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時間を失った夜、解き放たれる吸血衝動
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「兄弟でも、愛し合っていいのかな……?」
乱れる吐息交じりにレイが呟く。
それは、人に対して極めて臆病な彼の集団心理への恐怖からの不安でもあった。
男同士、それも兄弟?
_____気持ち悪い。
嫌がらせをした奴らの姿と、忘れることのない声質が脳裏に蘇る。
しかし、そんな幻影を粉々に破壊したのは目の前で舌を出した妖艶な彼だった。
「だからなんだ。人間の間で死神が伝説の存在と恐れられている事も同等に可笑しいことだろう。だが、ここでは常識や固定観念に縛られる必要はない。誰も触れられやしない二人だけの空間だ。外野が何をほざいたって意味などない」
その言葉を聞いたとき、レイの中で何かが吹っ切れた。
自分の恨みがデイレスの恨みとして代弁され、無様にも殺された奴らの末路に安堵して。
「本当に、僕の心の奥底まで読み取れちゃうんだね。兄さんには逆らえないや……」
「レイの生き血を体内に含んだことで、契りとしてお前の心情が俺の中で共有される。言い換えれば俺がレイの記憶を覗き、精神を支配することだって可能だ。逆らえるものなら逆らってみろ。従順な子犬としてしか生きられなくなるぞ」
そういえばそうだった。
化物が生き血を吸えば、その人間の位置やら何やら全てを把握できるようになると。
そんな話を数日前に聞いた気が……
興奮と幸福感で脳が上手く回らず、余計な記憶が抹消されていく。
まるで山に霧がかかるように。
「兄さん……」
レイは言うまでもなく、デイレスに翻弄されていた。
彼の全てに魅了され、骨抜きである。
「このまま、愛し合って永遠の時を過ごせばいい。俺の愛に溺れていろ」
擽るデイレスの舌は段々と首筋の方へ降りていき、しゃぶるようにして噛みついた。
最上級の血の匂いが香る。
もうすぐで我慢しきれず、今にも尖った牙を突き立ててしまいそうだ。
「んぐっ……そこもっ、気持ちいっ、ああっ」
絡まる赤い舌、掠まる熱い吐息、触れる突起のない人間の犬歯の感覚が首筋からレイの全身にびくびくと伝わる。
吸い付く勢いは加速していき、デイレスの口からも衝動を我慢する喘いだ声が喉を絞めるようにしてレイの耳元に漏れる。
「ん……まだ、大丈夫っ……」
「兄さん、もう解き放っちゃいなよ。もう、苦しそうだよ。ほら、本当の兄さんを僕に見して」
熱を帯びた掌がデイレスの白い頬にくっつく。
レイの仕草、言葉、甘える声色、伝わる人肌、全てが原因、決め手だった。
その上からがっしりとレイの手首を掴んだデイレスの右手の指先は、鋭い爪が伸び始めた。
汚れも傷もない透明な爪は、段々と黒くなって、光沢をも帯びていく。
その変化の様子にレイは体の底から沸き上がる興奮と快感を覚えた。
「吸血衝動、起こしちゃった?」
「……吸い付くされて後悔しても仕方ないぞ。お前がこの死神様を目覚めさせたのだからな」
低く透き通った声に妖艶さが交じる。
レイの顔の脇に眼鏡が置かれ、露になったその眼は鮮血の色に染まり、その瞳が本性を現す。
縦長の瞳孔の鋭さは血肉に飢えた獣の目をしている。
パキリと骨が軋む音を立てて三角に尖った耳が形成され、短髪はみるみると肩の高さまでなる長髪へと変わった。
黒髪は光に反射して艶を帯びて、神秘的な銀色になる。
嗤う彼の口元から二つの鋭い牙が生え、腰から蝙蝠の羽を目一杯広げて見せた。
もうここから逃れることはできない。
呻き声を上げた死神がレイの首筋に一目散に牙で肌を刺して血飛沫をベッドの純白なシーツに飛び散らせた。
喉から化物の唸り声を鳴らし、ごくりごくりと極上の甘い血を喉へ運ばせる。
一瞬にして理性は飛んで、消えた。
「吸血されてるっ……痛い、痛いよっ、でも、痛みが気持ちよく感じるっ……!もっと、もっと吸い上げてよっ」
レイの灰色の瞳から一筋の涙が零れる。
痛みと快楽から出たそれも乱れた布団に染みを作る。
首筋に大きな、それも深い穴を空けられて痛くてしょうがないのに、体がジンジンとしてきて、気持ちよさを求める。
傷口からどくどくと流れて滴る血液をデイレスが一筋も溢すことなく舐めて吸血していく。
ひゅう、と声にならない声は絶え間無く続いた。
この時をどれ程待ち望んでいたか。
レイの体が、不意にびくびくと脈打つ。
体が、生命の危険を感じているのだろうか。
それとも快感で……?
満足を超えて、心も体もそれ以上の何かを求めている。
ああ、まだ物足りないと。
愛情はそんな程度ではないと。
デイレスの銀髪がレイの顔に垂れている。
さらさらで、水のようにレイの指の隙間から流れる。
「兄さん……?」
力の抜けた、甘えた声でデイレスの名前を囁く。
しかし、そんな彼はレイの赤い蜜に夢中になって返事をすることはない。
デイレスの口元の突起が時折ちくりと触れ、レイはふふっ、と感情をひた隠すように微笑む。
「じゃあ……さっきのお返し、してあげる」
レイが火照った体から放出される熱と共に小さな舌をべっ、と出した。
レイの舌先が、デイレスの耳に絡まる。
奇っ怪に尖った耳の根元から先まで、飴玉を舐め尽くすように。
「……っ!?レイ、何をして……」
首筋に差し込まれた牙が抜けた。
理性を取り戻した彼の瞳はやはり、本来白目であるところが真っ黒になっていて赤い瞳の光彩も禍々しい眼光を帯びていた。
レイが耳の節々を舐める度にデイレスが体をびくつかせる。
「やめっ、そこは敏感だから……ああっ!?」
レイは勢いを弱めることなく舌先で愛を伝え続ける。
銀や黒の厳ついピアスの部分も丸ごとカプリとレイの熱々な口内に入れて。
「情けないね、兄さん。今度は弟に舐められちゃってる。……でもまだ終わりじゃないよね?」
レイの垂れ目は愛と欲求に飢えている。
それはデイレスも一緒だ。
不敵な笑みを見せたデイレスが、レイのシャツを無理矢理引っ張って、彼の右肩を露にさせる。
真っ白な、傷一つない左肩に何度もキスの痣を残して。
「くすぐったい……」
「こっちの台詞だ。敏感なところばかり攻めるな……んっ、んん……」
「何?気持ちよくないの?」
「ち、違う!断じてそういう訳じゃ!」
問われたデイレスはひどく取り乱す。
荒げた血生臭い吐息がレイの顔にかかる。
きっと無意識なのだろう。
デイレスの腰の羽がぱたぱたと動いていた。
「感情がでちゃってる。……ほら」
タキシードのように、背中側に切れ込みの入ったロングコートの内側にレイが右手を入れる。
羽の根元付近の背中の肌を指で上から下まですっと一直線になぞる。
突然押し寄せてきた激しい感覚にデイレスが目を見開き、腰を抜かした。
脱力した彼の体重の一部がレイに乗っかる。
「なっ、何だ今のはっ!?」
蝙蝠の形状をした羽が上下に小刻みに動き、痙攣している。
「羽、興奮してたのかすっごい動いてたよ。今もびくびくしちゃってるけど」
「や、止めろ。これ以上は俺でも絶えられる気がっ、」
「兄さんったらそれって振り?さっき僕が兄さんに仕置きを受けた時だってオーバーキルしてたじゃん」
背中を優しく触り、撫でる感覚は止まらない。
なんて事だろうか。
悪戯で行った行為が自分に帰ってきてしまうだなんて。
デイレスの喘ぎ声も止まらず、そこに死神の威厳は欠片もなかった。
この空間にいるのは濃密な時を過ごす快楽と互いの愛に埋もれた少年と牙を持った死神。
お互いの仕返しは終わることなどない。
両者とも、それを求めてしまっているのだから。
「まだ兄さんの噛んだ痛みが残ってる。というか血、止まってないじゃん」
傷痕が余りにも深すぎたのか血液が未だ傷口から滴っていた。
「なら血が止まるまで舐め回して吸ってやる。レイは舐められる事が好きなのだろう?困った子だ」
「僕が兄さんの耳を咥えた時人の事言えない位敏感になって声あげてた癖に……あっ、そこ痛い、もっとやって」
牙を使わずに啜る音が響く。
レイも器用に左手でデイレスの耳たぶを掴みながら右手で翼の神経の多いところをこりこりと撫でたり擽ったりしていた。
どちらもベッドに身を委ね、デイレスがレイに折り重なるように彼の真左にいる。
乱れる呼吸と喘ぎは加速し、さらなる熱を帯びていく。
時間なんて知ったこともない。
と、再び血眼になったデイレスが、自身の鋭い爪で舌先を引っ掻き、指に血を付着させた。
縦線を描いた傷は再生能力で少しもしない内に元通りに治る。
「レイ、口を開けろ」
「ん……」
レイの口内にデイレスの人差し指が入る。
触れただけで口の中が切れそうな鋭い爪であるが、レイの舌は問答無用で彼の指に絡み、巻き付く。
「なにこれ、てつくひゃい」
「滑舌が回っていないぞ。血をくれた礼に俺の血液を与える。飲み込め」
口に広がった鉄臭いそれを嫌な顔をしつつ、唾液と一緒にごくりと飲む。
デイレスの指には粘り気を含んだレイの唾液がくっついたが、さも当然のように自身の口へ入れ、舌で掠め取った。
「兄さん……何か体が熱い。異常なくらいに火照ってる」
「そうか、効果が出てきたか……」
意識が虚ろになってきたレイがデイレスに抱きつく。
体の奥底から沸き上がる熱さに、シャツを投げ捨て、裸体のままデイレスの身を包んだ。
「簡潔に言えば血を吸った俺の、主人の血液は媚薬のような役割をする。感度が異常なまでに膨れ上がるから覚悟してろ」
風邪をひいたように顔を赤くしたレイの細身で白い肌に、背中や胸元をデイレスが愛おしく愛撫でする。
「ひゃうっ!?」
小動物の鳴き声のような甲高い声を上げたレイが全身をびくりと震わせた。
それはデイレスに触れられるだけでとてつもない反応を引き起こし、何回も痙攣のように震える。
やや暴れかけていたレイの上半身に追い討ちをかけるようにデイレスの触れる行為は止まらない。
右腕で彼が変に暴れないよう押さえつけ、左手は彼の各部位を愛撫でしていく。
「いやっ、ら、らめぇ……」
「レイっ、何でお前はそんなに可愛いんだ。俺の虐めたい欲が限界を越えそうだ……!」
デイレスの舌がレイの舌と絡まり合う。
とぐろを巻くように、何度も唾液ごと絡め、擬音をたてて、空気に触れる隙間を無くして。
「んぐっ、ん、ん、」
有無を言わせない舌先はレイの中身を、全てを壊す。
もう少しで窒息してしまいそうだ。
レイの両目が悲鳴をあげるようにして大粒の涙を流し、瞳は虚ろに上を向いていた。
無意識なのに、腰をへこへこさせて、揺らしている。
「ぷはっ、はあっ……はあっ、ああ、そこも、止めてっ、何でこんなとこまで敏感にっ」
「こんなに小さい乳首でもお前は喘ぐのか?なら、そこのズボンを突き上げたそれを触ったらどうなるか……」
デイレスが今まで以上に悪い笑みを浮かべた。
牙を剥き出しにして、嗤う。
「っあああ!!んんっ、らめだっえぇ!」
しばらくレイはデイレスによって全身を快感でかき回され言葉も出せないまま力尽きて裸体のまま尽き果てた。
それはデイレスも同じく意識を失って。
レイのズボンにはまるでおねしょをしたような、けれどもねっとりとした染みが広がっていたのだった。
乱れる吐息交じりにレイが呟く。
それは、人に対して極めて臆病な彼の集団心理への恐怖からの不安でもあった。
男同士、それも兄弟?
_____気持ち悪い。
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しかし、そんな幻影を粉々に破壊したのは目の前で舌を出した妖艶な彼だった。
「だからなんだ。人間の間で死神が伝説の存在と恐れられている事も同等に可笑しいことだろう。だが、ここでは常識や固定観念に縛られる必要はない。誰も触れられやしない二人だけの空間だ。外野が何をほざいたって意味などない」
その言葉を聞いたとき、レイの中で何かが吹っ切れた。
自分の恨みがデイレスの恨みとして代弁され、無様にも殺された奴らの末路に安堵して。
「本当に、僕の心の奥底まで読み取れちゃうんだね。兄さんには逆らえないや……」
「レイの生き血を体内に含んだことで、契りとしてお前の心情が俺の中で共有される。言い換えれば俺がレイの記憶を覗き、精神を支配することだって可能だ。逆らえるものなら逆らってみろ。従順な子犬としてしか生きられなくなるぞ」
そういえばそうだった。
化物が生き血を吸えば、その人間の位置やら何やら全てを把握できるようになると。
そんな話を数日前に聞いた気が……
興奮と幸福感で脳が上手く回らず、余計な記憶が抹消されていく。
まるで山に霧がかかるように。
「兄さん……」
レイは言うまでもなく、デイレスに翻弄されていた。
彼の全てに魅了され、骨抜きである。
「このまま、愛し合って永遠の時を過ごせばいい。俺の愛に溺れていろ」
擽るデイレスの舌は段々と首筋の方へ降りていき、しゃぶるようにして噛みついた。
最上級の血の匂いが香る。
もうすぐで我慢しきれず、今にも尖った牙を突き立ててしまいそうだ。
「んぐっ……そこもっ、気持ちいっ、ああっ」
絡まる赤い舌、掠まる熱い吐息、触れる突起のない人間の犬歯の感覚が首筋からレイの全身にびくびくと伝わる。
吸い付く勢いは加速していき、デイレスの口からも衝動を我慢する喘いだ声が喉を絞めるようにしてレイの耳元に漏れる。
「ん……まだ、大丈夫っ……」
「兄さん、もう解き放っちゃいなよ。もう、苦しそうだよ。ほら、本当の兄さんを僕に見して」
熱を帯びた掌がデイレスの白い頬にくっつく。
レイの仕草、言葉、甘える声色、伝わる人肌、全てが原因、決め手だった。
その上からがっしりとレイの手首を掴んだデイレスの右手の指先は、鋭い爪が伸び始めた。
汚れも傷もない透明な爪は、段々と黒くなって、光沢をも帯びていく。
その変化の様子にレイは体の底から沸き上がる興奮と快感を覚えた。
「吸血衝動、起こしちゃった?」
「……吸い付くされて後悔しても仕方ないぞ。お前がこの死神様を目覚めさせたのだからな」
低く透き通った声に妖艶さが交じる。
レイの顔の脇に眼鏡が置かれ、露になったその眼は鮮血の色に染まり、その瞳が本性を現す。
縦長の瞳孔の鋭さは血肉に飢えた獣の目をしている。
パキリと骨が軋む音を立てて三角に尖った耳が形成され、短髪はみるみると肩の高さまでなる長髪へと変わった。
黒髪は光に反射して艶を帯びて、神秘的な銀色になる。
嗤う彼の口元から二つの鋭い牙が生え、腰から蝙蝠の羽を目一杯広げて見せた。
もうここから逃れることはできない。
呻き声を上げた死神がレイの首筋に一目散に牙で肌を刺して血飛沫をベッドの純白なシーツに飛び散らせた。
喉から化物の唸り声を鳴らし、ごくりごくりと極上の甘い血を喉へ運ばせる。
一瞬にして理性は飛んで、消えた。
「吸血されてるっ……痛い、痛いよっ、でも、痛みが気持ちよく感じるっ……!もっと、もっと吸い上げてよっ」
レイの灰色の瞳から一筋の涙が零れる。
痛みと快楽から出たそれも乱れた布団に染みを作る。
首筋に大きな、それも深い穴を空けられて痛くてしょうがないのに、体がジンジンとしてきて、気持ちよさを求める。
傷口からどくどくと流れて滴る血液をデイレスが一筋も溢すことなく舐めて吸血していく。
ひゅう、と声にならない声は絶え間無く続いた。
この時をどれ程待ち望んでいたか。
レイの体が、不意にびくびくと脈打つ。
体が、生命の危険を感じているのだろうか。
それとも快感で……?
満足を超えて、心も体もそれ以上の何かを求めている。
ああ、まだ物足りないと。
愛情はそんな程度ではないと。
デイレスの銀髪がレイの顔に垂れている。
さらさらで、水のようにレイの指の隙間から流れる。
「兄さん……?」
力の抜けた、甘えた声でデイレスの名前を囁く。
しかし、そんな彼はレイの赤い蜜に夢中になって返事をすることはない。
デイレスの口元の突起が時折ちくりと触れ、レイはふふっ、と感情をひた隠すように微笑む。
「じゃあ……さっきのお返し、してあげる」
レイが火照った体から放出される熱と共に小さな舌をべっ、と出した。
レイの舌先が、デイレスの耳に絡まる。
奇っ怪に尖った耳の根元から先まで、飴玉を舐め尽くすように。
「……っ!?レイ、何をして……」
首筋に差し込まれた牙が抜けた。
理性を取り戻した彼の瞳はやはり、本来白目であるところが真っ黒になっていて赤い瞳の光彩も禍々しい眼光を帯びていた。
レイが耳の節々を舐める度にデイレスが体をびくつかせる。
「やめっ、そこは敏感だから……ああっ!?」
レイは勢いを弱めることなく舌先で愛を伝え続ける。
銀や黒の厳ついピアスの部分も丸ごとカプリとレイの熱々な口内に入れて。
「情けないね、兄さん。今度は弟に舐められちゃってる。……でもまだ終わりじゃないよね?」
レイの垂れ目は愛と欲求に飢えている。
それはデイレスも一緒だ。
不敵な笑みを見せたデイレスが、レイのシャツを無理矢理引っ張って、彼の右肩を露にさせる。
真っ白な、傷一つない左肩に何度もキスの痣を残して。
「くすぐったい……」
「こっちの台詞だ。敏感なところばかり攻めるな……んっ、んん……」
「何?気持ちよくないの?」
「ち、違う!断じてそういう訳じゃ!」
問われたデイレスはひどく取り乱す。
荒げた血生臭い吐息がレイの顔にかかる。
きっと無意識なのだろう。
デイレスの腰の羽がぱたぱたと動いていた。
「感情がでちゃってる。……ほら」
タキシードのように、背中側に切れ込みの入ったロングコートの内側にレイが右手を入れる。
羽の根元付近の背中の肌を指で上から下まですっと一直線になぞる。
突然押し寄せてきた激しい感覚にデイレスが目を見開き、腰を抜かした。
脱力した彼の体重の一部がレイに乗っかる。
「なっ、何だ今のはっ!?」
蝙蝠の形状をした羽が上下に小刻みに動き、痙攣している。
「羽、興奮してたのかすっごい動いてたよ。今もびくびくしちゃってるけど」
「や、止めろ。これ以上は俺でも絶えられる気がっ、」
「兄さんったらそれって振り?さっき僕が兄さんに仕置きを受けた時だってオーバーキルしてたじゃん」
背中を優しく触り、撫でる感覚は止まらない。
なんて事だろうか。
悪戯で行った行為が自分に帰ってきてしまうだなんて。
デイレスの喘ぎ声も止まらず、そこに死神の威厳は欠片もなかった。
この空間にいるのは濃密な時を過ごす快楽と互いの愛に埋もれた少年と牙を持った死神。
お互いの仕返しは終わることなどない。
両者とも、それを求めてしまっているのだから。
「まだ兄さんの噛んだ痛みが残ってる。というか血、止まってないじゃん」
傷痕が余りにも深すぎたのか血液が未だ傷口から滴っていた。
「なら血が止まるまで舐め回して吸ってやる。レイは舐められる事が好きなのだろう?困った子だ」
「僕が兄さんの耳を咥えた時人の事言えない位敏感になって声あげてた癖に……あっ、そこ痛い、もっとやって」
牙を使わずに啜る音が響く。
レイも器用に左手でデイレスの耳たぶを掴みながら右手で翼の神経の多いところをこりこりと撫でたり擽ったりしていた。
どちらもベッドに身を委ね、デイレスがレイに折り重なるように彼の真左にいる。
乱れる呼吸と喘ぎは加速し、さらなる熱を帯びていく。
時間なんて知ったこともない。
と、再び血眼になったデイレスが、自身の鋭い爪で舌先を引っ掻き、指に血を付着させた。
縦線を描いた傷は再生能力で少しもしない内に元通りに治る。
「レイ、口を開けろ」
「ん……」
レイの口内にデイレスの人差し指が入る。
触れただけで口の中が切れそうな鋭い爪であるが、レイの舌は問答無用で彼の指に絡み、巻き付く。
「なにこれ、てつくひゃい」
「滑舌が回っていないぞ。血をくれた礼に俺の血液を与える。飲み込め」
口に広がった鉄臭いそれを嫌な顔をしつつ、唾液と一緒にごくりと飲む。
デイレスの指には粘り気を含んだレイの唾液がくっついたが、さも当然のように自身の口へ入れ、舌で掠め取った。
「兄さん……何か体が熱い。異常なくらいに火照ってる」
「そうか、効果が出てきたか……」
意識が虚ろになってきたレイがデイレスに抱きつく。
体の奥底から沸き上がる熱さに、シャツを投げ捨て、裸体のままデイレスの身を包んだ。
「簡潔に言えば血を吸った俺の、主人の血液は媚薬のような役割をする。感度が異常なまでに膨れ上がるから覚悟してろ」
風邪をひいたように顔を赤くしたレイの細身で白い肌に、背中や胸元をデイレスが愛おしく愛撫でする。
「ひゃうっ!?」
小動物の鳴き声のような甲高い声を上げたレイが全身をびくりと震わせた。
それはデイレスに触れられるだけでとてつもない反応を引き起こし、何回も痙攣のように震える。
やや暴れかけていたレイの上半身に追い討ちをかけるようにデイレスの触れる行為は止まらない。
右腕で彼が変に暴れないよう押さえつけ、左手は彼の各部位を愛撫でしていく。
「いやっ、ら、らめぇ……」
「レイっ、何でお前はそんなに可愛いんだ。俺の虐めたい欲が限界を越えそうだ……!」
デイレスの舌がレイの舌と絡まり合う。
とぐろを巻くように、何度も唾液ごと絡め、擬音をたてて、空気に触れる隙間を無くして。
「んぐっ、ん、ん、」
有無を言わせない舌先はレイの中身を、全てを壊す。
もう少しで窒息してしまいそうだ。
レイの両目が悲鳴をあげるようにして大粒の涙を流し、瞳は虚ろに上を向いていた。
無意識なのに、腰をへこへこさせて、揺らしている。
「ぷはっ、はあっ……はあっ、ああ、そこも、止めてっ、何でこんなとこまで敏感にっ」
「こんなに小さい乳首でもお前は喘ぐのか?なら、そこのズボンを突き上げたそれを触ったらどうなるか……」
デイレスが今まで以上に悪い笑みを浮かべた。
牙を剥き出しにして、嗤う。
「っあああ!!んんっ、らめだっえぇ!」
しばらくレイはデイレスによって全身を快感でかき回され言葉も出せないまま力尽きて裸体のまま尽き果てた。
それはデイレスも同じく意識を失って。
レイのズボンにはまるでおねしょをしたような、けれどもねっとりとした染みが広がっていたのだった。
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※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!
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桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
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