですね。で、次にこっちがラガヴーリンさんの紅茶ですか…。ふむ…なるほど…。確かに。お嬢様がおっしゃりたい事が、わかりました」
「でしょ!? ですわ!」
「なんだいなんだい? どうしたんだい? 二人とも」
「ラガヴーリンさんは、紅茶に何か特別な香辛料を入れたりとか、工夫をされていますね?」
「紅茶に香辛料だって? おいおい、そんな事するわけないだろ? 紅茶の香りが殺されちゃうもの」
「ふむ…そうですか。それは妙ですね…」
「妙って…いったいなんだよ、気になるじゃんかよ!」
「正直に言いますと…少なくとも私の舌と鼻腔で味わった限りですと、ここだけの話、ラフロイグさんの紅茶よりもラガヴーリンさんの紅茶の方が、明確においしいのです」
「え? オレの紅茶が? ラフロイグちゃんより? そ、そうなのかい?」
「あたくしもキルホーマンと同意見ですの。ゴブおじの紅茶の方が、ずっとおいしく感じますわ…」
「うれしいこと言ってくれるじゃないの。でも、なんでなんだろう? オレとラフロイグちゃんは同じ茶葉を仕入れていると思ったんだけどな。ラフロイグちゃんの淹れ方が下手なのかな?」
「そう言えば…。ラガヴーリンさん、ちょっと気になったのですが、さきほどからドーナッツや紅茶を作り終わった後に、何か特殊な仕草をされていますよね。あれは何か意味があるのでしょうか?」
「仕草? ああ、この仕草かい? 意味はないよ。以前は、この動作をするとオレのスキルが発動して、甘い食べ物が、もう少しだけ甘くなると思ってたんだけれどね」
「甘いものが、さらに甘く…。やはり妙です。ラガヴーリンさんの屋台の紅茶と、ラフロイグさんの屋台の紅茶は、どちらもお二人が同じ商店で仕入れてきたもの。お二人の力量が同じだとすると…ラガヴーリンさんの紅茶の方が明らかにおいしい事の説明がつかないのです。カップは主催者が用意したものですから、同じですし…。何が違うのでしょう? やはり淹れ方でしょうか。抽出時間? 温度? しかし、そんなに差がでるものでしょうか…。ここは、実験をしてみる必要がありそうです。ラガヴーリンさん、紅茶をもう一杯淹れていただけますか? それとお嬢様、お手数ですが、ラフロイグさんの紅茶も、新しく一杯もってきていただけますか?」
「実験? どうやってやるんだい?」
「ラガヴーリンさんの紅茶とラフロイグさんの紅茶を並べて、私のスキルで各種のパラメータを比較します。そうすれば、何が違うのか、はっきりとわかるはずですからね…」
「ふうん。オレは別に、何かが違うとは思わないけれどなあ。ほら、もう一杯淹れたよ」
「キルホーマン、あたくしも、ラフロイグさんの紅茶を新しくお持ちしましたわ」
「お二人とも、ありがとうございます。では、調べていきますか…。まずは、温度…ではありませんね。お湯の量…も大差ありません。茶葉以外の成分…の違いもない…。では一体…」
「ドーナッツとの組み合わせでおいしく感じているのかもしれないよ?」
「その可能性も否定できませんが…」
「ゴブおじ、あたくしもキルホーマンも、さきほど紅茶単体で味わって差を感じましたのよ? ですから、紅茶自体に違いがあると思いますの」
「そ、そうかい…」
「…ん? このパラメータには明らかな差がありますね」
「キルホーマン、何か違いがありましたの?」
「ええ…。この数値は…ああ、やはり、香りですか。香りのパラメータに大きな差がありますね」
「香り…ですの?」
「その通りです。どうやら、ラガヴーリンさんの紅茶の方が、強く香っているようです。なるほど、だからドーナッツを買ったお客が、紅茶の香りに引き寄せられて、2個目3個目の購買活動を行うのですね」
「香りねえ…。でも、オレ別に何も特別な事やってないぜ? 茶葉の分量を増やしたり、とかもしてないし」
「ラガヴーリンさん、お手数ですが、私の前で、もう一度、手順を追って紅茶を淹れてみていただけますか?」
「う、うん。構わないよ。まず、ポットにお湯を張るだろ? そこに茶葉を適量入れて、しばらく蒸らす、と。それから茶葉をポットの中で踊らせるようにマドラーでかき混ぜた後に、雑味が出る前に茶葉を濾す。カップの方は先にお湯で温めておくんだ。で、ゆっくりと注ぐ…と」
「あら、いい匂いですわね」
「確かにいい匂いです。でも、この段階ではまだ香りの数値はラフロイグさんの数値とあまり違いがありません。ではラガヴーリンさん、次に、先ほどの動作をやっていただけますか?」
「なんか、改めてやれ、と言われると恥ずかしいな。おまじないみたいなものだからさ。ええと、ほら、こんな感じだよ」
「…なるほど…」
「ど、どうですの? キルホーマン」
「…これは驚きました。ラガヴーリンさんがその動作をすると、紅茶の香りのパラメータが急上昇していきます」
「ええ? こ、この動作でかい? そんなバカな」
「いえ、間違いありません。その動作がきっかけになっています」
「動作が…ですの? それって、どういう事ですの?」
「ラガヴーリンさん、よくきいてください。あなたは『自分にはスキルがない』とおっしゃいました。でも、どうやらそれは大きな間違いのようです。そもそも『甘いものをさらに甘くするスキル』が勘違いだったんです。ラガヴーリンさん、あなたのスキルは『食べ物や飲み物の香りを増幅する事ができる』スキルに違いありません」
「な、なんだって!? お、オレにスキルがあったっていうのかよ? しかも、お菓子づくりに役立つ…? そ…そんな…」
「ゴブおじ…ショックですの? わからなくもありませんわ…? 結局、だいぶ微妙なスキルですものね」
「しょ、ショックなのかな…。イマイチよくわかんないよ。でも…でも、おおおお! オレにもスキルがあったあ! スキルがあったあ!」
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