鬼子と雷さん

紫 李鳥

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鬼子と雷さん

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 むかしむかし、ある山に、鬼子という、鬼の女の子がいました。

 鬼子は、お母さんとお兄さんと三人で暮らしていました。

「ね、お母ちゃん。お父ちゃんにはいつ会えるの?」

 夕飯の支度をしているお母さんに聞きました。

「そうね、鬼子のツノがお兄ちゃんぐらいになったら会えるわよ」

 里芋を洗いながら、お母さんが言いました。

「……いつになったら、お兄ちゃんぐらいになるの?」

「お兄ちゃんの歳になったらね」

「ふ~ん。はやくお兄ちゃんぐらいにならないかなぁ」

「……もうすぐなるわよ」




 そんなある日。

 鬼子が散歩していると、タケノコがいっぱい生えてるところに来ました。

「あれぇ、わたしのツノに似てる。……アッ、そうだ!」

 鬼子に、何やらいいアイデアが浮かんだようです。



「んと、これもちがう。――これは大きすぎる。――ああ、これはちっちゃすぎる」

 ニョキニョキ出た小さなタケノコを片っぱしから折って、自分のツノに刺していました。

「アッ、これだ!」

 ぴったりのサイズを見つけたようです。

「わーい、わーい。これでお父ちゃんに会える」

 鬼子は急いでおうちに帰りました。




「お母ちゃん、お兄ちゃん、見て、ツノがのびたよ。お父ちゃんに会えるでしょ?」

「プッ! ふっふっふ……」

「ガッハッハ!」

 お母さんとお兄さんは、ツノにタケノコを刺した鬼子を見て、大笑いしました。

「…………」

 鬼子は悲しくなりました。



 鬼子は泣きながらおうちを出ると、さっきのタケノコのところに来ました。

「フン。なによ、こんなもの」

 鬼子はツノに刺していたタケノコを投げつけました。

 すると、風もないのに突然、たくさんの長い竹が揺れ始め、ガサガサと葉音を立てました。

 鬼子がビックリして見上げると、

「しくしく……なんとひどいことをなさるのじゃ。わたくしの大切な子どもたちを……」

 女の人の泣き声がしました。

「……あなたはだぁれ?」

「わたくしは、そなたが折った、たくさんのタケノコのお母さんです」

「エッ!」

「そのような心なき子はこうしてやる」

 タケノコのお母さんはそう言って、竹をしならせると、その先っちょに鬼子を乗せ、

 ピューーーーーン!

と、どこかに弾き飛ばしました。


「キャーーーッ!」

 鬼子は、スキージャンプ選手のように空を飛んでいます。







「おっとぉ」

 ひょいと抱っこしてくれたのは、雲の上であぐらをかいていた雷さんでした。

「……あなたはだぁれ?」

「ん? わしか? わしは雷じじいというもんじゃ。ゴロゴロ、ピカピカのあれじゃ」

「……うけとめてくれて、ありがとう」

「なになに、話し相手がおらんで、退屈しとったんじゃ。この時期はわしの出番が滅多にないからの。話し相手になってくれるかのぅ?」

「うん、いいよ」

「ほら、わしの横に座って。どうじゃ、雲の座布団はフカフカじゃろ?」

「うん、フカフカ」

「ところで、どこから飛んで来たんじゃ?」

「……あのねぇ」




 鬼子は、タケノコのお母さんに飛ばされたことを話しました。

「ガッハッハッハ!」

「わらわないでぇ……」

「すまん、すまん。だが、タケノコのお母さんに怒られて当然だな」

「……だって、お父ちゃんに会いたかったんだもん」

「鬼子ちゃんの気持ちも分からんじゃないが、タケノコのお母さんの気持ちも分かるじゃろ?」

「……うん」

「鬼子ちゃんがお父さんを恋しがるように、タケノコのお母さんだって、我が子は可愛いもんじゃ」

「……ん」

「それに、嘘は良くないよ。タケノコはツノにはなれん。どんなに誤魔化しても、すぐにバレてしまうものじゃ。

 偽りのものは、それだけの値打ちしかない。それも、何かの犠牲で成り立っているんじゃ。

 鬼子ちゃんが良かれと思ってしたことが、タケノコのお母さんを悲しませる結果になってしまったんじゃからなぁ」

「……ん」

「ま、いい勉強になったじゃろ?」

「うん、なったぁ」

「そうやって、大人になって行くんじゃ」

「うん」

「タケノコのお母さんに謝らないとなぁ」

「うん、あやまる。ね、かみなりさんはどうして、ツノが一本しかないの?」

「ん? うむ……一本気だからじゃ。ガッハッハッハ」

「うふふ……」

 雷さんとお話ができて良かったと、鬼子は思いました。

「ね、ね。わたし、どうやっておうちにかえるの?」

「いま、階段を作ってあげよう」

「かいだん? ……どんなかいだん?」

「いまから、ご披露するよ」

 雷さんはそう言うと、おへそのあたりを指先でこすりました。すると、




 ゴロゴロ!
 ピカピカ!

 雷の音とともに、稲光が現れました。

「ほら、階段だよ」

 それは、ピカピカ輝く、オレンジ色の階段でした。

「わぁ~、まぶしい」

「これなら足元が明るいから、落っこちることはない。これを下りると、おうちに着くよ」

「かみなりさん、ありがとう」

「また、いつでも遊びにおいで。空を見上げて、おへそをこすったら、稲光の階段を作ってあげるよ」

「うん、ありがとう。さよなら」

「さよなら。気をつけてな」

 鬼子はギザギザの稲光の階段を下りて行きました。




 雷さんは、鬼子が階段を降りきるまで、雲の上からずーっと手を振っていました。





 そして、鬼子が降りきると、稲光の階段は消えました。




 鬼子は思いました。ツノは一本しかないけど、なんか、お父さんみたいな、おじいさんみたいな雷さんに、また会いに行こうと。







 おわり
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