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隠しきれないこの想い
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「まさか……さっきまでいた先生も幻覚だったの?」
振り返ったそこに、いつもの彼はいなかった。
怪しげに口角を上げた死神がレイの頬を執拗に撫でている。
レイの背後から逃げられないように肌に絡み付き、腕を回した死神は、彼の耳元で囁いた。
「何を言っている、姿形が変わったからといってどちらもお前が大好きな兄だぞ。大事なお前を幻術なんかで操りはしない。ああ、そんなに怯えないでくれ。余りにも可愛い過ぎて俺の喉がお前の血を欲しがっている」
いつもの彼の安心する声に妖艶さが入り、レイを惑わす。
レイの瞳に映ったのは肩まで伸びた銀色に反射する白髪に、真っ赤な双眸の獣のような瞳孔をした化物。
ニヒルに嗤う口からは長く、非常に尖った二つの牙が見え隠れしていた。
銀色のピアスが付いた耳も奇妙に尖っている。
死人のように冷たく、黒い爪を持った指からは血の臭いがしてレイの鼻をつく。
でもその姿に兄としてのいつものデイレスの面影はあって、寧ろ今の怪しきオーラを纒い、悪戯に嗤う姿の方が本来の彼らしいと感じられる。
それは彼の妖艶さに引き込まれてしまっているからなのだろうか。
レイの身に感じたことのない痺れともまた違う感覚が走る。
それは死神を前にした恐怖、絶望、心臓の悲鳴。それと幸福感。
それらが合わさった衝撃と感情だ。
レイの全身がそれらによって麻痺して動かないのに体から自然と吐息が漏れる。
「ほ、本当に、先生なの?どうして僕をここに?もしかして、僕は殺されちゃうの?」
乱れた感情は涙となってレイの頬を伝う。
そんな彼の一滴をデイレスはその鋭く尖った爪で掬い上げた。
その指を舌になぞって。
デイレスが何を思ったのか目を細め、ずっと彼を見つめている。
レイは眼鏡を外した彼の鋭利な視線に虜になっていた。
デイレスの、舌に乗った指を光を失った瞳でぼんやりと見る。
「そんなこと、俺がレイにするとでも思ったか。いいか、俺とレイはこの廃れた教会の闇の中、永久の時を過ごす。この日をどれだけ待ち望んでいたことか。レイが日々心無い人間共に傷つけられて俺も心配で気が狂いそうだった……が、その不安な生活もやっと終わる。お前を虐めた塵も斬り殺してやった。お前が望むことなら何だってしてあげよう。ただ生憎、俺はお前を守りたい。人間なんかの前にレイを見せたくないし、俺のものだけでいて欲しい。だからレイ、俺とずっと一緒にいてくれないか」
普段と正反対の粗野な口調から溢れたレイの二文字に堪えきれない程の興奮が体の底から沸き上がった。
死神の底知れぬ愛を感じてしまったからだろうか。
人でないという事実と殺しに飢えているという本来の彼の姿もレイにとっては興奮の促進剤でしかない。
況してや永久に彼と薄暗い教会の地下で彼のために身を捧げる人生など他のどんな天職に就くより素晴らしいことではないか。
溢れる吐息を漏らしながらレイは大きく頷く。
「はぁっ、はっ、せ、先生……それは、幸せ……です。一生、二人で居られるなら……」
「ははっ、先生と呼ぶのはもう止めろ。俺とレイの関係はそんな陳腐なものではないだろう?俺の前では敬語も禁止だ。さあ、いつものようにこの俺を兄と呼んでくれ」
重厚感のある、けれども甘ったるい声はレイを高揚させる。
デイレスがコツリコツリとレイの前に出て、祭壇上の椅子に堂々と腰掛け、足を組んだ。
彼の体は黒くて禍々しい炎に包まれ、スーツ姿から如何にも支配者のような黒いロングコートを羽織った死神の格好へと変わる。
長く、怪しさを増すその前髪をかき分け、右手を椅子に立て掛けられた黒い刃の大鎌へと伸ばす。
「さあ最愛なる弟よ、こっちへ来い」
微笑むデイレスの口の端からは猛獣の牙が零れていた。
鎌の刃は立ち竦むレイの首をぐるりと一周囲んで背後から喉仏の方へと鋭い刃の先が向いている。
ああ、脅されている。
全身が震える。
その震えは死の淵に立たされたことによる人間としての怯えだったが、段々と堪えきれなかった愛に気持ちは上書きされていく。
「デイレス兄さん……!」
溢れだした想いがその一単語に込められていた。
''十八でその呼び方は拙い''
もうすぐ一人立ちして職を見つけなければいけない年齢だというのに親権者をそんな風に呼べるのだろうか。
ある時ふとした自問自答の刃物は心の痛みとしてレイに突き刺さった。
今彼に向けられている大鎌の刃先のように。
それからは公の場以外で彼の名前そのものを呼ぶことは非常に少なくなった。
もう、甘えていられないから……
無理にデイレスから離れたレイは彼の心情から背いた。
デイレスの心情はやがてこの歪んだ欲求不満と化し、強行手段となる監禁の末路に陥った。
勿論原因はこれだけではなく、山々あるのだが。
彼から零れ落ちた言葉にデイレスはまた、満足気に目を細める。
一歩、また一歩と彼の元へ近寄るレイを包容するために両手を広げて。
デイレスが手離した大鎌は硬質な地下室の石の床に落ちて大きな金属音を響かせる。
鎌など斬首の為か可愛い子猫が逃げないように脅すだけのただの道具。
レイが従ってくれるなら死神のトレードであるものなど捨てたって構わないのだ。
デイレスの視界には今の彼と数年前のレイが幻影として重なっていた。
背も肩幅も少女のように小柄で、自分だけに見せる普段人見知りの彼の無邪気な笑顔は死神の吸血衝動を引き起こすに十分なものだった。
’’無垢な子供の血は美味しい’’
そんな噂がかつてあった。
何千年という長い寿命の中で一度は口に含んでみたいとは思っていたが、本当にそのチャンスが来るとは。
数百年の歴史を持った村外れにひっそりと建つセーラ大聖堂に孤児として神父と住む少年は、日々神父からの洗礼による洗脳で純粋にも、それは無知にも張りぼての十字架を握って石膏の女神像に祈りを捧げていた。
いつかこの祈りが届いて報われると。
神は日々の行いを空から見守ってくれていると。
そんな彼を星が輝く夜空の下で謁見していたのは神は神でも死神だった。
肩に担いだ大鎌と腰から生える不吉な蝙蝠の翼。
本能に駆られたデイレスは彼を迎え入れることを決意した。
表方では教師として働き、人間の村に家を建てて紛れているから金にも人徳にも困らない。
かのような子供など緊張さえ解いてしまえばいつかその身を自ら委ね、首筋を露にしてくれる。
極上な血液をこの舌に垂らして欲しい。
神父を斬り殺し、都合のいい嘘をついて少年を騙す。
教会の地下室を真の居住地とし、丁重に飾り付けした骨のコレクションは日々増えていき、小瓶を叩き付けて撒き散らした幻覚を魅せる薬は充満する。
夜のアジトで行われる斬首と死体をメインディッシュとした食事はいつものこと。
生肉や血を啜る行為は理性がそれを拒んでも本能で獣が何でも食らうように暴食と化す。
しかし、死神の食事だったその行為は何時しか異なった部類の欲求へ、快楽は暇潰しの虚無へ格が下がって、従順で子猫のように臆病で警戒心の強い彼の世話をすることが今までのそれとなった。
いつか心を開いて欲しいと心から願った。
レイの愛嬌に魅入られる感情は理性が吹っ飛んだ時の暴食と紙一重で、レイの義兄として血縁関係を越えたこの世で最も大切な彼を守ることは最大の偏愛になっていたのかもしれない。
彼がこれ以上苛められず、平和に暮らしてくれるならそれで十分。
アジトの大量に揃った薬の瓶から掛け合わせて作った催眠薬で他の生徒を教会へと誘拐し、背中丸出しのところ、彼らの憎き首を一斉に鎌に掛ける。
レイを良い目で見ない大人も一体何人殺しただろうか。
レイの為ならどんなことでも無償でやってみせる。
その無邪気な笑顔を見れるならそれでいいのだ。
永遠に等しい長すぎる生涯の一欠片を全て捧げたっていい。
でももう我慢できない。
最後の授業を期に五年間溜まりに溜まった欲求を本能のままに開放してしまおう。
教師なんてままごとも辞めて自立に思い悩むレイをこの身に引き込ませて戻れなくしたい。
歪んだ愛を全身に巻き付いた包帯から解き放って死神の支配欲と独占欲で自分の中身をレイで満たしたい。
噂など抜きで彼の生き血を本能のままに啜りたい。
とうに止まった心臓が熱い胸の高鳴りを響かせている。
レイの前でやっと自分の本当の姿を見せたことが嬉しくてしょうがない。
興奮で仕舞っていた腰の羽がバサリと広がり、赤き深淵は漆黒の闇の中で怪しい光彩を放つ。
不安気に彼の手に触れるレイを彼が泣きじゃくっていたあの時のようにやさしくこの身で包み込む。
乱れるレイの吐息が耳元を擽り人の体温が熱を持たない体に移っていく。
抱き抱えたレイを自らの膝の上に乗せ、童子のように嬉しく目を細めるレイの頭を優しく撫でた。
デイレスの銀色に反射する直毛はレイのふわりと微風に靡く栗色の髪に垂れ下がる。
一生離すものか。
デイレスの愛と血を求めた舌がレイの細くて白い首筋に跡を残す。
「っ……!」
レイが顔を紅潮させる。
それは首筋を舐められたことによって不意に沸き上がった快感だった。
腐敗した体の残骸から匂う異臭も鮮血の臭いも不快に感じない。
突如走った快感でレイの全身の力は脱力し、彼の全体重が、深く腰掛けたデイレスへと伝わっていく。
デイレスを見上げるレイの、死神に囚われた瞳と赤い頬、唇はまるで少女のようだ。
「レイ……お前はなんて罪な子なんだ。このままだと俺の理性が持たない。だが……実に可愛い。一生お前を放すものか!」
デイレスのレイを抱く両手がきゅっと絞まる。
互いの距離が間近になった結果、二人の吐息が各々の耳元に直接吹き掛けられ、レイは「ああ……」と小さく声を漏らす。
互いに正気を失った肌はそれぞれ青白さ、紅潮の色を帯びて一つに交わる。
「兄さん……僕も兄さんのことが好き。だから……もし世間が許してくれるなら、世間が僕を見放すなら僕はデイレス兄さんとずっと一緒がいい!」
「レイっ!……ちっ、ダメだ。我慢できねえ!」
理性の箍が外れたデイレスが豪快にレイの首もとにかぶり付く。
じゅるじゅると品性など無しに啜る音をたてて。
血管を突き破る牙は真っ赤に染まり、傷口からどくどくと溢れでる鮮やかな甘いフレーバーは彼の渇いた喉を潤した。
振り返ったそこに、いつもの彼はいなかった。
怪しげに口角を上げた死神がレイの頬を執拗に撫でている。
レイの背後から逃げられないように肌に絡み付き、腕を回した死神は、彼の耳元で囁いた。
「何を言っている、姿形が変わったからといってどちらもお前が大好きな兄だぞ。大事なお前を幻術なんかで操りはしない。ああ、そんなに怯えないでくれ。余りにも可愛い過ぎて俺の喉がお前の血を欲しがっている」
いつもの彼の安心する声に妖艶さが入り、レイを惑わす。
レイの瞳に映ったのは肩まで伸びた銀色に反射する白髪に、真っ赤な双眸の獣のような瞳孔をした化物。
ニヒルに嗤う口からは長く、非常に尖った二つの牙が見え隠れしていた。
銀色のピアスが付いた耳も奇妙に尖っている。
死人のように冷たく、黒い爪を持った指からは血の臭いがしてレイの鼻をつく。
でもその姿に兄としてのいつものデイレスの面影はあって、寧ろ今の怪しきオーラを纒い、悪戯に嗤う姿の方が本来の彼らしいと感じられる。
それは彼の妖艶さに引き込まれてしまっているからなのだろうか。
レイの身に感じたことのない痺れともまた違う感覚が走る。
それは死神を前にした恐怖、絶望、心臓の悲鳴。それと幸福感。
それらが合わさった衝撃と感情だ。
レイの全身がそれらによって麻痺して動かないのに体から自然と吐息が漏れる。
「ほ、本当に、先生なの?どうして僕をここに?もしかして、僕は殺されちゃうの?」
乱れた感情は涙となってレイの頬を伝う。
そんな彼の一滴をデイレスはその鋭く尖った爪で掬い上げた。
その指を舌になぞって。
デイレスが何を思ったのか目を細め、ずっと彼を見つめている。
レイは眼鏡を外した彼の鋭利な視線に虜になっていた。
デイレスの、舌に乗った指を光を失った瞳でぼんやりと見る。
「そんなこと、俺がレイにするとでも思ったか。いいか、俺とレイはこの廃れた教会の闇の中、永久の時を過ごす。この日をどれだけ待ち望んでいたことか。レイが日々心無い人間共に傷つけられて俺も心配で気が狂いそうだった……が、その不安な生活もやっと終わる。お前を虐めた塵も斬り殺してやった。お前が望むことなら何だってしてあげよう。ただ生憎、俺はお前を守りたい。人間なんかの前にレイを見せたくないし、俺のものだけでいて欲しい。だからレイ、俺とずっと一緒にいてくれないか」
普段と正反対の粗野な口調から溢れたレイの二文字に堪えきれない程の興奮が体の底から沸き上がった。
死神の底知れぬ愛を感じてしまったからだろうか。
人でないという事実と殺しに飢えているという本来の彼の姿もレイにとっては興奮の促進剤でしかない。
況してや永久に彼と薄暗い教会の地下で彼のために身を捧げる人生など他のどんな天職に就くより素晴らしいことではないか。
溢れる吐息を漏らしながらレイは大きく頷く。
「はぁっ、はっ、せ、先生……それは、幸せ……です。一生、二人で居られるなら……」
「ははっ、先生と呼ぶのはもう止めろ。俺とレイの関係はそんな陳腐なものではないだろう?俺の前では敬語も禁止だ。さあ、いつものようにこの俺を兄と呼んでくれ」
重厚感のある、けれども甘ったるい声はレイを高揚させる。
デイレスがコツリコツリとレイの前に出て、祭壇上の椅子に堂々と腰掛け、足を組んだ。
彼の体は黒くて禍々しい炎に包まれ、スーツ姿から如何にも支配者のような黒いロングコートを羽織った死神の格好へと変わる。
長く、怪しさを増すその前髪をかき分け、右手を椅子に立て掛けられた黒い刃の大鎌へと伸ばす。
「さあ最愛なる弟よ、こっちへ来い」
微笑むデイレスの口の端からは猛獣の牙が零れていた。
鎌の刃は立ち竦むレイの首をぐるりと一周囲んで背後から喉仏の方へと鋭い刃の先が向いている。
ああ、脅されている。
全身が震える。
その震えは死の淵に立たされたことによる人間としての怯えだったが、段々と堪えきれなかった愛に気持ちは上書きされていく。
「デイレス兄さん……!」
溢れだした想いがその一単語に込められていた。
''十八でその呼び方は拙い''
もうすぐ一人立ちして職を見つけなければいけない年齢だというのに親権者をそんな風に呼べるのだろうか。
ある時ふとした自問自答の刃物は心の痛みとしてレイに突き刺さった。
今彼に向けられている大鎌の刃先のように。
それからは公の場以外で彼の名前そのものを呼ぶことは非常に少なくなった。
もう、甘えていられないから……
無理にデイレスから離れたレイは彼の心情から背いた。
デイレスの心情はやがてこの歪んだ欲求不満と化し、強行手段となる監禁の末路に陥った。
勿論原因はこれだけではなく、山々あるのだが。
彼から零れ落ちた言葉にデイレスはまた、満足気に目を細める。
一歩、また一歩と彼の元へ近寄るレイを包容するために両手を広げて。
デイレスが手離した大鎌は硬質な地下室の石の床に落ちて大きな金属音を響かせる。
鎌など斬首の為か可愛い子猫が逃げないように脅すだけのただの道具。
レイが従ってくれるなら死神のトレードであるものなど捨てたって構わないのだ。
デイレスの視界には今の彼と数年前のレイが幻影として重なっていた。
背も肩幅も少女のように小柄で、自分だけに見せる普段人見知りの彼の無邪気な笑顔は死神の吸血衝動を引き起こすに十分なものだった。
’’無垢な子供の血は美味しい’’
そんな噂がかつてあった。
何千年という長い寿命の中で一度は口に含んでみたいとは思っていたが、本当にそのチャンスが来るとは。
数百年の歴史を持った村外れにひっそりと建つセーラ大聖堂に孤児として神父と住む少年は、日々神父からの洗礼による洗脳で純粋にも、それは無知にも張りぼての十字架を握って石膏の女神像に祈りを捧げていた。
いつかこの祈りが届いて報われると。
神は日々の行いを空から見守ってくれていると。
そんな彼を星が輝く夜空の下で謁見していたのは神は神でも死神だった。
肩に担いだ大鎌と腰から生える不吉な蝙蝠の翼。
本能に駆られたデイレスは彼を迎え入れることを決意した。
表方では教師として働き、人間の村に家を建てて紛れているから金にも人徳にも困らない。
かのような子供など緊張さえ解いてしまえばいつかその身を自ら委ね、首筋を露にしてくれる。
極上な血液をこの舌に垂らして欲しい。
神父を斬り殺し、都合のいい嘘をついて少年を騙す。
教会の地下室を真の居住地とし、丁重に飾り付けした骨のコレクションは日々増えていき、小瓶を叩き付けて撒き散らした幻覚を魅せる薬は充満する。
夜のアジトで行われる斬首と死体をメインディッシュとした食事はいつものこと。
生肉や血を啜る行為は理性がそれを拒んでも本能で獣が何でも食らうように暴食と化す。
しかし、死神の食事だったその行為は何時しか異なった部類の欲求へ、快楽は暇潰しの虚無へ格が下がって、従順で子猫のように臆病で警戒心の強い彼の世話をすることが今までのそれとなった。
いつか心を開いて欲しいと心から願った。
レイの愛嬌に魅入られる感情は理性が吹っ飛んだ時の暴食と紙一重で、レイの義兄として血縁関係を越えたこの世で最も大切な彼を守ることは最大の偏愛になっていたのかもしれない。
彼がこれ以上苛められず、平和に暮らしてくれるならそれで十分。
アジトの大量に揃った薬の瓶から掛け合わせて作った催眠薬で他の生徒を教会へと誘拐し、背中丸出しのところ、彼らの憎き首を一斉に鎌に掛ける。
レイを良い目で見ない大人も一体何人殺しただろうか。
レイの為ならどんなことでも無償でやってみせる。
その無邪気な笑顔を見れるならそれでいいのだ。
永遠に等しい長すぎる生涯の一欠片を全て捧げたっていい。
でももう我慢できない。
最後の授業を期に五年間溜まりに溜まった欲求を本能のままに開放してしまおう。
教師なんてままごとも辞めて自立に思い悩むレイをこの身に引き込ませて戻れなくしたい。
歪んだ愛を全身に巻き付いた包帯から解き放って死神の支配欲と独占欲で自分の中身をレイで満たしたい。
噂など抜きで彼の生き血を本能のままに啜りたい。
とうに止まった心臓が熱い胸の高鳴りを響かせている。
レイの前でやっと自分の本当の姿を見せたことが嬉しくてしょうがない。
興奮で仕舞っていた腰の羽がバサリと広がり、赤き深淵は漆黒の闇の中で怪しい光彩を放つ。
不安気に彼の手に触れるレイを彼が泣きじゃくっていたあの時のようにやさしくこの身で包み込む。
乱れるレイの吐息が耳元を擽り人の体温が熱を持たない体に移っていく。
抱き抱えたレイを自らの膝の上に乗せ、童子のように嬉しく目を細めるレイの頭を優しく撫でた。
デイレスの銀色に反射する直毛はレイのふわりと微風に靡く栗色の髪に垂れ下がる。
一生離すものか。
デイレスの愛と血を求めた舌がレイの細くて白い首筋に跡を残す。
「っ……!」
レイが顔を紅潮させる。
それは首筋を舐められたことによって不意に沸き上がった快感だった。
腐敗した体の残骸から匂う異臭も鮮血の臭いも不快に感じない。
突如走った快感でレイの全身の力は脱力し、彼の全体重が、深く腰掛けたデイレスへと伝わっていく。
デイレスを見上げるレイの、死神に囚われた瞳と赤い頬、唇はまるで少女のようだ。
「レイ……お前はなんて罪な子なんだ。このままだと俺の理性が持たない。だが……実に可愛い。一生お前を放すものか!」
デイレスのレイを抱く両手がきゅっと絞まる。
互いの距離が間近になった結果、二人の吐息が各々の耳元に直接吹き掛けられ、レイは「ああ……」と小さく声を漏らす。
互いに正気を失った肌はそれぞれ青白さ、紅潮の色を帯びて一つに交わる。
「兄さん……僕も兄さんのことが好き。だから……もし世間が許してくれるなら、世間が僕を見放すなら僕はデイレス兄さんとずっと一緒がいい!」
「レイっ!……ちっ、ダメだ。我慢できねえ!」
理性の箍が外れたデイレスが豪快にレイの首もとにかぶり付く。
じゅるじゅると品性など無しに啜る音をたてて。
血管を突き破る牙は真っ赤に染まり、傷口からどくどくと溢れでる鮮やかな甘いフレーバーは彼の渇いた喉を潤した。
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