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第6章:ほら、あたくし、もう厚化粧じゃなくってよ!
第4話
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「お嬢様、おはようございます」
「あ…アイラちゃん、おはよう」
「ふわわ…。おはよう、ですわ、キルホーマン、ゴブおじ。みなさんお早いですのね」
「お姉さん、昨夜は何も食べていないでしょう? 体調は大丈夫ですか? お腹すいていませんか?」
「オバサン、さすがに連続してスキルを使うほど、あたしもバカじゃないからね。自分の体調は自分でなんとかしなよ」
「わ、わかってますわよ…。今朝は、もう大丈夫ですから…。朝食を、頂戴しますわ」
「そうか。それはめでたいが、厚化粧、話がある。空腹を満たしてお前の頭が働かなくなる前にな」
「なんですの? ラフロイグさんが、めずらしいですのね。せめて、紅茶を飲みながら、お伺いしますわ」
「喜べ。お前のスキルが人のために役立つ時がきたぞ」
「あ、あたくしのスキル…ですの? いきなり、どういう事ですの?」
「博物館のあの女神の体を、俺が頂く事にした。学芸員には、キルホーマンを経由して話を通してある」
「ぶっ! こ、紅茶吹いてしまったではないですの!」
「いえ、まだ決まった訳ではないんです。やるとしても、お嬢様の合意が必要ですからね…。確かに学芸員の方には、仮説としてお話をしましたが、私自身、まだ乗り気ではないんですよ」
「そんな事、博物館が許可するとは思えませんですわ」
「お前のその頭でも理解できるように簡潔に話してやろう。まず、ヤツらにとって、人形である俺は、そもそも有意な研究対象だ。さらに、人形から女神に乗り移るのも有意な研究対象だ。そして、女神の体を手に入れた暁には、俺は自分の言葉で、女神の来歴を語れるかもしれん。複数の謎が一度に解決するわけだ。ヤツらが、その機会を逃すはずがなかろう」
「で…でも、乗り移る事なんて、本当にできるんですの? カリラちゃんの時と同じようにやろうと言うのであれば、それは難しくってよ。カリラちゃんと違って、あの女神には、そもそも魂が宿っていませんもの」
「なるほど。厚化粧もただの愚か者ではないようだ。この際、心身二元論の蓋然性について議論するのは不毛だろう。理解しておくべきは『魂がないからこそ、俺が入り込む余地がある』ことだ」
「それは…そうかもしれませんけれど。でも、方法がありませんわ」
「ほう、そう思うのか」
「だって…あの女神の夢の中には入れませんもの」
「なるほど。では問おう、誰があの女神の夢の中に入れ、と言った?」
「ど、どういう事ですの? 女神の夢でなければ、どなたの夢に入ればいいんですの? ああっ…! ま、まさか…ですわ…」
「気づいたようだな。その通りだ。お前が入るべきは、女神の夢ではない。俺の夢の中だ」
「ラフロイグさんの夢の中…。でも、それだけでは女神の体と紐づけをする事が…できませんわ…」
「道理だ。だが、俺の夢の中に入ると同時に、あの女神の夢の中にも入れば、状況は変わる」
「同時に2人の夢の中に入るですって? 待ってくださいまし、2人の夢に入った事なんかありませんし、そもそも女神の夢の中には…」
「入れない、と言いたいのか。であれば、お前の想像力の欠如を指摘せねばなるまい」
「ラフロイグさん、私にも、その理屈が理解できていません。お嬢様のスキルでは、同時に2名の夢には入れない筈です」
「ふん。どいつもこいつも、といった体だな。難しい事ではない。まず、厚化粧、お前は、俺の夢の中に入る。俺は、女神の夢を見る。俺の夢の中では、生きた女神が徘徊しているわけだ。お前はさらに、俺の夢の中の女神の夢の中に入る。その夢の中で、女神の体と俺の体を入れ替えてお前の仕事は終了だ」
「そんなことが…可能ですの? 夢の中に、思ったように女神を登場させるなんて…」
「できる、できないについて話していない。やるか、やらないか、だ」
「い…いやですわ…。そんな事にスキルを使うなんて…。あたくしだって無事で済むかどうかわからないですし…あたくしに、何のメリットもありませんわ」
「ほう…そうか…。だが、拒否してしまっていいのか? 厚化粧。いや『殺人鬼』と呼ぶべきか」
「ななな…なんですって!?」
「おい! さすがにそれは、オレも許せないぞ!」
「ゴブリンは黙っていろ。俺が何も知らないとでも思ったのか」
(アイラちゃん、昨日の話、聞かれていたのかな…)
(わかりませんわ…。攻撃魔法以外にも、遠くの音を聞くスキルを持っているのかもしれませんわ…)
「オ…オバサン、人を殺したことがあるの? …ドン引きなんですけど…」
「ラフロイグさん、私も、その話を平場で出す事は、到底容赦できませんよ。いくら、あなたに強力な攻撃魔法のスキルがあるとしても…」
「ほう、キルホーマンよ。お前がそれを言うのか。まあいいだろう。だが、これ以上、俺を煩わせるな。そもそも、お前のような乳臭い娘に、この手の交渉カードを切るつもりはない。お前にとっても、悪い話ではない筈だ。お前が殺した女が、生き返るかもしれないのだからな。さあ、自分の立場が理解できたのなら、首を縦に振るんだな」
「…な、なんてことですの…」
「今、ここで判断しろ。お前に時間を与えるつもりはない」
「…わ…わかりましたわ…」
「…お嬢様…」
「でも、あなたを女神の体に移せる保証はありませんから、それは理解してくださいましよ」
「…よかろう」
「あと、ゆめゆめお忘れにならないでくださいな。夢の中では、あたくしにかなう方は誰もいませんから」
「…覚えておこう」
「あ…アイラちゃん、おはよう」
「ふわわ…。おはよう、ですわ、キルホーマン、ゴブおじ。みなさんお早いですのね」
「お姉さん、昨夜は何も食べていないでしょう? 体調は大丈夫ですか? お腹すいていませんか?」
「オバサン、さすがに連続してスキルを使うほど、あたしもバカじゃないからね。自分の体調は自分でなんとかしなよ」
「わ、わかってますわよ…。今朝は、もう大丈夫ですから…。朝食を、頂戴しますわ」
「そうか。それはめでたいが、厚化粧、話がある。空腹を満たしてお前の頭が働かなくなる前にな」
「なんですの? ラフロイグさんが、めずらしいですのね。せめて、紅茶を飲みながら、お伺いしますわ」
「喜べ。お前のスキルが人のために役立つ時がきたぞ」
「あ、あたくしのスキル…ですの? いきなり、どういう事ですの?」
「博物館のあの女神の体を、俺が頂く事にした。学芸員には、キルホーマンを経由して話を通してある」
「ぶっ! こ、紅茶吹いてしまったではないですの!」
「いえ、まだ決まった訳ではないんです。やるとしても、お嬢様の合意が必要ですからね…。確かに学芸員の方には、仮説としてお話をしましたが、私自身、まだ乗り気ではないんですよ」
「そんな事、博物館が許可するとは思えませんですわ」
「お前のその頭でも理解できるように簡潔に話してやろう。まず、ヤツらにとって、人形である俺は、そもそも有意な研究対象だ。さらに、人形から女神に乗り移るのも有意な研究対象だ。そして、女神の体を手に入れた暁には、俺は自分の言葉で、女神の来歴を語れるかもしれん。複数の謎が一度に解決するわけだ。ヤツらが、その機会を逃すはずがなかろう」
「で…でも、乗り移る事なんて、本当にできるんですの? カリラちゃんの時と同じようにやろうと言うのであれば、それは難しくってよ。カリラちゃんと違って、あの女神には、そもそも魂が宿っていませんもの」
「なるほど。厚化粧もただの愚か者ではないようだ。この際、心身二元論の蓋然性について議論するのは不毛だろう。理解しておくべきは『魂がないからこそ、俺が入り込む余地がある』ことだ」
「それは…そうかもしれませんけれど。でも、方法がありませんわ」
「ほう、そう思うのか」
「だって…あの女神の夢の中には入れませんもの」
「なるほど。では問おう、誰があの女神の夢の中に入れ、と言った?」
「ど、どういう事ですの? 女神の夢でなければ、どなたの夢に入ればいいんですの? ああっ…! ま、まさか…ですわ…」
「気づいたようだな。その通りだ。お前が入るべきは、女神の夢ではない。俺の夢の中だ」
「ラフロイグさんの夢の中…。でも、それだけでは女神の体と紐づけをする事が…できませんわ…」
「道理だ。だが、俺の夢の中に入ると同時に、あの女神の夢の中にも入れば、状況は変わる」
「同時に2人の夢の中に入るですって? 待ってくださいまし、2人の夢に入った事なんかありませんし、そもそも女神の夢の中には…」
「入れない、と言いたいのか。であれば、お前の想像力の欠如を指摘せねばなるまい」
「ラフロイグさん、私にも、その理屈が理解できていません。お嬢様のスキルでは、同時に2名の夢には入れない筈です」
「ふん。どいつもこいつも、といった体だな。難しい事ではない。まず、厚化粧、お前は、俺の夢の中に入る。俺は、女神の夢を見る。俺の夢の中では、生きた女神が徘徊しているわけだ。お前はさらに、俺の夢の中の女神の夢の中に入る。その夢の中で、女神の体と俺の体を入れ替えてお前の仕事は終了だ」
「そんなことが…可能ですの? 夢の中に、思ったように女神を登場させるなんて…」
「できる、できないについて話していない。やるか、やらないか、だ」
「い…いやですわ…。そんな事にスキルを使うなんて…。あたくしだって無事で済むかどうかわからないですし…あたくしに、何のメリットもありませんわ」
「ほう…そうか…。だが、拒否してしまっていいのか? 厚化粧。いや『殺人鬼』と呼ぶべきか」
「ななな…なんですって!?」
「おい! さすがにそれは、オレも許せないぞ!」
「ゴブリンは黙っていろ。俺が何も知らないとでも思ったのか」
(アイラちゃん、昨日の話、聞かれていたのかな…)
(わかりませんわ…。攻撃魔法以外にも、遠くの音を聞くスキルを持っているのかもしれませんわ…)
「オ…オバサン、人を殺したことがあるの? …ドン引きなんですけど…」
「ラフロイグさん、私も、その話を平場で出す事は、到底容赦できませんよ。いくら、あなたに強力な攻撃魔法のスキルがあるとしても…」
「ほう、キルホーマンよ。お前がそれを言うのか。まあいいだろう。だが、これ以上、俺を煩わせるな。そもそも、お前のような乳臭い娘に、この手の交渉カードを切るつもりはない。お前にとっても、悪い話ではない筈だ。お前が殺した女が、生き返るかもしれないのだからな。さあ、自分の立場が理解できたのなら、首を縦に振るんだな」
「…な、なんてことですの…」
「今、ここで判断しろ。お前に時間を与えるつもりはない」
「…わ…わかりましたわ…」
「…お嬢様…」
「でも、あなたを女神の体に移せる保証はありませんから、それは理解してくださいましよ」
「…よかろう」
「あと、ゆめゆめお忘れにならないでくださいな。夢の中では、あたくしにかなう方は誰もいませんから」
「…覚えておこう」
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