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元夫視点

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リネージュもことを考えていたらあっという間に、侯爵家の主治医であるゼンが帰国した。

「侯爵様、隣国から帰国いたしました。長期の留守申し訳ありませんでした。」

「いや…良い。例の病気の治療法など有力な情報はあったのか?」

ゼンは目尻に深く皺を刻みながら
「ええ、それはとても…。ありがたいことに治療薬の被験者のデータを持ち帰ることができました。マリリスは最早死病ではなくなるとの期待も高まりました。」


「そうか…そのデータを生かしてほしいと思う」

「勿論でございます。侯爵様、こちら私が持ち帰ったデータになります」

「そうだな、一応目を通しておくか。今後国益になるかもしれない、そこに置いといてくれ」


「かしこまりました、それでは失礼いたします。」


ゼン医師はそう言って机の上に分厚い書類を置いていった。
今は書類を見ることで気を紛らわすしかないか…

そう思って、僕はゼン医師が持ち込んだマリリス病のデータを読み始めた。
どうやら治験者の名前こそ載っていないが、性別から出身地など詳細に書かれていた。


僕は余計なことを考えないようそのデータを読み込むことにした。




ドアをノックする音が響いた。


顔を上げると、陽が高かったはずなのに、いつの間にか薄暗くなってきていた。

「はいれ」

そう声をかけると、マルコが入室してきた。

「旦那様、お食事のご用意が整いました」

「ああ、もうそんな時間か…」

「はい、書類仕事もほどほどにしないと…」

ずっと同じ姿勢でいたからなのか、体が固まっている。
僕は筋を伸ばしながらマルコに言った。


「いいや、これは…まぁ急ぎではないんだが、ゼン医師が持ってきたマリリス病の隣国データだよ」


マルコはわずかに目を開きながら

「マリリス病…ですか」


僕はそんなマルコの表情を見逃していた

「そうだ、今日、ゼン医師が隣国から帰国しておいていったものだ。急ぎではないが考え事をしたくなくて読んでいた。まだ全て読んではいないが中々に興味深いものだ」


「そ…そうですか。そのデータのいうのは何が載っているのでしょうか?」


「ああ、性別から出身地から身体的特徴など、開発した薬がどのように作用しているかということが詳細に載っている。ただ、名前は秘匿されている」

「そうでございますか…」

「なんだ興味があるのか?」

マルコはいつも表情を崩さないのに珍しいものだ。


「いいえ…いえ…そうですね。私が読んでもいいものであれば見せていただければと」


「特に困らないからな、僕が読んだ後でいいなら読みたまえ。あと、食事はここでとるので部屋に持ってきてほしい。このデータを全部読み切りたい」


「かしこまりました、召し上がっていただきやすいよう少々準備してまいります」

「ああ、有難う」


僕は再びそのデータに目を通し始めた。



ふとそのデータの中にたった一人女性のデータが載っていることに気づいた。
それがこの国出身で、身体的特徴もリネージュと同じだ。
血の気が引いていく、手の先から紙に体温が奪われていくようだ。
何度も何度もそのデータだけ読んだ。何か見落としはないか、目を皿のようにしてその書類だけひたすら読み込んだ。








「君は…こんなに痩せていただろうか?」

「そうかしら?あまり変わらないと思うわ」



あの時のあの言葉がやけに鮮明に脳裏によみがえった。








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