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元夫視点
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しおりを挟むリネージュの情報が得られないまま、こなさなければならない仕事に取り掛かる。
一週間、二週間と時が経ち、焦りが生まれる。
リネージュのことを考えると自分のした仕打ちを思い出し、夜も眠れなくなる。
自業自得とはいえ、寝室に一人でいるのが恐ろしくなる。
「リネージュ…」
彼女の仕草や表情が自分の心をいかに穏やかにしてくれていたのかを思い出していた。
そしてそんな思い出に浸るばかりの日々の中、領地に行っていた両親がきた。
「アレク!!!」
その表情は領地経営の指導をしてくれていた時よりも厳しい表情の両親がそこにいた。
「あなたは…あなたは!!何てことしでかしたの!!」
パシっと初めて母に叩かれた。
母の目には涙が溢れていた。
「子ができないといわれていたことがしんどかったのならなぜ相談にこなかった」
父は母よりは冷静に問い詰めてきた。
そうだ、僕の両親は子ができなことをただの一度も怒ったりしなかった。
「申し訳…」
「謝る相手が違うのではないのか?」
僕の言葉を遮るように父は言った。
「私たちに謝っても状況はどうにもならない、わかるか?」
「…わかります」
項垂れる僕の体温はどんどん冷えていく。
言わなくてはならないことがある。
これは男性としてはとても屈辱的で貴族として致命傷だ。
しかし自分のことを言わなくてはならない…
「父上、母上…お話があります」
僕は意を決してその言葉を吐いた。
リネージュのこと
自分が種無しと診断されたこと
両親の表情はどんどん青ざめていった。
「実家にも戻ってないなんて…」
母は涙をながしていた。
「お前のことについては仕方がない…無いものは無いのだ。しかし、それを彼女に告げず、一方的に離婚を言い渡したのだな?」
「いいえ!…いえ…そうです。僕は彼女に何も伝えられなかった…謝ることも、自分のことも…」
僕が彼女にした仕打ちに今更打ちひしがれている。
彼女の友人に鬼畜と言われた、そりゃそうだ…こんな男自分を客観的に見たら間違いなく僕もそう思う。
「後継者の選定は私とお前でする。縁戚関係から養子をとるのが妥当だろう。今はそれしかできることはない。実家にも戻ってないとなれば、それは…」
「それは…?」
考えたくなかった考えにたどり着きそうになる。
自分の心臓がドクドクと脈打つのがうるさく感じる。
指先が冷え、冷や汗が出てくる。
無情にも父は言い放った。
「…自死を考えている時だ」
血の気が引いていく。
僕の愚かな行いが、リネージュの命を奪うかもしれない。
そんなこと当時は何も考えてなかった。
リネージュ…リネージュ!!
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