聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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三章

「時間の神」とやり合ってしまった

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【生と死司る輪廻より、貴様らを排除する】

 神は私たちを指差し、そうおっしゃられた。『地上での活動には著しい制限がかけられてるはずです』と、生体型パワードスーツと化したメロウが耳打ちしてくる。
 それでもこの存在感。デコピンだけでス◯イツリーが折れそう。
 生き残れたら奇跡だけど、とにかく短刀を構える。
 反射で受けた。先ほどメロウの胸を貫いた、時計の針っぽい大きな薙刀だ。いつの間にか、神の手に握られていた。力で対抗出来るはずがない。問答無用で吹っ飛ばされる。
 グチョッと、ティラノの死体に受け止められた。

「……だいじょぶ私? 死んでない?」
『大丈夫です。成子ちゃんの生命力を元手にして、聖女の再生能力は健在なので』
「なにそれ不安。寿命縮みそう」『今の心配をしたそうがいいですよ』

 そりゃそうだ。立ち上がる。今死んぢゃったら話にならない。

「刀はっ……折れてない」『そりゃそうですよ。エギューバ様製ですから』
「まぢ? 邪神とか思っててごめんエギューバさま」
『感謝して、そのまま入信しましょう。次来ますっ』
「っ!?」

 豪快な振り下ろしだった。ぶっつぶす気マンマンだ。ただ防御しただけでは、ティラノごとミンチにされる。
 勇気を出して踏み込む。受け流しからの切り返し。腕がビリビリしびれる。しかし技に成功した。「時間の神」の右腕を切断する。
 ノータイムでくっついた。悪魔と違ってイケニエは必要ないらしい。

「しかも斬った感覚からして肉じゃない。なえる~。なえる子ちゃんだよ」
『言ってることやばいですね成子ちゃん』

 上体を後ろに大きく逸らした。普通の人間ならゼッタイに倒れる姿勢。時計の針型薙刀がギリギリを通り過ぎる。コンクリートの道路に衝撃が走った。深い亀裂。粘土の層まであらわになる。佐伯さんは無事だろうか。
 姿勢を戻す勢いそのままに斬りかかった。パワードスーツを着込む前の何倍もの力が出る。下手すりゃ百倍以上。だのにあっさり薙刀で防がれ、あまつさえ巻き取られそうになる。
 あわてて身を引いた。地をはうちっぽけな中学二年生(+α)にも神は待ってくれない。ここぞとばかりに連続突きを放ってくる。高速で。
 とにかくさばく。一撃一撃がクッソ重い。単品でも刀を手放しちゃいそう。指の感覚がなくなってきた。刀を握ってられるだけミラクルだ。
 パワードスーツの腰に薙刀が刺さった。中身の、私の足にもかする。痛いけど、気にするほどのものじゃあない。
 持ち上げられた。まずい、叩きつけられる。歯を食いしばった途端、刃の突き立った部分が弾けた。生身の足首もえぐられる。めっちゃ痛い。でも解放される。パワードスーツの傷はすぐに再生した。
 背中を見せたら終わりだ。
 烈昂の気勢を上げて神に打ち込む。押していく。少しでもミスったらやっぱり終わりだ。パワードスーツメロウを穴だらけにしながらも、薙刀が間合いの内側を侵し、肘と腹に切れ目を入れる。
 脇腹をけった。海の割れ目にホームランする神。暴走した換気扇より早く転がる奴の体に、エギューバ刀をブスリと刺す。そしてかっさばいた。
 振り続ける。駄菓子おまけのサイコロよりも細かくしてやる。
 とはいえ、それでは死なない、止まらないのが神。

【排除する。排除する】

 神の小さなカケラたちが、らせん状に寄り集まった。その上に、オレンジと赤の混じる球が形成される。気温が急上昇し始めた。季節は冬、しかも本来ここは海の底だというに、めちゃくちゃ暑い。熱された海水がふっとうしてる。
 生身だったらゆでだこになって死んでた。

『ハハ……まさかここまでの干渉が許されているとは』「あれは?」
『恒星の赤ちゃんです』「つまり?」
『あのままほっとけば新しい太陽が出来るヤツです』

 ぱ? 言葉を失いかけた。うそん。やっっっっっっっっば。

「終わりじゃん。世界の。知ってるよ私。ああいうの。ブワッと大きくなって地球丸ごと飲み込んじゃうってオチでしょ」
『いや。これは逆にチャンスです。あいつ、仕事を焦りましたね。自らの手で自分にきっつい制約を課しやがりましたよ。神界ならいざ知らず、現世で与えられた権限じゃあ、あの「星の素」の制御は極めて困難でしょう』
「いや、だからダメなんでしょ。暴発したらオダブツじゃん、世界もろとも」
『だからこそ、コントロール出来ないうちには打ち出せない。奴とて世界を滅ぼすのは本意ではないのです。私たちだけ滅ぼせるくらいに整わないと――絞れないと、発射の判断を下せないはずです。とにかく妨害、時間を稼ぐのです! 奴のタイムリミットまで!』
「っ、分かった」

 切先を「時間の神」に向ける。けど、すでに限界までサイコロ化させちゃったし、妨害なんてどうすりゃいいのか。今の私は、斬るしか能がない。

「メロウ。……『聖女』の力で、らせん描く力場そのものを斬れたりする?」
『……やってみます』

 怪しげな聖女オーラが刃に宿る。刻んでやるよ、神のウズ。
 おうちに帰れクズ。
 跳躍した。音速超えてたと思う。横に振りかぶった。
 渾身の一撃は、受け止められる。
 ウズからニュルリと出てきた、人の形をした神のカケラが持つ時計の針によって。
 弾かれた。いったん下がって体勢を直す。

「あー、気持ちわるいなあ」

 クウィン似の人型がいっぱい出てきて、私たちの前に立ちふさがった。
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