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7話 魔王、心に誓う!
しおりを挟む---新魔王国、旧イスプロン帝国の王宮内---
「ガルド様。よろしいですか?ガルド様」
ガルドは回復中から目覚めようとしていた。
まだ本調子では無いが、魔力は回復したみたいだった。
「あぁ、ゲラン。何かあったか?」
「計画通り、帝国の西側諸国を攻め落とし、沿岸部を
制圧しました」
ゲランはまるで当たり前の事のように
淡々と報告をした。
「そうか。では出航だな」
「ガルド様、海魔族とは交渉しておりませぬが、
大丈夫でしょうか?」
一呼吸おいて、ガルドが答えた
「私にもわからん。海魔族とは互いに
不可侵だからな。 ここが正念場だ」
「その場で交渉ができればいいですが・・」
「私は魔王だ。聞く耳ぐらい持つだろう。
何も奴らのテリトリーを荒らしに行くわけ
ではないからな。通してもらうだけだ」
ガルドはそういうと、寝台から立ち上がり
窓を開けた。
「多少の被害が出そうですが・・」
「かまわん。折込済みだ。
10万連れていき半分でもファデラ王国に
上陸できれば、もう、私たちの勝利だ」
窓の外を見ながらガルドは深呼吸をした。
ガルドはノリッチ公国の進攻に陸路で10万を当て、
東大陸の沿岸部より海路より10万の兵を連れ
ファデラ王国の北側から攻め入る計画を立てていた。
海は、海魔族の支配地域だ。
海魔族はどの種族よりも好戦的で狂気的だった。
言葉が通じにくい部分もあり、誤解を生じる
こともある。
交渉の場が出来たとしても、かなり難航すると思われた。
しかし、合意ができ、海路を使えるようになれば、
それで勝負は決するとガルドは睨んでいた。
陸路と海路とで挟み撃ちにすれば、
中央大陸(ハンプトン大陸)は手中に収めたも
同然だった。
もし海魔族との合意が得られなかった場合は
戦うことになる。
力でねじ伏せるのは可能だが、時間がかかると
思われた。
「ゲラン」
「はい」
「交渉までに海魔族の族長の身辺を調べろ。
すぐにだ。弱みでもなんでもいい。
交渉に有利な情報があるやも知れん」
「はい。早急に調べます」
時間がかかれば、作戦を読み取られてしまい、
対応策を講じられる。
ガルドは、進攻の序盤は、早さが重要だと
考えていたのだ。
「船の手配はできているか?」
「只今、集めております」
「とりあえず2万の軍を出せればいい。急げ」
「ハッ。二日あれば」
「東大陸内の制圧はどうだ?」
「はい。10万の兵を充当して分散して進攻して
おります」
「どれぐらいかかる?」
「10日は必要かと」
「うむ、それでいい。どうせ歯ごたえのある軍など、
どこの国も持たんだろう。
但し、確実に進攻させよ」
「御意」
「ノリッチ公国など、手始めにすぎない。
さぁ、シュベル、どこまで手を打てる??
フッフッフフフ・・・・」
ーーーー魔王国ーーーーーーーーー
アカから念話が入った。もうすぐミリアを連れて
到着するようだった。
竜の休息所に着くよう指示を出し、レイグリッドに
治癒魔法の使い手を連れて来るよう指示した。
「もう着く頃だ、オレたちも休息所に行こう」
レイグリッドを伴って、休息所に移動した。
既にリベラは連絡を受けたらしく到着しており、
心配そうに空の彼方を見つめていた。
「リベラ・・」
「シュベル様・・あの娘、張り切ってたのですよ。
私も慎重にならなければいけなかったのに、
念話で煽って・・調子に乗ってしまいました・・」
リベラにしては珍しく狼狽えていた。
「うん」
元はと言えば、オレが出した命令だ。
リベラが何と言おうと、責任はオレにある。
「と・・・ところで・・レイグリッド?」
「はい。なんでございますでしょう?」
「あ・・あの・・さっきからオレの横で、オレの服の
裾を掴んでいる女の子は・・・だ・・誰だ?」
いつの間にか、オレの横で当然!のような表情で、
日本でいう小学校三年生ぐらいの女の子が、
オレの服の裾をガシッっと握って立っていた。
ダークエルフみたいだった。
女の子は、オレを見上げて
「やぁ。」
と言った。
あ・・挨拶か?挨拶なのか??
い・・一応、オレ、魔王なんすけど??
「おや?シュベル様、遂に年端もいかない女の子まで
手を広げられたのですかな?フッフッフ」
「ち・・ちがーう!!
い・・いつの間にか、横にいるんだって!!
お・・オレをロリコンみたいに、言うなぁっ!」
「あらぁ!!ニコレちゃんじゃない!久しぶり!」
リベラがその女の子を見て、ニッコリ笑った。
「まぁ・・シュベル様ったら、こちらの趣味も、
ございましたのねぇ~・・
節操のないこと・・うふふ」
「ち・・ちがーーーうっ!!断じて違うっ!」」
「はっははは!シュベル様、そのお方が、ご所望の
治癒魔法の使い手ですよ」
レイグリッドが女の子の正体を明かした。
「え??そ・・そうなのか?このロリッ娘が?」
するとロリッ娘が、ドンッとオレの足を踏んだ。
「イッテッ!な・・なにすんだよ、もう!」
「ロリッ娘じゃない。ニコレ」
「わ・・わーったょ。。もう・・」
「あらあら。気に入られたようですねぇ~
シュベル様。うふっ♡」
リベラがニタニタ笑いながら言った。
「つーか、なんでリベラがこの娘を知ってんだよ!?」
「あぁ・・私が保護したのですよ。ダークエルフの
族長の娘さんですから・・オホッホホ」
「お・・おま、族長の娘、拉致ってんじゃねーよ!」
「拉致じゃありません。保護ですのよ?」
「保護ってどういうことだぁ?そりゃぁ?」
リベラはある日、複数の魔獣がダークエルフの村を
襲っている所を目の当たりにしたそうだ。
村はほぼ壊滅的で、荒れ狂う魔獣を抑えるため村に
降りたところ、たまたま族長が魔獣と戦っている処に
出くわし、ニコレが後ろの物陰で隠れている所を、
族長から頼まれ保護したそうだ。
「だったらすぐに帰せばいいじゃねーか」
「まだ村が再建中でしたし・・
それにニコレはココが気に入ったみたいでしたので。
治癒魔法の腕はかなりですし、
本人が帰りたいときに帰そうかと・・」
確かに、回復魔法を使える者はそこら中にいるが、
治癒魔法となると、極めて少ない。
そっかぁ、魔王国の住人になったんだなぁ。
「それ、いつの話だ?」
「もう・・・4年になりますか・・・・」
「よ・・4年!?か・・帰せよもうっ!
村も再建終わってるだろ!!」
「私・・・・ここがいい」
ニコレが口を開いた。
「い・・・・いやぁ、家族が心配してるぞ?
4年は居すぎだろ??」
ニコレの前にしゃがみ、目を見て話した。
「いちゃダメ?」
「うーーん。。あと2日でここは撤収だからなぁ。
その時は村に帰るんだぞ?送ってやっから」
「わかった」
上空から竜たちの羽ばたく音が聞こえてきた。
3体の竜たちが、白銀の竜を支え、静かに降りてきた。
横たわったミリアの姿は痛々しかった。
オレはミリアの傍に駆けつけた。
「ミリア・・ミリア?わかるか?オレだ!」
ミリアが弱々しく目を開けた。
「シュ・・シュベル様・・すみません」
「何言ってる、よくやってくれた!
すまない、オレのミスだった。すぐ治してやる」
ニコレに目で合図をした。ニコレが駆け寄ってきた。
「ミリア・・ミリア・・」
ニコレが涙声でミリアを呼んだ。
よく見知っているみたいだった。
「ニ・・ニコレちゃん・・」
「すぐ、治してあげるね!待ってね!」
泣きながら、ニコレはミリアの胴体に手を触れた。
ニコレの小さい体に、乳白色の光が降りてきた。
その光は徐々に広がり、手を触れているミリアの体を
包みだした。
治癒が始まった。
「シュベル様、ニコレはミリアが大好きなんです。
ミリアもニコレをすごく可愛がっておりました。
ニコレが帰りたがらない理由の一つです」
リベラがオレの横で、そっと耳打ちをした。
「気持ちはわかるが・・オレたちは魔族だからな。
いつまでも一緒には居られない・・」
可哀相だが、次の世界にニコレは連れていけない。
悲しい別れになる前に、ニコレの記憶を消そう。
オレは治癒を待っている間に、竜たちを労った。
「アカ、アオ、クロ、すまなかったな。ご苦労だった」
クロが応えた
「シュベル様、我が同朋を助けるのに苦労や危険など
関係ございません。
お言葉、もったいのうございます」
「ところでシュベル様。我々がミリア殿をお連れする
とき、魔人軍の大群が大陸の北側沿岸部に向かって
おりました」
アカが報告してきた。
「何?やはりまだいたのか・・
10万では無いと思っていたが・・
数は、数はどれぐらいだった?」
「詳しくはわかりませぬが、ざっと見て10万は
下らないかと・・」
やはりな。ガルドが正面突破だけで来る訳がない。
「ガルドの姿や魔力は捉えたか?」
「いえ、それが・・姿も魔力も捉える事が
できませんでした」
アカが申し訳なさそうに言った。
まぁ、10万の魔人化だけで結構な魔力を
消耗するはずだ。
それ以上となると・・・今は回復中かも知れん。
ガルドはどういう計画を持っている?
奴に限って行き当たりばったりは、あり得ない。
周到な作戦を立てているはずだ。
オレならどうする?・・・オレなら・・。
ミリアの治癒が終わりに近づいているようだった。
ミリアの傍に行ったアオがオレを呼んだ。
「シュベル様!ミリア殿が・・伝えたい事があると!」
オレはミリアの傍へ行った。
「ミリア、どうだ?報告なら後でいい。ムリするな」
「い・・いえ、シュベル様、大丈夫です。
ニコレ治癒のお陰で、だいぶん楽になりました」
いつの間にかミリアは人型なっていた。
無意識のウチになってしまったのだろう。
改めて、自分が命じた事に胸が痛んだ。
「シュベル様・・魔人は40万です」
「な・・・・40万だとっ!?」
「はい、ガルドがそう申しておりました」
「お・・お前、ガルドに・・やられたのか?」
「はい。不覚です。申し訳ありません」
「あ・・・・あの野郎っ!許さねぇ!」
頭に血が上って来るのがわかった。
オレは魔王になってから、究極に怒ることは
無かった。
怒る必要も、差して今まで無かった。
しかし、今回はダメだ!
オレを裏切るとか、魔王を騙るなど、
どうでもいい。
だが、且つての家族同然の仲間を
殺しにかかるなど、絶対許せない!
あってはならない!鬼畜以下だ!
ガルド!お前を本気でぶっ殺してやる!!
オレは改めて、心に誓った。
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