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しおりを挟む「わっはっは!悪かったな!綺麗な水があったから水浴びをしていた」
そう言って豪快に笑うのはいったい何者なのか。
「早く!!」
「ん?」
「早く服を着てください!!!」
くるっと後ろをむいてその人物から目を逸らす
後ろから衣擦れの音がする。
意識して聞きたくはなかったが、それでも聞こえてくる音が耳に入ってくるだけでリリスは顔を真っ赤にした。
「お嬢ちゃん、敵に隙をつくっちゃいけないぜ」
はっと振り返るとすでに目の前まで移動してきた大柄の体躯がそこにあった。
「ひっ!!」
思わず声が出る。
リリスは失態を犯したと思った。
普段ならこんなことにならない。
相手は敵といった。
誰かの刺客だろうか、嫌な汗がでる。
じっと見る。
その漆黒の瞳に吸い込まれそうになるが気をしっかり持たねばと睨みつける。
「ぷっ」
突然男が噴き出した。
「わりぃわりぃ、お嬢ちゃん」
「へ?」
思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「俺は敵じゃない…って言っても信用ないだろうけど。もう俺の裸見ちゃったから俺たち懇ろな仲だろ?」
「なっっっ!!」
ふざけた男だとリリスは思った。
敵とか敵でないとかそういうのではなく
揶揄われたことに腹がった。
「わっはっは!悪かったな!綺麗な水があったから水浴びをしていた」
「ここは後宮の中です。あなたはいったい何者なのか」
「んーそれはまだ言えねぇけど…でも…」
「でも…?」
「俺は強い!」
いきなり自分を指さして何を主張しているのかリリスにはわからなかった。
「強い強くないではなくて!」
「おうおう、後宮つったか?ここは後宮つってもはずれだからいつも勝手に忍び込んでたんだよ。静かだろここ」
忍び込んでたとは…ますます怪しい。
しかしリリスはこの男から敵意など感じなかった。
行動は怪しさ満点だけど。
「ここは私の住む屋敷のすぐ近くです。今後は忍び込まないでください」
「かわいい顔が台無しだぞ?怒るな怒るな」
微妙に話がかみ合わない。
「するってーとお嬢ちゃん、皇帝の嫁か?」
「嫁…まぁ嫁というのでしょうか…」
「ん?贅沢し放題だろ?」
「そんなわけないでしょう。そもそも贅沢したいと思ってきたのではありません」
そういえば、二日後には皇帝のお渡りがあることを思い出したリリスは気落ちした。
その姿を男はじっと見つめていた。
「なにかあんのか?」
この男に言ってもいいのだろうか?
結局正体がわからないこの男に言ったところで現状は変わらないだろうが、リリスは誰かに聞いてほしかったかもしれない。
なんの事情も知らなさそうな男に吐き出してみようかとおもい口を開いた。
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