3 / 7
魔剣初代の章
魔剣は納品され
しおりを挟む「納品してきたぞー」
「ご苦労様ぁ……ふぁあ、ねむ……」
「無茶しやがって、たかが剣一本作るのに拘りすぎなんだよ」
女鍛冶師が目を覚ました時、丁度彼女の弟子である青年の声が工房の入口から聞こえて来た。
通常加工に用いる金床を枕にして白衣を着たまま爆睡していた彼女は、恐らく自らの弟子が『書置き』を見てその通りに届けてくれたのだろうと頷いた。
極力、今住んでいる辺境の町を出る事は勿論、住居を出たくない自分にとって実に青年は良い仕事をしてくれていると彼女は思う。
鍛冶の才能はぼちぼちといった印象なのがアレだが。
さて、と背筋を伸ばして起き上がる。
「剣を届ける際、共にしておいた例の文を渡してくれたろうね」
「ああ、あれか。渡したら騎士サマ妙に嬉しそうに笑ってやがったが……何を書いたんだ?」
青年は寝惚け眼の己が師に水を一杯差し出しつつ、本人はずぶ濡れのコートを椅子に掛けた。
やはり今日もまた雨らしい。
「あの魔剣は注文通りに完成したよ、君にはまだ教えていない事だが熱伝導に優れた逸品だと評価しよう。要するに炎と相性がいい。
確かウチの国の騎士はその殆どが炎とか水の属性に優れていたと思ったから、後付けで付与した」
「……んん? いや、そうじゃなくてだな」
「重心は柄の素材をデシエルト鉱石にする事で切先に集中させてある。
その辺りは説明書にも書いたが、まあこの世界の騎士ってのはどうにも指導者の影響を受けやすいから慣れるまで素振りとかするだろうし。
それから刀身に焼き付けた紋は特に効果が無い事も添えて置いた、あの魔剣自体に特殊な能力は一切ないからね」
「オイオイオイ、おかしくね? おかしくね!? なんで何も能力持ってないのそれ!!」
「簡易付与の術式なら刻んでおいたぞ」
「いや、だからさ。あの魔剣って女心がどーとか……妙に気色の悪い発注内容だったろう」
んん、と唸りながら言わんとしている事を伝えようとする姿が妙に犬っぽく見えると女鍛冶師は密かに笑った。
「女心は育むしかないと結論を添えた上で、私はその魔剣が"そう"なのだとも言っておいたぞ。
気障ッたらしい事この上ない注文だったが……仕事を終えて見れば中々興味深い結果になった。生物の定義とかいう哲学的な問題は畑違いもいいとこだったがね。
あの魔剣に私の血肉を『核』とする事で剣の枠組みを外れた。
代わりに、私が昨日この話を聞いた時から考えていた器と中身の問題を解決したのさ」
女鍛冶師は口調が少しずつ雑になって行く。
それは語り口を見つけた子供のような、何処か自慢気な雰囲気を交えた色を表している。
少なくとも悪意は微塵も無い。
赤髪の青年はその姿に理解を示すと、やがて話を聞く気になったと椅子に座って続きを促して来た。
素直でイイ子だ。
「器と中身ってのは?」
「心は中身だ、そして器とはその心の在処だと私は定義している。
まず第一に例の騎士様はこの私を指名して来た辺りはその辺の呪われた魔剣くらいじゃ満足しない輩だと見た。
或いは騎士特有の能力、魔法の特性に基づいているのかも知れないな。
とにかく、"剣が心を有している"事が望ましかったんだろ。
だが現実問題まともに生物化させるならミスリルを用いている時点で魔物化しかねない。
かといって悪霊が憑りついたか封印だのされた魔剣というのは、器ではなく中に潜んでいる別個の中身と器を有したモノにとっての殻でしかないのさね。
何の事やら、という顔をしているから分かり易くしよう。
つまり心が生まれるであろう機構を備えた『私』という人間を媒介に、疑似的にミスリルの花と結合させた上で器となる剣で膜の様に覆う事で……私は上手くできやしないかと挑戦したんだ。
ロラン。
あの騎士様に渡した魔剣はね、比喩でも何でもなく私の娘なのさ……どうした愛弟子、腹痛かい」
工房が静まり返る。
いつの間にか。
女鍛冶師と向き合って話を聞いていた弟子の青年が額から流れ伝う汗を拭けずに、自身を見ている事に彼女は気付いた。
細かな技術について解説を交えれば混乱するだろうと思い、彼女なりに掻い摘んだ説明のつもりだったようだが。
どうやら弟子の青年はそれでも混乱している様だった。
「か、鍛冶師のやる事じゃねえじゃん……」
「この世界の文明基準を鑑みてそう名乗っていて、そして一見ポピュラーなこの生産職が丁度良いのだと教えたろう。
──私は本質的には学者だよ。ロラン」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる