聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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三章

ファーストなキッスを済ませてしまった

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 119番に電話、しようとした。
 首を振る。「ちがう」とつぶやく。お母さんの番号を押した。

『もしもし。成子?』「お母さん。メロウいる?」
『いるわよぉ。下であんみつパフェ食べながらバラエティ見てるわ』
「あんみつパフェ!? お母さんが作ったの? 食べたい! じゃなくって、播磨くんのアパートに来てと伝えて」

 十分後にメロウは来た。あんことクリームで汚れている口元。心なしキゲンが悪そう。あんみつパフェで休憩してる時に呼び出されたら、誰だってそうなると思う。
 私だって怒る。逆の立場だったら殴ってる。

「なんですか成子ちゃん。私はこれでも忙しいんですよ」「仕事のハナシだ」
「パワハラ上司ですかあなた。元々そういう気質ありますけれども」
「ちょっとはシメツケないとねー。組織としてのまとまりがなくなっちゃう。そんなとこまでパワハラ扱いされたらさぁ、ウチも空中分解しちゃうよ?」
「パワハラ上司の理論過ぎて怖いですね。『ちょっと』とか言っときながら『めっちゃ』やってそうな感じがよく出てます」

 どうやらゴカイがあるようだ。
 シメツケたら効果ありそうな人しかシメツケないよ。すでにマジメにやってる人を叱りつけても、反感買ったり転職されるだけで無意味だもん。あんまり真剣にやってなくて、でもやったら出来そうな人だけがターゲットだよ。何度シメツケても聞かなかったらクビだよ。
 口が上手かったり顔が良かったりで手柄を主張しやすいけど中身のない人、いつもマジメだけど無能な人には、叱責まではしないけども、言葉で注意はするよ。一応。「仏の顔も三度まで」の理屈で、改善しなきゃサヨナラするよ。本当になにも出来ない人(なんの取り柄もない人とはまた違うよ)は、そもそも雇わないよ。
 シメツケがパワハラになるのは、ターゲットを間違えた時だよ。例えば「あいつ言い返してこないから」がマジメで有能な人を叱る理由だったら、それはカスだもん。上司であることはシメツケ行為に正当な理由を与えるけど、シメツケの目的は、地位のデモンストレーションやフラストレーションの解消じゃなくって、ヒトエにパフォーマンスの向上だよ。

「そんなことより。あのムシエキスちょーだい」

「時の回廊」に閉じ込められた森で採取したヤツ。

「? 分かりました」

 ガラスの容器を手渡される。グイとあおり、口に含んだ。
 机に突っ伏す播磨くんを抱き起こし、後ろから濃厚なキス。閉じられた唇に舌をねじ込み、エキスを無理矢理飲ませる。ついでに、飲ませきったあともベロベロなめまくる。

「成子ちゃん、それファーストなキッスですよね? そんなので済ませていいんですか?」「ぷはっ。やれる時にやっとかなきゃ損でしょ!」
「実に私好みな考え方ですけれども、まえ私に恋愛相談した時、もっとめんどくさいこと考えてませんでしたっけ?」
「あれを相談って言っていいなら、児童相談所の人たちもラクだろうにね。だって今、播磨くん意識なさそうだし。次回のキスをファーストって言いくるめる」
「うわあ。騙すんですか? 成子ちゃんってば悪女ですう」
「人聞きの悪い。ファーストってフインキだったら、それはもうファーストでしょーが。初々しいムードにセカンドもサードもないでしょーが」
「強引ですね。ファーストキスではなくファーストクラスの論理です」

 ファーストってフインキのエコノミー。
 ただのビジネスクラスでは?

「いいビジネスを思いつきました。『まだい』の席も飛行機みたいに分けましょう。エコノミー、プレミアムエコノミー、ビジネス、ファーストとばかりに。居心地やWi-Fiの強さで差別化します。プレエコ以上はショバ代を取るのです」
「悪ラツすぎる。おしゃれな高級レストランとかなら許されるのかもしれないけど、ウチただの定食屋だよ? 庶民の食事どころだよ?」

 プレミアムっぽい人間なんて……最近はちょっと来るな、有名人。壁のサインが増え始めたな。メロウが目ざとく見つけ出しては、よく色紙をねだってる。未来からきたくせに、現在の事情にくわしい。
「プライベートだから」と断られることも多いけど、こころよく書いてくれる人もいる。中には写真を許してくれる人も。
 トライ、だいぢ。

「うん……?」

 話してる間に、播磨くんがうっすらと目を開けた。苦しそうだった表情も、すでにやわらかくなっている。

「成子ちゃん……?」「そーだよ成子だよ!」

 良かった。喜ぶ。根拠のないカンが当たってたみたい。
 どさくさにまぎれて抱きついてみた。全然まぎれてない気がする。播磨くんは抱き返してこない。ただ固まってるだけ。

「ご、ごめん成子ちゃん……」「ん?」
「はなぢが……」「メロウ、ティッシュ持ってきてっ」「はいはい」

 ふく。ふいてる途中で、メロウが口を開く。

「アオハル真っ盛りを邪魔して申し訳ないんですけれども。播磨くん」
「ひゃ、はい。えっと……あくりょうさん」
「聖女です」

 笑いそうになった。こらえる。

「ごほん。君にいくつか尋ねたいことがあります。倒れる前に、何か特別な、普段とは違う行動をとったりしませんでしたか?」
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