ケン太とチュン太

紫 李鳥

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「……出発するって、どうやって?」

「ボクの背中に乗るんです」

「そんなことしたら、キミが潰れちゃうだろ?」

「さあ、どうかな? 試しに乗ってみて」

「ほんとにいいのか?」

「早く早く」

「……じゃ、乗るよ。よっこらしょっと」

 潰れるんじゃないかと、ケン太はハラハラしながら乗ると、雀の首に前足を回しました。

「じゃ、飛びますよ。出発!」

 雀のかけ声と共に、ケン太の体が“魔法のじゅうたん”のように宙に浮きました。

「わ~、浮いてるよぉ。夢か? 夢でもいいや」

 半信半疑のケン太がワクワクドキドキしていると、

「しっかりつかまっててください」

 雀はそう言って、スピードを上げました。

「ヤッホー!」

 空を飛べたケン太は大喜びです。

 でも、その姿は、ケン太が雀に乗っていると言うより、雀を抱っこしたケン太が飛んでるみたいに見えます。

「見ろ見ろ、ヤギがいるぜ。おーい、ヤギ、雑草はうまいかー?」

「ぅめ~」

「うめ~とよ。見ろ見ろ、今度は牛がいるぜ。おーい、牛。おれ、飛んでんだぞー! うらやましいだろ?」

「モ~」

「ゲヘッ。うらやましいとさ」

「飛べない動物はだれだってうらやましがりますよ。ところで、どこに行きたいですか?」

「……どこと言われてもなぁ……世界中を旅したいけど、無理っしょ?」

「無理と言うより、不可能です。ボクのパワーでは、日本縦断が限界ですから」

「……じゃ、キミのおすすめスポットでいいよ」

「そう言われても。目的は犬さんの夢、“空を飛びたい”ですから、観光マップとかも下見してないし……」

「……か。……じゃあさ、キミんちに遊びに行くよ」

「ボクんちはコンビニもゲーセンもない、竹やぶの中ですよ」

「そういうほうが癒し系でいいじゃん」

「……ですか? 犬さんがいいなら、ボクは構いませんけど。ほんと何もないとこですよ」

「いいっていいって。キミんちの親に、礼の一つも言わないとな。空を飛ばせてもらったんだから」

「…………」

「それより、名前を教えてくれよ。おれはケン太だ。キミは?」

「ボクは飼われてないから、名前なんかありませんよ」

「それじゃ話も弾まないじゃないか。うむ……そうだな、鳥だから、チュン太にでもしとくか」

「ケン太さんにお任せします」

「よし来た。チュン太、飛ばそうぜっ!」

「ぁ、ぁ、はいっ!」


 雲一つない真っ青な空を見上げ、次に下界を見下ろすと、雪を被った山並みが見えます。

 それを越えると、今度はピンクのじゅうたんを敷き詰めたようなレンゲ畑が広がっていました。

 雪解け水の小川からせせらぎが聴こえ、水車小屋からは、流水に回る羽根車の音が聴こえてきます。

 その傍らには、畑を耕す農夫が見えます。

 いかにも、のどかな田園風景です。
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