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三章
ファイナルステージに進んでしまった
しおりを挟む刀くん刀くん。なんだい成子ちゃん。
悪魔をぶっ殺そう。
刀のやりたいことを聞くと、たどるべき未来が見える。料理と同じだ。エプロンのリボンをしめたくなるけど、あいにく今は着ていない。
悪魔の腹をかっさばく。生首の一つが絶叫をあげ、そのヒフは黒ずむ。しかし、死ぬまではいかない。奴はファンクラブメンバーの会長。議員の娘で、全体的にふくよかなのが特徴なワガママ女。
いい機会なので本音を言うと、ホントは私、あなたの腹にダルダルとついた脂肪、一度削ぎ落としてみたかったのだけど。ここで退場なんて残念。悪魔のアゴに刀を突き刺す。
会長は死んだ。
「なんと素晴らしいっ、この地獄の伯爵たるワタシが、キミの動きを捉えきれてないんだ♪!」
奇形な頭の上に、エネルギーが密度こく収束した。ビームとして発射される。回避した。
少し前までの私なら、まばたき一つ許されずに、大気中のゴミと化していたはず。身体能力が圧倒的に上昇してる。やはり、未来に吸っちゃったナンシーウイルスのせいで進化してる。
人間じゃなくなっちまったかもしんね。メロウのこと言えない。
突き。弾かれた。蹴りを放ってくる。いくら人間から「次の段階に進んだ」とはいえ、悪魔のキックを耐えられるとは思えない。グチャミソの肉塊になる。
全力紙一重。バックで回転。なぞるべき線が見えた。コースに従う。悪魔の首と手足が胴体とさよならした。
ファンクラブの生首が二つ消失する。悪魔復活。
そして放たれる、ビーム、ビーム、ビーム。
かわす。かわす。ちょっとかする。熱くて痛い。
刀くん、残機システムはやっぱりヤッカイだね。そうだね成子ちゃん。ああいやらしい。人殺しはダメだとこだわらずに、ファンクラブメンバーに嫌がらせされた時点で全員ぶっ殺しときゃよかった。
悪魔のパンチ。腕を切り飛ばす。フトコロに入り込んだ。柄をみぞおちに打ちつけたのち、腹を十字型に斬る。
腸が飛び出てきた。気持ち悪い。まずいウインナーソーセージが出来そうだ。
悪魔は気にせず、連続で仕掛けてくる。切り飛ばして間もない腕で肘打ち、膝蹴り、頭突きにタックル。倍の体格でやられると対応が難しい。刀がどこかに引っかかったらおしまいだ。が、逃げや守りに入ったらもっと終わる。よけられるところはよけて、斬れるところは、スムーズな斬撃をお見舞いする。
生首の束を持った手は、攻撃に使ってこない。ひょっとすると、手を離したら残機にならないからじゃない? 物理的に離してみては。
試しにぶった斬ってみた。無意味だった。誘いだったらしい。無理な姿勢を取ったのがアダとなり、脇腹に拳打を喰らいそうになる。ひねって、どうにか回避した。
死ぬかと思った。独断で行動したからだ。刀の言うことだけ聞かなくちゃ。肝に銘じる。
料理の主役は調理器具、戦いの主役は武器。
私の役目は、集中だけだ。深く潜る。
入る。
まるで、世界に自分と悪魔だけしかいないかのような錯覚におちいる。崩れかかった姿勢からでも、悪魔と自分のすべてが把握出来た。指の先まで自由に動く。でも自由には動かない。
自動だ。武器への絶対服従だ。過程も結果も、すでに決まってる。
一気にかけ抜けた。細かなブロックに分解される悪魔。播磨くんファンクラブメンバーたちの生首が一瞬で消失する。しかし完治しない。
「一瞬だったけれど、キミと戦えて良かったなあ。ワタシは地獄に帰るよ」
悪魔はおもしろそうに言う。
「そしておめでとう♪ ファイナルステージだ♪」
夜の道に、魔法陣が青く光った。呼応して、別の魔法陣が何重にも現れる。悪魔の体は代償として支払われ、なくなった。
静かになる。ゴクリとツバをのんだ。これは、嵐の前の静けさだ。
パッと夜空にゲート現る。かざり気のない、シンプルなものだ。ボーゼンと眺める。とてつもなくヤバい。
今まで見てきたものの中で一番ヤバい。
喉どころでなく、眼球も、脳も枯れそうだ。扉の向こうにあるものは、私の理解を超えている。私はちっぽけな存在だと、それだけは理解出来る。
幻聴がする。
宇宙は始まる。よって進む。終わりの有無など些細なこと。
しかし不可逆は絶対である。時は戻らぬ。秩序を乱してはならぬ。
その壁を越えるは禁忌。
破る者はただ罰されるのみ。
我は時間の守護者、『時間の神』なり。
ゲートが開いた。あふれる神気に呼吸が止まる。
ギュルギュルとウズを巻き、時計の針となった。先がひどく尖ってる。
ああ、あれが私を殺すのか。頭を突き刺し、脳を飛び散らせるための。そう感じた。
ダメだ。刀を下ろす。次の一秒が過ぎる間に、私は死ぬんだろうな。あの世に行ったら、フソンでナマイキなファンクラブの連中に、ティラノと悪魔を倒したって自慢しよう。
播磨くんとのファーストキスも。
目をつむる。
命を奪う衝撃が、いつまで待っても来ない。まぶたを開けた。針は、私の眉間前わずか数センチの位置で止まっている。
豊満な二つの胸の、ど真ん中に穴を開けて。
守られたのだとさとる。とっさに彼女の首を斬った。
私のカンはピシャリと当たり、胴体は針とともに、ゲートの向こうへと回収される。
ポトリと落ちる首を抱えた。
「メロウ」
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