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二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった
異国情緒にアテられてしまった
しおりを挟む「見えてきました! 大陸がっ」「なに大陸?」
うつらうつらとしていると、メロウが声を張り上げた。新大陸発見! みたいなテンションだ。彼女の指差す方向、つまり真正面を眺める。
確かに陸地だ。
現在、日本時間でちょうど正午。真夜中の日本海で目覚めてから、およそ半日過ぎたことになる。途中休憩を二回挟んだ。名前も知らない小島で。食べ物はなかった。だからお腹が空いている。
「おっぱい吸いますか?」「出るの?」「出ません。今は」
無数のゴミが打ち上がる、汚い浜辺に降り立つ。誰もいない。遊泳や観光用のビーチじゃなさそう。「人間って愚かだねぇ」「ですよねー」と言い合いながら、障害物を跨いでゆく。
足を止めた。苦笑いする。目の前には、鬱蒼とした森が広がっている。
「ここを通るの?」「はい。森のお散歩です」
「お散歩? 訓練かサバイバルか行軍の間違いでしょ」
「安心してください。成子ちゃんはおんぶしてあげます」
「飛ばないの?」「誰かに目撃されたら面倒です。消すのが」
怖い。メロウ金髪なんだし、サ◯ヤ人に間違えられるくらいで済むって。
それはともかく、嫌な予感しかしない。メロウに尋ねる。
「ねえ。今日って一応クリスマスだよね?」「はい。それが何か?」
イラッとくる。お前、クリスマスには定食屋「まだい」で何か特別なイベントをやるべき的なこと言ってたじゃん。結局何もやらないんだけどさ。
ウェイトレスしてたら播磨くん来たかもしれないのに。
「では行きましょうか」「待って。お母さんたちに連絡しなきゃ」
「ああ。すでに、成子ちゃんを二日くらい借りると言ってありますから」
「なんで了承したんだバカぁ。沐美は?」
「未韋夫妻に世話するよう頼んでます。さあ。背中に乗ってくださいな」
「播磨くんに連絡してからね」
スマホを取り出す。充電が心もとない。『金髪の悪霊と旅行してまーす』というメッセージを送った。ツーショット写真付きで。
『そっか。楽しんできてね』
あまり楽しめる状況じゃありません。
手始めに森を突っ切るらしいです。やばいですね。
メロウの背中に乗る。
「しっかり掴まっててください!」「シートベルトはどこ?」
メロウは答えず、強く踏み込む。地盤が円状に陥没した。
自称聖女号発進。
成子、逝きます!
◇◇◇
生き延びた。私偉い。
道中の記憶は曖昧だが、とにかく街に着いた。ひび割れたコンクリートの往来を行き交うたくさんの人。道の両脇にぎっしりと並ぶ数々の露店から、活気のいい呼び込みがかけられている。
言葉は分からない。
醸し出される異国情緒に、漠然としたワクワク感を覚えるとともに、未知なるモノに対する恐怖も抱く。メロウの手をギュッと握った。
「さてと。昼ごはん食べますか」
コクリと頷く。お金は、前もって両替していたのを持っているらしい。
テキトーな定食屋に入った。意外にも綺麗だ。メニュー表を開くと、知らない漢字がずらりと並ぶ。多分中国語。正式名称は分からないけど、肉と野菜とピーナッツを炒めた料理を頼む。
店員さんから何か言われた。困りきってメロウを見る。
「賢そうな子だね、ですって」
「そ、そう? えへへ」「这孩子是个白痴」
「へえ。メロウ中国語話せるんだ。なんて?」
「『この子はおバカちゃんです』」「キーっ!」
ムカつきつつも反論出来ず、ただただ喚くしかない。今のやりとりで大きなストレスが溜まった。運ばれてきた料理を大口開けて食べる。暴力的な美味しさだった。
メロウに頼み、店長と思しき人からレシピを聞き出そうとする。失敗。
「食べ終わりましたか? 食べ終わりましたね。では次行きましょう」
「食べてからすぐ動くのは良くないよ。休もう。杏仁豆腐頼もう」
「旅程はたったの二日しかありません。キビキビ行きましょう」
「え~……」
唇を尖らせる。思ってた旅行と違う。
近くのバス停――標識の手作り感が半端ない――で小型バスに乗り、街を出る。たちまち車体が揺れ始めた。悪路だ。
元々乗り物酔いを起こすタチではなく、慣れてくれば、バランスを取るのも難しくない。スマホの電源を入れて、自然豊かな外の景色を撮影する。
一時間半ほどのち、降車した。さすがにおしりが痛い。
辺りを見回す。動物の鳴き声が、あちこちで響いてる。秘境の入り口、って感じの場所だ。間違っても人間の居住区域ではない。モンスターや恐竜が生息してそう。
「もう森とか飽きたんだけど」
「さっき通り抜けたのとは全然違う森ですよ」
「森は森じゃん。やだなぁ。霧かかってるし。人間嫌いのティラノサウルスとかいるかも」
「では進みましょう。人の顔はなぜ前についているのか。前へ進むためです」
「顔がついてる方が前なんでしょ……って待ってよ。まだ心の準備がぁ!」
慌てて追いかける。
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