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序章:聖女の首を拾ってしまった
手紙が届いてしまった
しおりを挟む「今日からここでお世話になります。よろしくお願いします!」
翌朝七時。シスター・メロウは両親に、元気よく挨拶した。
ポカンとするお父さん。一応、無事に生きて戻ってきた。唇は青くなってたけど。店の経営について、沐美陣営に脅されたに違いない。
昨晩メロウから、「あなたの願いを叶えるため、ぜひここで働かせてください! 朝昼晩の賄いがあれば給金はなしでいいです!」と言われた。聖女の力はともかく、美人の働き手が増えるのは願ったり叶ったりだ。看板娘の座は奪われそうだが、仕方がない。
そもそも、私がなりたいのは店長なのだから。
「昨日何か連れ込んでたなと思ってたら、こんな可愛い子だったのね~。よろしくメロウさん」「よろしくです! 成子ちゃんのお父さんもっ」
「あ、ああ……」
お父さんは、ぎこちなく微笑んだ。
世界一旨い味噌汁とツヤツヤのご飯を食べて、学校に行く。
いつも通りに授業を受け、友達と話をして、同級生で学校一の美少年:播磨琉くん非公認ファンクラブの活動をして、自宅に帰ってくる。
「え?」
店の席が、半分埋まってた。まだ夕食タイムじゃないのに。
老若男女様々。単純に、シスター・メロウの美しさに惹かれて来たというわけではなさそうだ。
呆然とする。メロウが話しかけてくる。
「あ。お帰りなさい成子ちゃん」「た、ただいま」
「さあ、一緒に頑張りましょう!」
「う、うん。合点承知。シスターベール脱がないの?」
「はい! トレードマークですので」「そっか」
エプロンの飾りリボンを結ぶ。
その日、定食屋「まだい」設立以来、初めての満席を達成した。
メロウの居候二日目。外で人が待つようになった。急いでホームセンターで丸椅子を買ってきて、表玄関に設置する。
三日目。他店の営業を妨害するほど行列が出来た。感動で泣きそう。バイトの追加募集を始める。
一週間後。値段を少し上げたにもかかわらず、客足が途絶える気配は一向にない。テレビの取材や人気ユ◯チューバーも来た。SNSでは、投稿のたびにバズった。今までは、せいぜい50いいねが限界だったのに。
一ヶ月後。定食屋「まだい」は、超有名店と化した。全国から人が集まる。お父さんの顔がすっかり明るくなった。超過黒字の連続。ずっと彼を苦しめていた借金返済の見通しが立ったようだ。この長期停滞時代に珍しく、大きな銀行からは二号店三号店という感じで、将来的な事業拡大すら積極的に示唆されている。お父さんは野心が薄い。そういう話は笑って聞き流してる。でも、とても嬉しそうだった。
何をしたかは知らないが、メロウのおかげであることは火を見るほどに明らかだった。シスターのご利益だ。未韋家はもう、彼女に頭が上がらない。
お母さんは言う。
「メロウさま。最高級フルーツで作ったデザートでございます」
彼女はデザート作りの名手だ。料理学校に通っていた時、何度かコンクールで優勝している。
お父さんは言う。
「メロウさま。マホガニーで特別な椅子を拵えました」
彼が最も得意なのは料理だが、手先がとにかく器用で、趣味の日用大工もプロ並みに熟す。腰に優しいデザインで、かつ細かで美しい装飾が施されていた。
私は言う。
「メロウさま。お肩お背中マッサージいたします」
覚えた方がいい、と沐美から言われた技術をふんだんに使って、丁寧に揉み上げた。今思えば、あの言葉は彼女の下心満載だったのだろうが。メロウは胸に大きなものを抱えている。凝ってるはずだ。
「ふむ。苦しゅうないですよ」
ちょっとばかり尊大な態度を取られても、まったく気にならない。というか、ウチの家族の悪ふざけにノってくれてるだけだと思う。リスペクトしてるのは本当。仲は極めて良好と言っていい。
聖女という名乗りも、かすかに信じ始めてる。
それに。同い年らしいけど、体格であまりにも負けているせいか、お姉ちゃんが出来た心地だ。正直嬉しかったりする。
憧れてた。姉妹とか。
一方、店の発展と並行して、学校の廊下ですれ違う沐美は(クラスは異なるのだ)、日に日に機嫌を悪くしていった。私と目が合うたびに、ショックを受けたように黙り込んでしまう。話しかけられる雰囲気じゃない。
隣席の御影さんに問われる。
「沐美と喧嘩でもした?」「この前ぶん殴った。あれって喧嘩かなぁ?」
「知らね。とりま飴ちょーだい」「食べ過ぎ。料金取るから」
「播磨くん隠し撮りコレクション」
「明日は何がいい? ゴ◯ィバのチョコ?」
最近羽振りがいい。無駄遣いとかは決してしてない。でも、今まで手が出せなかった料理レシピや経営入門の本が買えるようになった。そして、勉強も体力も重要と知った。少しずつ努力を始めてる。
まだ結果には出てないけど。
楽しい昼休みの終わりが近づく。次の授業の教科書やノート、持ってきてたっけ? 机の中を弄った。ぐちゃっと音がする。
隠してたゼロ点の小テスト?
取り出す。手紙だった。
差出人、沐美。
『今夜、閉店時間の後に行くから』
一緒に、シスターベール以外何も纏ってない、魅惑的な裸を晒すメロウの写真が入ってる。私の部屋だ。
隠しカメラ、仕込まれてたらしい。眉を顰めた。
キーン、コン、カン、コーン。
チャイムが鳴る。
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