聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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三章

悪魔にふっかけられてしまった

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「素ぅ晴ぁらぁしぁい♪!」

 パチパチパチパチ。拍手の音が、海の夜空にひびき渡る。
 得体の知れぬまがまがしさを感じる。しかし殺意はないらしい。振り向くと、スーツを来た怪人がいる。シルエットしか分からないけど、頭の形が人じゃない。着ぐるみとかカブトとか? それとも。
 斬って断面を見たい。

「ああ美しきかなこの世界♪ ワタシのアトリエ♪ キミ、絵は描くかあい?」
「絵? この前メロウに、地図を描いてあげたっきりだよ」
「そりゃあ勿体無いってものだ。あんなにも美しい剣筋を描くのに」

 怪人は、ティラノの死体を指さす。

「尤も、美し過ぎて、キミのかつての仲間たちから怖がられてしまったようだけれど」
「仲間?」「ほら。ご覧」

 怪人はスーツの下から、ジャラジャラとした、水風船のセットらしきものを取り出した。タイミングよく雲が晴れる。月明かりが怪人を照らす。
 水風船だと思ったものは、人の生首だった。
 たくさんの、見覚えある女子中学生の生首。しかも、どんな魔法がほどこされてるかはまったく知らないけど、まだ全員生きている。

「シュミわる。あんたを怖がってんじゃない?」「ふふ。かもね」

 そういえば。今さら気づく。召喚しそうなグループは、「成子ちゃん親衛隊」のほかにもう一つあった。学校一の美少年アイドルがカゼでも引けばすぐにサバトをとり行った、あのストーカー集団。

「ナンシー・レイチェルと組んで人類を滅ぼそうとしてたのは、あんたか」
「ご名答♪」「播磨くんファンクラブに呼び出されてたのね」
「つまらない連中だったなあ。キミを呪い殺そうと画策して行った儀式が魔界とリンクしちゃって、ワタシを召喚したんだ。恐怖とパニックでめちゃめちゃだったから、容易く完全支配出来た。本当は、キミの親衛隊をマークしてたんだけれどねえ。運転免許がある人間の方が使いやすいだろう? 直接呼んでくれなかったから、裏技駆使してトランス状態にするので一苦労だったよ」
「ナンシーとはどこでつながったの?」
「前から契約してたのさ。『時間の神』による仲介で。キミとエギューバの使徒が出会って、運命の流れが変わってしまった時から」
「裏切られて絶望した自称聖女は、本来あそこで退場していた予定だったってこと?」

 チャラチャラしていた悪魔の動きが、止まった。

「で、新しい退場のステージを用意するため、『時間の神』は手を打った。人類滅亡もいとわずに。そこまでするのは、エギューバはとても嫌われてる神様で、そして、あのウイルス……再生系クリーチャーメロウの生命活動を確実に止めるために作られたものなんじゃない? 私には効かなかったようだけど、いや、ナンシーの言葉を借りれば、次の段階に進んだ・・・・・・・・みたいだけど。だからティラノもやれたんだと思う。ねえ悪魔。メロウはあとどのくらい保つ?」
「う、お、お、お……」

 悪魔の体がワナワナ震える。生首のかたまりを頭上にかかげた。
 狂ったよろこびにあふれてる。

「エクセレント! スンバラシイ♪! 正しい歴史で、世界を一夜にして塗り替えただけのことはある! 未韋成子、そこらの有象無象とはやはり格が違う! 殺しを楽しむ異常精神! 観察力! 美しく冷たいロジック! なにより、私を前にしても恐怖しない心の強さ!」

 正しい歴史? メロウと私が出会ってない世界線。定食屋「まだい」がや◯い軒以上のレベルで全世界チェーン化したのかな?
 短刀の切先を悪魔に向けた。私の倍はありそうな体格を、ヒトミで真っ直ぐにとらえる。

「危険だとは感じてるよ。肌でビリビリと。メロウがハンヨウガタって呼んでた、『時間の神』の機械兵より、あんたは何倍も強い」
「ティラノよりも?」「ティラノよりも」
「カッコよかったろう? 自信作だから」

 やっぱりお前が作ったモンスターだったのか。ほぼトップスピードで走る車に追いつけるところとかはリアリティがなかった。減点。
 達人系動画で見た通りに刀を構える。

「危険だって心がケイショー鳴らしてるのに、なぜか怖くない。どうしてだろう。今、タイマンであのハンヨウガタに負ける気しないし。それに」
「それに?」
「肉なら斬れる」

 悪魔は、奇妙な位置にある口をニタつかせた。奴の全身から覇気があふれる。
 骨がしびれる。大きさを見誤りそうだ。唇を舐める。

「ギャハハ! やれるものならやってみなよ――、っ?」

 悪魔の首が落ちた。
 断末魔の叫びが辺り一帯にひびく。それは悪魔ではなく、女子中学生のものだった。
 生首の一つが、苦しみと憎しみに満ちた表情で、裂けそうなほどに口を開け、ボロボロ崩れ、ちりと化す。死んぢまったらしい。残りの首が恐怖でゆがんだ。
 代わりに、断たれたはずの悪魔の首は、元通りになっていた。
 なるほどそういうことか。もとより簡単にいくとは思ってなかった。
 とりあえず尋ねる。

「残機いくつ?」
「ふはっ! やっぱキミサイコーッッッ♪!!」
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