この先行き止まり

紫 李鳥

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 今回のことは、警察にも児島さんにも言わずにおこう。りっちゃんは、継父を逮捕してほしかったのではなく、助けたかったのだから。

 児島さんから電話があったら、「もう少し時間がかかりそう」そう言って誤魔化すつもりだ。

 そうじゃなくても継父は病気だ。罪と病を背負って杖をつく老人をこれ以上苦しめる必要などない。

 継父を助けてほしくて、りっちゃんの魂が私を頼ってくれたとしたら、役に立ててよかった。りっちゃんと直接話ができたらどんなにいいだろう……。

「りっちゃん、お父さんは病院に通ってますよ。安心してね」と、私は天国のりっちゃんに伝えた。





 秋色に染まった頃、久しぶりに【この先行き止まり】まで行ってみた。

 ところが、その光景を目の当たりにした途端、愕然とした。そこは、人家一つない竹藪だったのだ。私は目を丸くしながら、場所を間違えたかと辺りを見回した。

 河原から坂を上ると橋があって……。間違いない。

 アッ!そうだっ!

 私は急いでケータイを取り出すと、メアドに登録している児島さんの電話番号を探した。

 ところが、どこにもなかった。……通話履歴にすら。

 ……そんなバカな。

 私は慌てて、通りすがりの老婆を引き留めた。

「すみません。ここに家があったはずですが」

「家?いや、ここは何十年も前から竹藪ですよ」

「エーッ!」

(私が見た光景も児島さんも幻覚だったと言うのか?)

「こ、児島さんの家があったはずです」

「ああ……。確かに児島という人の家はありましたが、あの事件があった後、この辺に住んでた人たちは皆、引っ越して行きましたよ」

「あの事件て?」

「……40年ほど前に少女が殺されてね――」

(……事件は嘘じゃなかった)

「気味が悪かったんでしょうね」

「で、犯人は捕まったんですか?」

「いいえ、それが捕まってないんですよ。皆が引っ越してったのはそんな理由もあったんでしょうね。近所の人が犯人かもしれないと思ったら怖いですもんね。それじゃ」

 老婆は事件に関わりたくない素振りで、そこまで話すと慌てて背を向けた。

「どうも、ありがとうございました」

 私が見た幻は、りっちゃんの継父に繋げるための足掛かりだったのだろうか……。

 アッ!

 私は急いでケータイを開くと、りっちゃんが映っている例の画像を見た。

 確かに、りっちゃんは映っていた。私がホッとしていると、突然、りっちゃんの長い髪が風にそよぐように動いた。

 エッ!?

 私が目を丸くしていると、りっちゃんがこっちを向いてニコッとした。

 その顔は、少女漫画から抜け出たような美少女だった。

 驚きながらも、私が凝視していると、「ありがとう」と言うように、深々とお辞儀をした。

 途端、元の横向きに戻ると、動きが止まった。

 その画像を改めてよく見ると、長い髪と白いワンピースに見えていたのは、






 黒々とした木陰と、白い木漏れ日だった。――






   完
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