聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

文字の大きさ
上 下
26 / 64
二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった

魔法の才能なしと言われてしまった

しおりを挟む

「なぜですか、なぜですか、なぜなんでしょう。なぜですか?」

 剥き出しの骨で岩をガリガリ削りつつ、自称聖女はブツブツと呟き続ける。グリンと首がこちらを向いた。めちゃくちゃ怖い。

「『時の回廊』術式の管理権限は、旧型怪物の誰かが持ってるはずです。たとえ権限を移動出来たとしても、殲滅すれば結界は解けるはずなのです。なのにどうして。どうしてだと思います成子ちゃん」
「え~、私に聞く……? ファンタジー世界の住人じゃないし。自慢じゃないけど、国語でぼーせんぶはなぜですかと問われても、最後に『から』『ため』で終わらなきゃいけないこと以外は基本何も分からない私に聞いちゃう?」
「猫の手も借りたいです。切り落としてでも」
「物理で借りてんじゃねーよ。借りパク以外の選択肢がない」
「あとでくっつけます。私の血を接着剤に。アロ◯アルファ聖女です」

 心と体に悪影響が出そうだ。沐美という被害者もいる。
 使えない頭をフル回転させて考える。ちょっと賢くなった気がする。

「術者は結界の外にいるとか?」
「結界を張った術者自体は外にいるかもしれません。ですが、内側から支える柱も必要で、なくなれば維持出来ません」
「はあ。大工と骨組みは違うって話? なら単純に、カンリケンゲンを持ってる柱が、怪物の中にはいなかったってことじゃないの?」
「そうなんですよね。それしかないんです」

 がっかりした風に、メロウは溜息を吐く。岩を削るため、あえて自ら引きちぎった腕の肉を再生させ、地面にどっかり座りこんだ。
 隣に腰掛ける。ポケットからスマホを取り出した。充電が切れてることを思い出し、しまい直す。寂しい。播磨くんと連絡したい。
 はあ。コメカミを押さえる。

「木とかにもカンリケンゲン移せるとか?」
「ありえません。術式を保有出来るのは、それを記録出来る脳ある生き物のみです」「あの怪物たち、『脳ある生き物』だっけ」
「機械生命体ですからねえ」

 なんかかっこいいし、なんか説得力がある。
 立ち上がって、メロウが削った岩の窪みを撫でる。恐竜の爪痕みたいだ。肉部分はともかく、骨は金属製なのかもしれない。ウ◯ヴァリン?

「脳を持ってる生き物だけって言うならさあ。知らず知らずのうちに、私たちがカンリ者になってるってことはないの?」
「可能性としてはゼロじゃありません。が、成子ちゃんはまず違うでしょうね。才能の問題で。術式の転写を脳が受け入れられない。出来が悪すぎて」
「悲しい。泣いちゃいそう。でも生きる。ポジティブに」
「私が管理者になる可能性は、正直あります。術式の行使者が、私の精神にダイレクトアクセス出来るほどの使い手ならばの話ですがね。しかし」
「しかし?」
「旧型怪物どもを全滅させてから、私は自らの聖女力を暴走させ、頭を爆発させました。なのに『時の回廊』は解除されませんでした。いくら正統派聖女の頂点たる私であっても、頭がなくなれば一時的に死にますからね。結界の術式は維持されず、朽ちるはずです」

 戦慄する。
 聖女力って、暴走したら爆発するんだ。ホントどこに聖女要素があるのか。
「核エネルギー」に「聖女力」ってルビ振ってるだけなんじゃねーの? 漫画とかアニソンでよくやられるみたいに。
 発電出来そう。元気0%スマホを復活させてくれないだろうか。

「うーん。じゃあさ。昨日の夕食に食べた子みたいなさ、森に住む動物たちが管理者になったんじゃないの?」
「彼らが結界術式を受け入れられるならね。それってつまり、成子ちゃんよりずっと賢いってことになりますよ?」
「……あ……ありえるかも……しんないじゃん……っ」

 悔しくて悔しくて腹を切りたくなるけど、十分考えられる事態だ。

「人間であるという時点で、最底辺であっても他の動物よりかは賢いと思うんですがねえ。たとえ成子ちゃんより賢くともね。時空魔法のような超自然術式を理解出来るほどの数学的才能は、彼らには絶対ありませんよ。それより」

 メロウは右手人差し指を立てた。爪に注意を惹きつけられる。

「成子ちゃんは一つ、重大な忘却をしていますよ」

 そのまま指を差す。つられて見た。
 クウィンが、木の上で惰眠を貪っている。

「え?」

 一瞬、呆けた。すぐに意味が分かった。
 目を見開く。口元を押さえる。

「ロケットペンダントに自身を封印出来た。魔法のアウトプットが出来ている。ならば。彼の頭は、術式のインプットも可能なのです」

 メロウの説明が正しいとすれば、「時の回廊」術式カンリケンゲン資格は、クウィンには十分ありそうだった。
 振り返る。冷や汗垂らし、唇を引き攣らせて、「えっとさ」と尋ねかけた。

「あの人にもカンリケンゲンが移るかもしれないならさ。どうするの? ねえ。どう、しちゃうの?」

 声が震える。クウィンの乗る枝から、葉っぱが泉に落ちた。澄んだみなもに小さな波が立つ。
 質問の答えは、薄々勘づいていた。
 メロウは仄暗く笑った。静かに言う。

「殺しておきましょう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
重要ミッション!悪役令嬢になってバッドエンドを回避せよ! バッドエンドを迎えれば、ゲームの世界に閉じ込められる?!その上攻略キャラの好感度はマイナス100!バーチャルゲームの悪役令嬢は色々辛いよ <完結済みです>

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...