47 / 64
三章
ストーカースキルを発動させてしまった
しおりを挟む見つけた。サッと隠れる。ストーカースキル発動。気配を消した。
長い黒髪、存在感がとてもうすい、幽霊みたいな女。昨日の夕方、定食屋「まだい」の前でうろついていたお姉さんだ。
今日は大通りの道をうろついている。というか、まごついている。
入ろうとする店がどこも年末年始休店のお知らせを貼っており、困っているようだった。クリーニング店や、本屋、服飾店、家具屋、フィットネスジムなどの前で立ち止まっては大きくため息をつき、とぼとぼと進む。開いてる店といえば、せいぜいコンビニに薬局、有名どころの飲食チェーンくらい。
当然だ。なにせ今日は十二月三十一日、天下の大みそか。隣街のショッピングモールすら閉まってる。まああそこは、明日からドドンと再開しちゃうんだけど。私たち利用客からすればありがたくないこともないが、従業員からするとブラック以外の何ものでもない。
風が吹いた。寒い。沐美んちから盗んだコートの、一番上のボタンを閉める。
息で両手を温め、下唇をなめる。カンシ対象のお姉さんを眺めた。どう見ても、つい最近ここらに引っ越してきた、世間知らずの若い女性としか思えない。ましてや人類滅亡をたくらむ悪のマッドサイエンティストに加担しているとは、とても。
おかしくはあっても怪しくはない。
知らずに協力させられてるとか? でもあんなの雇うなら、野生の猫たちに小型カメラつけて回った方がゆーいぎな気もする。さすがに言いすぎ?
開店してる薬局を見つけて、背筋をぴーんと跳ねさせるお姉さん。ちょううれしい! という気持ちが、離れた私にもよく伝わってくる。
るんるんるん♪ ってオノマトペが見える。
おもしれー女。
跡を追って薬局に入る。地元民ならなれた場所。テストの問題は答えられなくても、薬局のどこになにが置いてあるかなら答えられるくらいだ。いや、細かな商品名は分からないけども。
お姉さんはしきりにオロオロキョロキョロして、ようやく、上からタレ下がってる区画の案内を見つける。洗剤コーナーに向かったのち、カゴを取りに入り口に戻ってきた。
おっこちょちょい。あれ? おっちょこちょい?
悩んでる間に、お姉さんは買い物を始める。洗濯物用の液体洗剤と柔軟剤を、ボトルで購入。台所用(お徳用スポンジ付き)のも同様。箱ティッシュ、ウェットティッシュ、掃除用ウェットシート、ゴミ袋、固形せっけん、ボディソープ、リンスインシャンプー、歯磨き粉、洗口液。そのほか、テキトーにつまめそうなお菓子を少々。
「おもっ」
とつぶやきながら、会計にカゴを持っていく。
生活用品のまとめ買いにも限度ってものがある。年末にもかかわらず、この薬局は大放出セールなどしていない。いつも通り、広告に書かれた品が安くなってるのみ。あれが「新しく引っ越してきた人」じゃなければ、なんなのか。
尾行がむなしくなってきた。親衛隊のおっちゃんが彼女に怪しさをおぼえたの、反射的にヨソ者への敵対意識を持っちまっただけじゃあなかろうな。せまい村に住む人々が抱きがちなあれ。
店に入ったのに何も買わないのは私のポリシーに反する。チャック付きのグミを買った。出ようとした瞬間、「播磨くんファンクラブ」のメンバー二人が入店してくる。あわてて、コートのエリで顔を隠した。バレなくて済んだらしい。
グミをモグモグ食べつつ、お姉さんを追う。とりあえず、住んでる所までは突き止めておく。
はちきれんばかりのビニール袋を持つカンシ対象が、休み休みでゆっくりと進む道については、非常によく知っていた。通学路でも、買い出しに使う道でもないけど、よく通り、よく研究したルートだった。
「あ」
お姉さんが入っていった建物を見上げる。
それは、播磨くん、および彼の父が住むアパートだった。32号室の扉を開けるお姉さん。耳を側立ててみる。「疲れた~」「なんでみんな閉まってたんだろ」「あ、今日大晦日か~」と独り言が聞こえた。しばらくすると、テレビの音が流れてくる。
これ以上ここにいても無益。そう判断し、32号室の前から離れる。
階段を降りようとして、立ち止まった。
せっかくだし、播磨くんの43号室に寄っとこう。アポなしだけど。門前払いはされないと信じたい。ちょっと優しくしたくらいで調子に乗りやがってとか言われたら死ぬ。
恐る恐る、でもドキドキワクワクしながら、インターホンをポチッと押す。
ピンポーン。
一分待った。反応なし。物音も聞こえない。どこかに出かけてるのかな。
魔がさした。ゴクリと喉を鳴らし、ドアノブに手をかける。キィと鳴き声を上げて、開いた。
電気がついている。
「消し忘れ?」
播磨くんのクツがある。出かけてはいないようだ。吸い寄せられるように入る。廊下を進む。
リビングのドアは開けっぱなしだった。
突然、手がガタガタ震え始める。ズキッと頭に痛みが走った。フラッシュバックする。
自我を無くして襲いかかってきた播磨くんの首を、断ち切った記憶が。
「はぁ、はぁ」
壁に手をつく。前を見た。播磨くんが、テーブルに突っ伏している。寝ているのかな。深呼吸して落ち着いた。彼に近づく。顔をのぞき込んだ。
苦しみに満ちた表情で、意識を失っている。
まだ息はある。急いでスマホを取り出し、119番に電話しようとした。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
重要ミッション!悪役令嬢になってバッドエンドを回避せよ!
バッドエンドを迎えれば、ゲームの世界に閉じ込められる?!その上攻略キャラの好感度はマイナス100!バーチャルゲームの悪役令嬢は色々辛いよ
<完結済みです>

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる