お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩

文字の大きさ
上 下
15 / 45

回顧

しおりを挟む
ブリュンヒルド・フュルトティン・フォン・ハーン様

朝焼けのように綺麗な緋色の髪を持つ美しきハーン侯爵家の令嬢。
アクラム様とは幼じみで戦に精通したハーン家は代々軍部に身を置いています。勿論アクラム様も軍関係者です。
ブリュンヒルド様はその名前のごとく勇ましい気性であらせられます。しかし、アクラム様と共に行動する時はとても穏やかでした。噂などあてに出来ないと思いました。



一度彼女とお話しをしたことがあります。
「ごきげんよう、マレーネ.・ヴァルト様。
わたくしはブリュンヒルド・フュルトティン・フォン・ハーンと申します。
以後お見知り置きを」

「 は... 初めまして、 マレーネ・ヴァルトと申します...」

突然、話しかけられた私は戸惑い…困惑しました。
彼女自身の美貌とその裏打ちされた自信から来る美しき所作が、私にはまぶしすぎて思わず目を細めてしまいました。


彼女はその美貌の顔をわずかに歪めながら私にこう言いました。



「あなたがアクラムの婚約者ね。薬学者としては精通しているのかもしれないけれども、あなたに果たしてアクラムの妻が務まるのかしら?」


私は最も痛いところをつかれたと思いました。
アクラム様との共通点と言えば、自分の兄がアクラム様の友人で、両家の両親の仲が良かったと言う事以外特に何もなかったからです。
それにこの当時、私はアクラム様に失恋をしていて研究に没頭している時期でもありました。


「女としての務めも果たさず研究ばかりしていてアクラムが可哀想だわ。親同士が決めたとは言え断ることもできたでしょう。あなたには自分と言うものがないのかしら?」


私はアクラム様に他に好きな人がいると知っていながらもアクラム様のそばを離れることができなかった浅ましい女です。
ブリュンヒルド様の言葉は私に剣のように突き刺さってきました。

何も言わなくなった私を彼女は興味を失ったかのように視線を外しながら

「あなたに言ってもしょうがないことね…わかったわ。でもこれだけは覚えておきなさい。アクラムに相応しいのは私であって貴女ではないと言うことを。私たちの関係に口を出さないでちょうだいね」

この時に私ははっきりとわかってしまいました。彼女とはアクラム様は恋人同士なのだと。それを邪魔するのが私なのだと。
それでも諦めきれなかった私は、アクラム様の婚約者と言う立場にしがみつきそのまま妻として居座り続けています。

そのことが罪悪感であり私を苛むのです。
彼と彼女の恋を私が壊しているのだと。世間に顔向けができない不倫と言う形を取らせてしまっていることを…
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない

かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。 そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。 だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。 側室が求めているのは、自由と安然のみであった。 そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

この婚姻は誰のため?

ひろか
恋愛
「オレがなんのためにアンシェルと結婚したと思ってるんだ!」 その言葉で、この婚姻の意味を知った。 告げた愛も、全て、別の人のためだったことを。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

私の夫は愛した人の仇だったのです。

豆狸
恋愛
……さて、私が蒔いたこの復讐の種は、どんな花を咲かせてくれることでしょう。

処理中です...