聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった

禁断症状が出てしまった

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「どうしたん? 手が少し震えてるけど」
「定食屋の娘のさがとして、一定時間料理しないと禁断症状が」
「ん? は?」

 指がピリピリ痺れる。誰か、誰か私に調理器具を持たせてくれ。ピーラーとかさいばしでいいから。いっそ私を煮込んでくれ。誰か。

「あ、あ、あ、あ、あっ」「やばい。この子もかなりおかしい」
「メロウ、早く……」「充電中です」

 禍々しいオーラが出ている。溜めてるのは本当に聖女力なのだろうか。
 さながら、勇者との最終決戦を明日に控えた魔王だ。

「向こうで話でもする? 多少気は紛れるんじゃないか?」
「……そうする」

 渋々頷く。少年クウィンのことはまだ信用していない。いきなりペンダントから吐き出された男をすぐ信用しろなんて無理な話だ。ホントはメロウから離れたくないけど、邪魔しちゃ悪いのは確か。
 警戒しつつ、ついていく。もしクウィンが私に狼藉を働こうとした場合、ザリガニみたく後ろにピュンと逃げられるよう、体の調子を整える。ザリ・バックストリーム体勢だ。あの移動法の正式名称は知らん。
 石の上に腰掛けるクウィン。私は座らない。ザリ・バックストリーム体勢を継続する。泥芋娘魂を燃やし、手をハサミ型にした。
 ザリザリィ。

「バ◯タン星人?」
「フォッフォッフォッフォッ、ゲホッゲホ。私の顔がセミに似てると?」
「違うって。手の話だって」
「だよねぇ。自慢じゃないけど。ミステリアスかわいいってよく言われるもん」
「自慢では?」「事実ですぅ」

 中身が伴ってないことには言及しない。
 私知ってる。「ギャップ萌え」はオタクの幻想。存在するけど希少なのだ。中身と外見、一致してる方が普通は得する。料理は見た目も大事だけど、見掛け倒しは、お客さんに対する酷い裏切りなのだ。
 クウィンは妖しく微笑んだ。足に肘を突き、掌を頬に添える。

「君、面白いね。おちゃめな子犬みたい」
「私は生きてるもん。生きてるなら何かしら中身があるし。生き物は、生きてるってだけでおもしろい所を必ず持ってる。あなたはそれを見つけただけ」
「そういう考え方する人なんだ。なのに料理が好きなの?」

 不思議そうに、かつ悪戯っぽく尋ねてくる。
 あまり料理の話をしないで欲しい。私の禁断症状はまだ治ってない。ちょっと気を抜けばザリ・バックストリームが発動しそうになる。

「生きたものは調理しないでしょ。料理で扱うのは死んだものばかりのはずだ」
「だから復活させるの。新しく中身を吹き込んで。命を宿す」

 それが楽しいんだ。両手で輪を作って、息を吹き込むジェスチャーをしてみせた。
 脳が気持ち良くなる。手足の震えが治った。多分今、笑ってる。
 クウィンは首を捻った。

「さすがに、その命は偽物じゃない?」「本物にする」

 間髪入れずに答える。

「そこに本物がなきゃ、料理はただの作業じゃん」「ははあ」

 目を逸らされた。あまり分かってなさそうだった。日本のギムキョーイクは、そろそろ「ロマン」をカリキュラムに取り入れるべきでしょ。いや、クウィンは日本人じゃないのかな。名前的に。
 なんで日本語分かるんだろ。バカっぽいと思ったけど、意外と勉強家だったりして。
 会話がなくなった。気まずい。話題を探す。

「クウィンはどうして、この『時の回廊』とやらに閉じ込められちゃったの?」
「んー。神に叛逆したから? 詳細まで気になる?」「別に。そこまで」
「正直だな。まあ君、あんまり他人のこと興味なさそうだし」
「播磨くんにはキョーミシンシンだよ。スミズミまで調べ尽くしたいよ」
「うわあ。播磨くんってのが誰かは知らないけど。君の片恋相手でしょ? 好きな人の知らなくてもいい情報は、知らない方が幸せじゃない?」
「好きな人なら、ダメなところもかわいいでしょ」
「真っ直ぐだなあ。君って。真っ直ぐだ。俺には見通せない部分まで突っ切ってる感じがするね」「ほめ言葉じゃないよねそれ」

 彼は肩をすくめた。鍛えられた胸筋が、ちょっぴり上にシフトする。
 クリスマスの朝にしては暖かく、コートいらずであるとはいえ、上に何も着てなくて寒くないのかね。「マッスル見せつけたい」病の末期とか。

「褒め言葉じゃない。そうだな。君の真っ直ぐさに免じて真っ直ぐに言おう。君は狂ってる」「は?」
「ついでに言えばめんどくさい女だ」「おい。いきなり失礼すぎるだろーが」

 殴りたくなったぞそのイケメン。
 めんどくさいは当たってるけど、狂ってはない。
 狂ってないよね? 未経験の悪口に、心は不安でいっぱいになる。

「狂ってるから、あんなクレイジーな痴女と上手くやっていける」
「すれ違いばかりだよ」
「不和があっても一緒にいられる。それを『上手くやっていける』と言う」

 そうかもしれない。ムッとする。だからなに?
 クウィンは人差し指を立てた。強調するように言う。

「あの痴女は悪党だ」「……そりゃ。善人とは言えないと思うけど」
「君を利用してるだけ。ていのいい隠れ蓑として」「え?」

 言い返す隙もなくまくし立ててくる。

「彼女はきっと、人命なんて毛ほども気にしてない。躊躇なく人を殺せる」

 確かにメロウは、黒いヒビから出てきた怪物と戦闘する際、被害を一切かえりみてなかった。結果、死者が、同級生二人に加えて六人増えた。

「とんでもない計画を胸の内に隠し持ち、君の周りに寄生することで、実行のための準備を整えている」「…………」

 メロウはよく、分身と入れ替わって、コソコソ一人で行動してる。沐美の残した資産も利用しつつ。
 疑いたくなかった。無理矢理押し込めてたのに。

「そして。いつか君を必ず裏切る。必ずな」
「え? え? それって。どうゆう……」

 ポンと、肩に感触がした。びくりとして振り返る。
 メロウがいた。

「成子ちゃん」「な、なに?」
「充電完了しました!」
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