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第一章
ホテルについてから
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あの後、リゼを起こしてホテルに帰って来たシオンはリーゼロッタに事件の真相を聞くことにした。
「復讐をしないにもそれなりの償いは必要だろう、事件当初のことを話してくれないだろうか」
ホテルの穏やかな黄色の光の中シオンが尋ねると、リーゼロッタは私も突然だからよく分からなかったんだけどと少し戸惑いながらもゆっくりと話し始めた。
「彼とは1年前に出会ったの。教会での告解を聞いて、彼を助けたいと思った。話していくうちに段々仲良くなって、教会の門越しにこっそり会うようになった。初めてだったの。あんな風に聖女としてではなく人間として扱ってくれたのは」
リーゼロッタは少し表情を曇らせながら山間の集落のホテルらしいシンプルな白いベットにぽふりと飛びんだ。色素の薄い金色の髪がふわりとひろがる。
「何度もリゼ、愛してるって言われたのよ。でも本当は違ったのかしら? あんな事になるなんて」
リーゼロッタはどうしてこんな事になってしまったんだろうと思った。
最初は反対していた教会の関係者達も最終的には幸せになるならと祝福してくれた。
絶対に幸せになれると思っていた。
だけど、あれは式を挙げる教会への道すがら、一般の人々に挨拶をしているときだった。
もちろん殆どの人は喜んで祝福してくれた。
けれど聖女の結婚とは、人々の癒し手が一人減るということ。
民衆にとって必ずしも嬉しいばかりのことでは無い。
リーゼロッタは結婚を反対する人々に囲まれてしまったのだった。
アルフォンス様が雇ってくれた護衛も、何故か途中から一人一人と少なくなっているのに誰も気がつかなかった。
暴徒の一人が肩を掴んだ瞬間だった。
リーゼロッタに触れた手の先からみるみるうちに血の気が引いて倒れてしまったのだ。
驚いて、今度はリーゼロッタを守ろうとして触れた人が次々と倒れていった。
最初は気絶しているだけだと思ってみんな揺すって起こそうとしたけど、息はしているのに、全然起きなかった。
まるで、少し前に流行ってもう終息した原因不明の奇病のように。
この病気にかかった人は、皆血の気が引いて、眠ったまま動かなくなる。
そして次第に呼吸も止まり、発病から1週間程で眠るように亡くなってしまう。
だけど、リーゼロッタは怖くて誰にも触れなかった。
また、触ったらもっと酷くなるんじゃないかと思って。
「そうしたらね。アルフォンス様があいつこそが奇病の原因、魔女だったんだって叫んだの。それからはもう本当に酷かった。リゼは何度も辞めてって言ったわ。でもアルフォンス様、笑ってみてるだけだった」
リーゼロッタの話しは彼女の元に行く前に事前に調べておいたことと一致していた。
しかし、本人から聞くとより凄絶だった。
「しかし、わからないな。お前を殺すだけなら、何度も機会があった筈だ。そんな面倒なことをしないでも、簡単に」
「うん。リゼもそう思ってる。だから何か理由があるのかなって思って、アルフォンス様を恨めないの」
それを聞いてシオンは少しだけ笑いたくなった。と同時に悲しくなった。全くこの聖女は何処までお人好しなんだろう。
本当は最初から解っていたことだった。彼女は忘れているかもしれないが彼女の性格は多分誰よりも解っている。
それに彼女が死んだ時に聴こえてきた”魔力の声”にも誰かを恨むなんて声は聞こえてこなかった。
それでも契約を結んだ時に、復讐するかと聞いたのはシオン自身の望みだったからだ。
しかし何の理由があっても、殺人は殺人だ。
しかも愛する人を騙して陥れることが出来る人間なんていない。
そんな人間がもしいたとしたら、それはもう人間ではなくて悪魔か何かだろう。
少なくともシオンは絶対にそんなことはしない。
だから、リーゼロッタがなんと言おうと、シオンはアルフォンスを許すつもりはなかった。
まあシオンがアルフォンスを追う理由は、他の理由もあるにはあるが。
「とにかく、愛されるにしても理由を知るにしても、本人に直接会わなければ意味がないからな。しかしアルフォンスはあの事件から姿をくらませている。何か隠れていそうな場所に心当たりはないか?」
「ううん。全然わからない。今思えば、リゼはアルフォンス様のことを余り知らないのね」
「まあ、こちらでも調べてみる。ネクロマンサーの力は死んだものの漏出魔力に関わる力だ。日が経ってしまっては、何もわからないが、あの時倒れた人の身体を調べれば、何かわかるかもしれない」
「あの人達、亡くなったのね。それでも助かって欲しかった」
シオンがチラリとリーゼロッタの方をみると彼女はは目を閉じて胸前で両手を組み合わせている。
シオンは敢えて死体という言葉を使わずに”倒れた人の身体”と言ったが、リーゼロッタにはわかってしまったらしい。
「でも調べるなら、リゼに考えがあるの。教会に行くのはダメかしら?」
リーゼロッタはことんと小首を傾げながら聞いて来た。
なるほど、リゼのいる教会は怪我人や病人も集まってくる。
中には、看病半ばで亡くなってしまった人もいるはずだ。
そしてそんな人達は、誤診で生き埋めと言う事態を避けるため、1週間は冷所で保管されるのだ。
墓場だと掘り返すのも大変であるが、掘り返したところでもう日が経っていて何も解らないと言うことがある。
その点教会ならば死体を調べるのにこれ以上打って付けの場所はない。
「もし教会に行くのならリゼが説得するわ。お兄様なら解ってくれると思うの」
そこで、シオンはリーゼロッタの兄のことを思い出した。
聖山のトップの大主教である彼女の兄は極度のシスコンで有名だった。
若くして聖山トップクラスの癒し手である彼の妹に対する奇行は優しく穏やかで眉目秀麗。品行方正で文武両道。という数々の長所全てを覆す程だと言われている。
「それは盲点だった。今まで隠そう隠そうとばかり意識が行っていた」
彼とは昔、一度しか会ったことはないが、今頃どうしているのだろう。
おそらく、事件の事を血眼で探っているか、若しくは自暴自棄になっても打ちひしがれているか……。
会わせてあげたいとシオンは思った。
こんな型ではあるものの、最愛の妹が生きていると知ったらあるいは……。
それにもしかしたら、事件の手掛かりが掴めるかもしれなかった。
「復讐をしないにもそれなりの償いは必要だろう、事件当初のことを話してくれないだろうか」
ホテルの穏やかな黄色の光の中シオンが尋ねると、リーゼロッタは私も突然だからよく分からなかったんだけどと少し戸惑いながらもゆっくりと話し始めた。
「彼とは1年前に出会ったの。教会での告解を聞いて、彼を助けたいと思った。話していくうちに段々仲良くなって、教会の門越しにこっそり会うようになった。初めてだったの。あんな風に聖女としてではなく人間として扱ってくれたのは」
リーゼロッタは少し表情を曇らせながら山間の集落のホテルらしいシンプルな白いベットにぽふりと飛びんだ。色素の薄い金色の髪がふわりとひろがる。
「何度もリゼ、愛してるって言われたのよ。でも本当は違ったのかしら? あんな事になるなんて」
リーゼロッタはどうしてこんな事になってしまったんだろうと思った。
最初は反対していた教会の関係者達も最終的には幸せになるならと祝福してくれた。
絶対に幸せになれると思っていた。
だけど、あれは式を挙げる教会への道すがら、一般の人々に挨拶をしているときだった。
もちろん殆どの人は喜んで祝福してくれた。
けれど聖女の結婚とは、人々の癒し手が一人減るということ。
民衆にとって必ずしも嬉しいばかりのことでは無い。
リーゼロッタは結婚を反対する人々に囲まれてしまったのだった。
アルフォンス様が雇ってくれた護衛も、何故か途中から一人一人と少なくなっているのに誰も気がつかなかった。
暴徒の一人が肩を掴んだ瞬間だった。
リーゼロッタに触れた手の先からみるみるうちに血の気が引いて倒れてしまったのだ。
驚いて、今度はリーゼロッタを守ろうとして触れた人が次々と倒れていった。
最初は気絶しているだけだと思ってみんな揺すって起こそうとしたけど、息はしているのに、全然起きなかった。
まるで、少し前に流行ってもう終息した原因不明の奇病のように。
この病気にかかった人は、皆血の気が引いて、眠ったまま動かなくなる。
そして次第に呼吸も止まり、発病から1週間程で眠るように亡くなってしまう。
だけど、リーゼロッタは怖くて誰にも触れなかった。
また、触ったらもっと酷くなるんじゃないかと思って。
「そうしたらね。アルフォンス様があいつこそが奇病の原因、魔女だったんだって叫んだの。それからはもう本当に酷かった。リゼは何度も辞めてって言ったわ。でもアルフォンス様、笑ってみてるだけだった」
リーゼロッタの話しは彼女の元に行く前に事前に調べておいたことと一致していた。
しかし、本人から聞くとより凄絶だった。
「しかし、わからないな。お前を殺すだけなら、何度も機会があった筈だ。そんな面倒なことをしないでも、簡単に」
「うん。リゼもそう思ってる。だから何か理由があるのかなって思って、アルフォンス様を恨めないの」
それを聞いてシオンは少しだけ笑いたくなった。と同時に悲しくなった。全くこの聖女は何処までお人好しなんだろう。
本当は最初から解っていたことだった。彼女は忘れているかもしれないが彼女の性格は多分誰よりも解っている。
それに彼女が死んだ時に聴こえてきた”魔力の声”にも誰かを恨むなんて声は聞こえてこなかった。
それでも契約を結んだ時に、復讐するかと聞いたのはシオン自身の望みだったからだ。
しかし何の理由があっても、殺人は殺人だ。
しかも愛する人を騙して陥れることが出来る人間なんていない。
そんな人間がもしいたとしたら、それはもう人間ではなくて悪魔か何かだろう。
少なくともシオンは絶対にそんなことはしない。
だから、リーゼロッタがなんと言おうと、シオンはアルフォンスを許すつもりはなかった。
まあシオンがアルフォンスを追う理由は、他の理由もあるにはあるが。
「とにかく、愛されるにしても理由を知るにしても、本人に直接会わなければ意味がないからな。しかしアルフォンスはあの事件から姿をくらませている。何か隠れていそうな場所に心当たりはないか?」
「ううん。全然わからない。今思えば、リゼはアルフォンス様のことを余り知らないのね」
「まあ、こちらでも調べてみる。ネクロマンサーの力は死んだものの漏出魔力に関わる力だ。日が経ってしまっては、何もわからないが、あの時倒れた人の身体を調べれば、何かわかるかもしれない」
「あの人達、亡くなったのね。それでも助かって欲しかった」
シオンがチラリとリーゼロッタの方をみると彼女はは目を閉じて胸前で両手を組み合わせている。
シオンは敢えて死体という言葉を使わずに”倒れた人の身体”と言ったが、リーゼロッタにはわかってしまったらしい。
「でも調べるなら、リゼに考えがあるの。教会に行くのはダメかしら?」
リーゼロッタはことんと小首を傾げながら聞いて来た。
なるほど、リゼのいる教会は怪我人や病人も集まってくる。
中には、看病半ばで亡くなってしまった人もいるはずだ。
そしてそんな人達は、誤診で生き埋めと言う事態を避けるため、1週間は冷所で保管されるのだ。
墓場だと掘り返すのも大変であるが、掘り返したところでもう日が経っていて何も解らないと言うことがある。
その点教会ならば死体を調べるのにこれ以上打って付けの場所はない。
「もし教会に行くのならリゼが説得するわ。お兄様なら解ってくれると思うの」
そこで、シオンはリーゼロッタの兄のことを思い出した。
聖山のトップの大主教である彼女の兄は極度のシスコンで有名だった。
若くして聖山トップクラスの癒し手である彼の妹に対する奇行は優しく穏やかで眉目秀麗。品行方正で文武両道。という数々の長所全てを覆す程だと言われている。
「それは盲点だった。今まで隠そう隠そうとばかり意識が行っていた」
彼とは昔、一度しか会ったことはないが、今頃どうしているのだろう。
おそらく、事件の事を血眼で探っているか、若しくは自暴自棄になっても打ちひしがれているか……。
会わせてあげたいとシオンは思った。
こんな型ではあるものの、最愛の妹が生きていると知ったらあるいは……。
それにもしかしたら、事件の手掛かりが掴めるかもしれなかった。
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