ポン太の墓参り

紫 李鳥

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ポン太の墓参り

しおりを挟む
 

 ぽんぽこ山にやって来たポン太。

 木陰でひと休みすると、麦わら帽子を脱いで、首に巻いたタオルで汗を拭いた。

「ふ~。今年は一段と暑いな」

 ペットボトルの水を飲むと、また歩き出した。片手に小玉スイカをぶら下げて。


 小川のほとりにある小さな洞穴ほらあなには、ポン太の父ちゃんと母ちゃんが眠っている。

「母ちゃん、墓参りに来たよ」

『おー、ポン太、よう来てくれたな』

「母ちゃんの好きなスイカ持ってきたよ」

『何?よく聞こえねぇ』

「ス・イ・カ」

『なんだおめぇ、人間に化けて電車乗ってんのか』

「そっちのSuicaじゃねぇ。食べるほうのスイカ」

『おう、母ちゃんの大好物、よく覚えててくれてたな』

「いま、川で冷やしてっから、あとで食べてくれ」

『ありがとの。父ちゃんと一緒に食べるよ』

「父ちゃんは?」

『いびきかいて昼寝中』

「そっちで父ちゃんと仲良く暮らしてくれりゃ、それで安心だ」

『なんも。さっきもケンカしたばっかだ』

「なんで」

『ポン太が早く結婚してくれたらいいなって言ったら、そんなに焦らせるなって。アイツが自分で見つけるまで待てって言うから、生きてるうちに孫の顔が見たいって言ったら、バカ、俺たちはもう死んでんだよって言うから、信じられないって言ってケンカしたの。ポン太、母ちゃん、死んだのか?』

「……ああ。けど、こうやって話ができるから死んだとは思えねぇ」

『だろ?母ちゃんもその派なのよ。ま、ポン太がこうやって会いに来てくれるだけで母ちゃんは幸せだよ』

「そう言ってもらえてうれしいよ。じゃ、そろそろ帰るから」

『もう、帰るのか?父ちゃん、起きて!ポン太が帰るって』

『おー、ポン太。かわいい嫁さんだな』

「えっ?」

『父ちゃんには見える。かわいい嫁さんがめんこい子を抱っこしてる光景が』

「……父ちゃん」

『母ちゃんにも見えるよ。目の錯覚かもしれねぇが、めんこい子をおんぶしてるおめぇの姿が』

「……母ちゃん」

 ポン太は、父ちゃんと母ちゃんに真実を言えなかった。




 ……嫁さんにしたのは、キツネのコン子だと言うことを。

「あなた。お墓参りできてよかったわね」

 息子のポン助と手をつないだコン子が言った。

「ああ。けど、君のことを紹介できなかった」

「いいのよ、気にしないで。でもご両親には見えてたみたいね、私の姿が」

「みたいだな」

「タヌキに化けたまではよかったけど、姿を消すのは、まだまだみたい」

「かあちゃん、はやくおうちにかえろ」

 ポン助がコン子の手を引いた。

「ええ、帰りましょうね」

「……ちゃんと紹介してやれなくて悪かったな」

「ううん。気にしないで。言いづらいのはよく分かるもの。でも、こうやって、あなたと結婚できて幸せよ」

「……コン子」





 家族は、蝉時雨せみしぐれのぽんぽこ山を下りて行った。――そんな、お盆のひとこまでした。



 おわり
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...