女鍛冶師「魔剣の製造依頼?」

ちくわブレード

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魔剣初代の章

魔剣は納品され

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「納品してきたぞー」

「ご苦労様ぁ……ふぁあ、ねむ……」

「無茶しやがって、たかが剣一本作るのに拘りすぎなんだよ」

 女鍛冶師が目を覚ました時、丁度彼女の弟子である青年の声が工房の入口から聞こえて来た。

 通常加工に用いる金床を枕にして白衣を着たまま爆睡していた彼女は、恐らく自らの弟子が『書置き』を見てその通りに届けてくれたのだろうと頷いた。

 極力、今住んでいる辺境の町を出る事は勿論、住居を出たくない自分にとって実に青年は良い仕事をしてくれていると彼女は思う。
 鍛冶の才能はぼちぼちといった印象なのがアレだが。

 さて、と背筋を伸ばして起き上がる。


「剣を届ける際、共にしておいた例の文を渡してくれたろうね」

「ああ、あれか。渡したら騎士サマ妙に嬉しそうに笑ってやがったが……何を書いたんだ?」


 青年は寝惚け眼の己が師に水を一杯差し出しつつ、本人はずぶ濡れのコートを椅子に掛けた。
 やはり今日もまた雨らしい。


「あの魔剣は注文通りに完成したよ、君にはまだ教えていない事だが熱伝導に優れた逸品だと評価しよう。要するに炎と相性がいい。
 確かウチの国の騎士はその殆どが炎とか水の属性に優れていたと思ったから、後付けで付与した」

「……んん? いや、そうじゃなくてだな」

「重心は柄の素材をデシエルト鉱石にする事で切先に集中させてある。
 その辺りは説明書にも書いたが、まあこの世界の騎士ってのはどうにも指導者の影響を受けやすいから慣れるまで素振りとかするだろうし。
 それから刀身に焼き付けた紋は特に効果が無い事も添えて置いた、あの魔剣自体に特殊な能力は一切ないからね」

「オイオイオイ、おかしくね? おかしくね!? なんで何も能力持ってないのそれ!!」

「簡易付与の術式なら刻んでおいたぞ」

「いや、だからさ。あの魔剣って女心がどーとか……妙に気色の悪い発注内容だったろう」


 んん、と唸りながら言わんとしている事を伝えようとする姿が妙に犬っぽく見えると女鍛冶師は密かに笑った。



「女心は育むしかないと結論を添えた上で、私はその魔剣が"そう"なのだとも言っておいたぞ。
 気障ッたらしい事この上ない注文だったが……仕事を終えて見れば中々興味深い結果になった。生物の定義とかいう哲学的な問題は畑違いもいいとこだったがね。
 あの魔剣に私の血肉を『核』とする事で剣の枠組みを外れた。
 代わりに、私が昨日この話を聞いた時から考えていた器と中身の問題を解決したのさ」


 女鍛冶師は口調が少しずつ雑になって行く。

 それは語り口を見つけた子供のような、何処か自慢気な雰囲気を交えた色を表している。
 少なくとも悪意は微塵も無い。

 赤髪の青年はその姿に理解を示すと、やがて話を聞く気になったと椅子に座って続きを促して来た。
 素直でイイ子だ。


「器と中身ってのは?」

「心は中身だ、そして器とはその心の在処だと私は定義している。
 まず第一に例の騎士様はこの私を指名して来た辺りはその辺の呪われた魔剣くらいじゃ満足しない輩だと見た。
 或いは騎士特有の能力、魔法の特性に基づいているのかも知れないな。
 とにかく、"剣が心を有している"事が望ましかったんだろ。
 だが現実問題まともに生物化させるならミスリルを用いている時点で魔物化しかねない。
 かといって悪霊が憑りついたか封印だのされた魔剣というのは、器ではなく中に潜んでいる別個の中身と器を有したモノにとっての殻でしかないのさね。
 何の事やら、という顔をしているから分かり易くしよう。
 つまり心が生まれるであろう機構を備えた『私』という人間を媒介に、疑似的にミスリルの花と結合させた上で器となる剣で膜の様に覆う事で……私は上手くできやしないかと挑戦したんだ。
 ロラン。
 あの騎士様に渡した魔剣はね、比喩でも何でもなく私の娘なのさ……どうした愛弟子、腹痛かい」


 工房が静まり返る。

 いつの間にか。
 女鍛冶師と向き合って話を聞いていた弟子の青年が額から流れ伝う汗を拭けずに、自身を見ている事に彼女は気付いた。

 細かな技術について解説を交えれば混乱するだろうと思い、彼女なりに掻い摘んだ説明のつもりだったようだが。
 どうやら弟子の青年はそれでも混乱している様だった。


「か、鍛冶師のやる事じゃねえじゃん……」

「この世界の文明基準を鑑みてそう名乗っていて、そして一見ポピュラーなこの生産職が丁度良いのだと教えたろう。
 ──私は本質的には学者だよ。ロラン」
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