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酷似
しおりを挟む二十年の月日が流れた。木村努は、庭から発見された暴力団幹部、原口将人(40)の殺人事件を担当していた。
組幹部の原口は新宿にある、住居兼事務所で、妻の奈津(29)と舎弟の渡辺英之(26)、岩崎真治(32)の三名と同居していた。
【渡辺の供述】
いつも早く起きて来る原口の姿がなかったので、まだ寝ているのかと思い、事務所を覗いた。居なかったので、二階の寝室で寝ているのだと思い、朝食の支度を始めた。ついでにガレージを覗き、自家用車の有無も確認した。この時、玄関の鍵は掛かっていなかった。その間、原口が遅くまで飲んでいて散らかした事務所のテーブルの上を岩崎が片付けた。
昼近くになっても起きて来ないので、不審に思い、原口の寝室のドアをノックしたが、返答がなかった。社長、開けますよ。と声を掛けてドアを開けると、原口の姿はなく、ベッドで寝た形跡もなかった。腑に落ちなかったので、早朝に出掛けたのかと思い、靴を調べたが数は揃っていた。取り合えず、心当りに電話をしてみたが、どこにも居なかったので、仕方なく、警察に届けた。
「昨日の行動を訊こうか」
努が煙草に火を点けながら渡辺を見た。
「昨日は土砂降りだったので、一日中部屋にいました。食事を作るために、部屋を出た程度です」
「食事当番か?」
「はい。十代の頃、板前の修行をした経験があるので、料理は得意です」
渡辺は自慢気な表情をした。
「原口も一緒に食べたのか?」
「はい。岩崎の兄貴と三人で食べました」
「夕食の後は?」
「部屋で兄貴とテレビを観てました」
「原口は?」
「社長は、事務所で酒を飲みながらテレビを観てました」
「その後は?」
「十時頃、兄貴が寝たので、俺も寝ました」
「夜中、何か物音はしなかったか?」
「土砂降りだったので、雨の音しか……」
渡辺は目を伏せて答えた。
「原口の死体が庭から出てきて、どう思った?」
努は煙たそうに、煙草を銜えながら訊いた。
「そりゃもう、びっくりしました」
渡辺が切れ長の目を精一杯見開いた。
「誰に殺られたと思った?」
「さあ……見当もつきません」
目を逸らして俯いた渡辺に、狼狽のようなものが窺えた。
「話は変わるが、さっきから原口の女房が一度も登場してないが、何でだ?」
「姐さんは、数日前から風邪気味で、薬を飲んで自分の部屋で寝てました」
「いくら風邪気味だからって、旦那の姿がないって言うのに、声も掛けなかったのか?」
「姐さんから言われてたんです。何があっても起こさないようにと。だから、食事も決まった時間にドアの前に置いてました」
「女房と一緒に居るとは思わなかったのか?」
「それは絶対ないです。もう何年も前から寝室は別でしたから」
渡辺は、そう断言した後、奇妙な含み笑いをした。岩崎の供述も概ね同じだった。
この事件の手口は、二十年前に起きた未解決事件に酷似していると、努は思った。
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