上 下
5 / 9

5

しおりを挟む


「血の匂いがする」


その発言の直後、二人の侍女らしき人物は表情をかえた。
そして肩の力を抜きつつ

「あーあ、おひぃさんにばれちまってら。流石だね」


そういったのはヘイリーだった。

「こら、ヘイリー」


セスがたしなめる。

「だってしょうがねーじゃん。ばれちまったんだぜ。今更隠したって無理だよ。警戒心強くされるだけじゃねーか」


「警戒心…?それは一思いに消すとかそういう意味で?」


ばっと侍女二人がリリスを見る。


「は!っちげー!!…です。そんなことしたら御大にそれこそ消されちまう!」


”御大”が何たるかをわからないがとりあえずまだ消されることはないようだと安堵する。


「しかし鼻がいいな、あんた…いてっ!」

無言でセスがヘイリーの頭を拳骨で殴る。


「お前…リリス様に失礼にもほどがあるぞ!報告してやろうか!!」

「わーー!!まてまて!リリス様すんません。俺とりあえずここに配置されたただの平民なんだよ!」

「平民?」


普通侍女に平民はない。階級が低くとも貴族がなるものだろう。
何か理由があるのか。しかしリリスにとってそれは至極どうでもいいことだった。


逡巡しているとセスが近づいてくる。
そして片膝をたててリリスの前に跪いた。


「申し訳ありません、リリス様。わたくし共は侍女ではありません。ましてやあなたを脅かすものでもありません。…と口で説明しても信じていただけないかもしれませんが、もし必要であれば上司に相談して、事の次第を」


「その必要はありません。私はここであなた達が何をするにも邪魔は致しません。ただし、この国にとって不利になること、私の祖国にとって不利になることであれば、私はあなた方を近衛に突き出さなければならないでしょう。そうでないのなら私が貴方方をとがめることはありません」


「感謝いたします。」

セスが頭を下げた。

「ありがとーございまーす」

ヘイリーの呑気なことが返ってきた。


「この屋敷に詳しいですか?それとも侍女は別に来ますか?」

「いんや、おひぃさんの侍女はこねえよ」

想像していた通りなので、自分で今夜の食事を調達しようかと考える。


「おひぃさん、食料やら必要物は全部そろってるよ。それは俺らがちゃんと手配するし、もし万が一なかったとしてもそれをちゃんと調達できるルートがあるから安心しな」

ヘイリーはニカっと安心させるように笑った。


「そうですか、わかりました。では、屋敷を案内してください。」


「かしこまりました。そして、ヘイリーお前の言葉遣いもうちょっとどうにかしろ」

「いや、無理だって」

「必要な場面だけ取り繕ってもらったらいいです。私には必要ありません」

「ありがとーおひぃさん!!」






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっちの令嬢様

悠木矢彩
恋愛
その周囲は少女に対してあまりにも無関心だった。 アイコンはあままつ様のフリーイラストを使用させていただきました。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...