聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった

踏み込んでしまった

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「もう『殺すな』なんて言いませんよね?」
「もう一人殺してるじゃん」

 苦笑いで返した。私の言葉をYESと捉えたらしく、武闘系再生クリーチャーな聖女メロウはスッと構え始める。一人目を倒した際の反動ダメージを治しつつ。
 彼女の背中に、恐る恐る尋ねる。

「怒ってないの?」

 騙して、首を斬ったこと。追い討ちに短刀をぶっ刺したこと。
 メロウは静かに言う。

「だって。殺気はなかったですし。悪気もなかったでしょう? 私が嫌いになったわけじゃないんでしょう? ただ、クウィンくんを守りたかっただけですよね?」「まあ」

 当たってる。当たってはいる。ただ、問題がズレている。

「そうだけど」「ならいいです。私、死にませんし」
「……ごめん」「はい♪」

 弾む声。

「これからは、私みたいな・・・・・怪しいのを安易に信じたりしないように」

 自虐だ。
 クウィンの軍団が、彼女の後ろから迫ってきていた。同じ顔の人間(正しくは人型の機械生命体だが)、それも美形がたくさん揃っている。なんとも言いようのない気持ち悪さがある。
 拳を後ろに振りかぶった。殺す。二人目だ。そのまま左足を軸に旋風蹴り。三人目、四人目、五人目と薙ぎ払われる。四人目は、ついさっき私が封印を解いてしまった二人目・・・だ。ややこしい。
 攻撃を喰らうたび、クウィンたちは壊れていく。私たちの街に襲来した汎用型と違い、クウィン型の強度はそう高くないらしい。
 六人目を踏みつけにする。スカートがめくり上がって、パンツ丸見えだ。

「巻き込み注意ですよ成子ちゃん。白線の内側までお下がりください」
「白線どこ?」

 前も言ってたなそれ。電車のアナウンス好きなの?

「あっ。護身用にこれ持っててください!」

 メロウはそう叫び、戦闘の真っ只中にもかかわらず、超一流のバスケ選手も顔負けの、キレッキレなパスを放った。
 棒状の何かが向かってくる。当たったら骨折しかねない。ヒラリと躱す。
 地面に突き刺さるは、鞘入りの短刀。

「私が持ってていいの?」「あげます!」
「え?」「先ほどは、惚れ惚れするような首断ちでしたよ!」

 最初に出会った個体と思われるクウィンの首根っこを掴み、ハンマー投げ直前の勢いを保ったままぶんぶん回す。周りを蹴散らす。人型機械生命体がゴミのようだ。血でいっぱい。子供には見せられない光景だ。
 私はまだ子供だけど。

「きっと成子ちゃんには、モノを切る才能があるんです!」
「あんまり嬉しくないね。むかしっから、包丁遣いはよくほめられるけど」
「成子ちゃんが持っててください! きっとその方がいい。私には」

 超絶怒涛のインパクト。空気がブルブル震える。
 五人のクウィンが宙を舞う。メロウが拳を振るったのだ。

「これがありますからね」

 野蛮な聖女だ。
 クウィン軍団とメロウとの戦いは、この前のと比べて迫力がない。実力が違いすぎる。彼らは数で押してるだけだ。知性兵と名乗っていたし、戦闘はあまり得意でないのかもしれない。
 多対一は多対一でおもしろいところもある。でも、見ていて楽しいのは、やっぱり一対一の白熱した勝負だ。命と命のぶつかり合いだ。

「…………」

 サッと短刀を抜いた。メロウを斬ったにもかかわらず、汚れは皆無。奴は血が出ないのだ。クリーチャー判定した一番の理由。本人はあくまでも、「血も涙も流れる」と主張している。ダウト。
 貧弱な記憶力を頼りに、自分でも出来そうな構えをやってみた。後で調べてみると、ここで私がやったのは「八相の構え」と言って、持久と小回り重視のものらしい。
 テキトーな木の前に立った。メロウの腰回りと同じくらいの太さの木だ。斜めに切ってみる。とてもいい刃物のようだ。すんなりいけた。
 ドサリと倒れる。

「えっと。これ、ジュートー法違反案件だよね……」

 ゴクリと喉を鳴らした。もう一度構える。キョロキョロ辺りを眺めた。
 今度は、もうちょっと太い木を。あった。

「えい」

 難なく斬れた。短刀、つまり「短い刀」なので、刃渡りは限界ギリギリだったけど。これ以上の太さは無理かな。冷静に判断する。
 いや。冷静じゃあない。

「へ」

 口元がにやけた。押さえる。やばい。踏み込むのはマズい。



「へへ」

 クウィンの一体程度なら、やってもいいんじゃなかろうか。
 ふわりと、斬った木の幹が浮いた。元通りにくっつく。十五分のワンセットが終わったのか。なんか、つまんないの。
 戦場に視線をやる。怪物が二、三匹混じっていたはずだけど、巻き戻りで持ち場に戻されたよう。死んだクウィンに生き返る様子はない。あいつらも、「時の回廊」の対象者というわけだ。カンリケンゲンを持たせるためかも。
 ゴロゴロと、クウィンの一体がこちらに転がってきた。「うう……」と呻いている。死んでない。静かに、彼の後ろに立った。
 短刀を振りかぶる。
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