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庭
しおりを挟む――それは、土砂降りの日の翌日だった。奈津は客間から横目で庭を確認し終えると、冷蔵庫に入った商売用の食材で、旨い料理を作って食べた。直ぐに出掛け、のりちゃんとゴムとびをして遊ぶと、昼食に戻って来て、再び旨い料理を作って食べた。昼食を済ませると、のりちゃんとマリつきをして遊んだ。帰って来ると、冷蔵庫に残っている最後の食材で旨い料理を作って食べた。冷蔵庫の高級食材が空っぽになると、いよいよ、演技を始めることにした。
先ず、千草と入魂だった近所に住む永井美也子の家を訪ねた。
「ちぐさのおばちゃんがおらんと」
今にも泣きそうな顔をした。
「おらんて、いつからね?」
「……朝から」
「なんで、すぐ言わんかったと?」
「……帰ってくると思たけん」
「困ったね。どぎゃんするか……取り合えず部屋ば見てみるかね」
美也子は大儀そうにサンダルを履いた。
美也子は四十半ばだろうか、長身で痩せていた。
伴侶を亡くしてからは、編み物教室を営って生計を立てていた。
美也子は、客間兼寝室の押入れの中や庭を見終わると、結局、通報することにした。
――やがて、庭に埋められた千草の絞殺死体が発見された。――
「二階でなんばしとったと?」
将棋の駒のような輪郭の松井という刑事は、奈津にそう訊きながら、ポマードをべっとり塗った七三分けの頭を人差し指で掻いた。
「一人で遊んどった」
「なんばして?」
「……輪ゴムばつなげたり、三つ編みしたり」
松井は、奈津の長い髪に目をやった。
「昨日の夜、下で、なんか物音は聞こえんかった?」
「雨の音しか聞こえんかった」
確かに、昨夜は土砂降りだった。
「玄関の鍵は掛かっとった?」
「のりちゃんちに行くときはかかっとらんかった」
「友達ね?」
「うん」
「起きた時、女将さんはおらんかったとやろ?」
「うん」
「どぎゃん思た?」
「出かけてると思った」
「ご飯はどぎゃんしたと?」
「自分で作って食べた」
「偉かね。自分で作れっとね?」
「お父ちゃんに教えてもろたけん」
「そげんね。……女将さんが帰ってこんで、どぎゃん思た?」
「……なんか、うれしかった」
奈津のその言葉に、松井は咄嗟に調書を執っている吉田を見た。
「なんで、嬉しかったと?」
「自分ばっか、うまいもんば食べて――」
「イジメられたとか?」
奈津が頷いた。
動機はあるものの、仮に千草が寝込んでいたとしても、九歳の女の子が大人を殺すのは不可能だと、松井は結論付けた。
暫くの間、美也子に預かって貰った奈津は、迎えに来た義明に連れて行かれた。――
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