聖女の首を拾ってしまった

オッコー勝森

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二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった

野宿が決まってしまった

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 見たことのない色合いの鳥が、上で「チッチ」と鳴いている。クリスマスだというに、瑞々しい葉でいっぱいだ。そもそも温かいのだ。
 南の方なのかもしれない。脱いだコード(新品)にくるまれた手が汗ばむ。

「もう、一時間半くらい歩いてるけど」「はい」
「向かう先に宿はあるの?」
「ありませんよ。あるわけないじゃないですか」
「は? なにそれ? じゃあ今日は、大自然のど真ん中で野宿ってわけ?」

 高級ホテルは? 私の疲れを癒してくれる、フカフカのベッドはどこ?
 うん、それが高望みし過ぎなのは分かってる。だからせめて、屋根と枕と寝台のある場所で休ませて。なあ。おいって。イッ◯Qのロケでもないのに、森の地面に直で寝るのはキツいって。現代日本人には。

「雨降ってきたらどうすんの? ヘビに噛まれたらどうすんの? トラに食われたらどうすんの? 水は? 夕食は? ねえ。ちょっと」
「もう。ピーチクパーチクギャースカビースカうるさいですね」
「初めて会った時のこと覚えてる?」「いきなり回想シーンですか」
「ちげーよ。生首状態で『お腹空きましたお腹空きました』ばっかりずううーっと呟き続けてたあんたには言われたくねえって話だよ」

 落ち葉や木の枝を踏む、規則正しい音が響く。

「安心してください。未来は神のみぞ知ります。神を信じましょう」
「安心の『あ』の字もないわ。あんたの信奉してる邪神なんざ信じられるわけないじゃん」「無礼ですね。私の汚れなき神に向かって」
「汚れてるに決まってるでしょうがっ!」

 決めつけた。足音が乱れる。
 めっちゃイラついてる。溜息を吐いた。
 メロウとの旅行なんかに期待してしまった私が悪い。
 会話なく進み続ける。周囲に鳴り響く生き物たちの声の種類が、徐々に変わってきた。時間の経過を感じる。
 ふと、メロウが地面に手を伸ばす。拾った石を投げた。その方角に向かう。鹿に似た、四足歩行の中型哺乳類が、頭を割られて死んでいた。

「薄暗くなってきました。夕食の準備をしましょう」「…………」

 ワイルドだ。
 血抜きのしかたはお父さんに教えてもらった。一生実践することはないと思ってたけど。グロいのに抵抗のないタイプで良かった。
 メロウに手伝ってもらう。
 火をつけた。下拵えも味付けも不可能だ。とにかく上手く焼く。

「想像よりは美味しいです」「どこが。クサみがすごい。カタいし」

 ボーッと空を見上げる。満天の星空が広がっていた。肉を齧る。
 後ろ足のモモ肉だけでお腹いっぱいになった。残りはメロウが平らげる。凄まじい胃袋だ。
 近くの綺麗な泉で、色々洗う。隣のメロウが口を開いた。

「ごめんなさい」「いいってもう。珍しい体験が出来たってことで」
「クリスマスプレゼント・サプライズのつもりでした」
「もっと謝れ。一時間くらい土下座しろ」

 可憐な中学二年生女子の強度を考えて欲しかった。水を飲む。冷たくて美味しい。ワイルド肉のイヤな後味が消えていく。
 切れ味の鈍そうな草葉を敷き詰めた。コートを布団代わりにして寝ることにする。起きたら身体中が痛いんだろうなぁとナエナエ気分。
 肩とか凝ったことないけど。私の筋肉は若くて柔らかい。「けっこう肩凝るんだよね~」などとぬかす、同級生にしちゃ胸大きめな奴には、「もいだろか?」と善意の提案をしたくなる系女子だ。
 スマホを眺める。当然圏外。ポケットにしまう。はあ。
 特製ベッドで寝転がろうとした、その時だった。

「……ぱ?」

 いきなりメロウが全裸になった。頭のシスターベール以外。
 ギョッと固まってると、彼女は正座を始める。冗談を真に受けて、本当に一時間土下座するつもりだろうか。全裸で。

「いや、そんな怒ってないって」

 慌てて伸ばした手を止める。メロウは右手に、刃渡り五十センチくらいの刀を握っていた。
 自らの首筋に刃を当てる。
 サクッといった。生首がコロコロ転がる。

「…………。………………………………?」

 行動の意図が理解出来なかった。とりあえず絶句する。
 メロウが首だけになっても死なないことは知ってる。案の定、ニョキニョキと胴体が生えてきた。焚き火に照らされる絵面のエグさよ。食べた肉を吐き戻しそうになる。



 再生が終わった。メロウは脱いだ服を着る。さっきまで自分の胴体・・・・・だったもの・・・・・を抱えて、私の寝床に持ってきた。
 満面の笑みで差し出してくる。

「どうぞ!」

 呆然と彼女の目を見る。コメカミを押さえる気力すら湧かない。
 さらに強く差し出してくる。

「どうぞっ!!」「どうぞって、どういうこと?」

 察しが悪いですね、とでも言いたそうな表情をしつつ、寝転がったら頭が来そうな位置に胴体を置く。
 元自分の太ももをパシパシ叩いた。

「枕として、どうぞっ!」

 形容しがたい感情に襲われる。
 過去イチ、思考がパンクした。宇宙空間に放り出されたような浮遊感。
 えっと、人から貰い物をしたら、なんて返せばいいんだっけ?

「クーリングオフっていつまで?」
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