おらの母ちゃん

紫 李鳥

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おらの母ちゃん

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「おっかあ、痛てぇよー」

「このぐれぇ我慢しな」

「我慢できねぇ」

「タコ! 男だべぇ」

「だども、痛てぇもん」

「もうちっとだ」

「痛ッでぇーよー!」

「それを我慢するのが男だべぇ」

「おっ母ー、痛てぇー」

「もうちっとだ」

「痛ッでぇー!」

「ほら、抜けた」

「……ふぁ~」

「割り箸のトゲが刺さったぐれぇでジタバタすんじゃねぇ。大袈裟な」

「だども、痛てぇもんは痛てぇべぇ」

「あ~あ、情けねぇ。おとうが生きてたら、なんて言うべかね……」

「オンギャァ~オンギャァ~」

「おっ母、次郎が泣き出した」

「ほれほれ、泣くことねぇべ」

「おむつがぬれてんだよ、きっと。おらの勘だと」

「そうだべか……、どれ。あら、そうだわ。おめぇはこう言うとこだけ勘が働くな。……ヨチヨチ、気持ち悪かっただか? いま、おしめ取り替えてやっからな」

「オンギャァ~オンギャ~」

「ほら、うどんが伸びちゃうよ。二人ともさっさと食べちまいな」

「母ちゃん、あんちゃんがイモとった」

「とってねぇべ、もらったんだべ」

「男のくせに屁理屈言ってんじゃねぇ。加代子をいじめるとおっ母が承知しねぇぞ。おめぇのいかリングを一つやれ」

「チェッ、しょうがねぇな。ほらよ」

「あんちゃんが、たべのこしたのくれた」

「太郎、ちゃんとしたのをやれ。ケチってんじゃないよ、男のくせに」


 おらの母ちゃんは、なんかって言うと、“男のくせに”って言う。おらぁ、そのたんびに男に生まれてきて損したなぁと思う。妹みてぇに女に生まれてきてたら、おっ母に可愛がってもらえたのになぁと、いつも思ってた。

 けど、おっ母はスゴい。末っ子の次郎をおんぶすると、加代子を前に、おらを後ろに乗せて、自転車で学校まで送ってくれる。

 大根を買うときも、八百屋のおじさんがいつも捨ててる大根の葉っぱももらってくる。豆腐屋でもそうだ。木綿豆腐を一丁買ったついでに、豆腐屋のおじさんがいつも捨ててるおからももらってくる。ただでもらったそれらに人参や油揚げを混ぜて、立派なおかずにする。

 次郎が生まれてすぐにお父が仕事の事故で死んでからは、おっ母は電化製品を作る工場で流れ作業をしながら、女手一つでおらたち三人を育ててくれてる。

 “男のくせに”と言われるたんびに、女に生まれてくりゃよかったと思うけど、男でなければできないこともある。この頃は、そう思ってる。

 おっ母と加代子と次郎を守ってやれるのは、長男のおらしかいない。わが家の大黒柱になって、おっ母たちを幸せにしてやるんだ!


 おわり
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