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D原〜いじめ〜

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E崎:で、相談っていうのは?

D原:私、いじめられてるんです。

E崎:誰に?

D原:え? 先生、いきなり、それ、聞くんですか?

E崎:ん? 俺、なんか、手順、間違えた?

D原:まず、いじめの内容を聞いて、で、私が、勝手にいじめと思い込んでないか? とか、確かめないんですか?

E崎:へー、そんなこと、したりするもんなんだ。おまえ、詳しいなぁ。

D原:いや、先生、大丈夫ですか? 中学の時は、そうでしたよ。

E崎:そうなんだ。で、誰にいじめられてるんだ?

D原:あの、私の話、聞いてました?

E崎:なんだっけ?

D原:はーーーー (深いため息)、B山とC川です。

E崎:あいつらかぁ。

D原:え? あっさり信じるんですか?

E崎:え? 何? いちいち?

D原:だって、あいつらの方が、先生たちに信用されてそうだから。

E崎:え? そうなの? 俺、あんまり上手く他の先生たちとコミュニケーション取れてないから、他の先生たちの評価とか知らん。

D原:あの……、先生、大丈夫ですか?

E崎:それは、どういう意味での、「大丈夫」だ?

D原:えーっと、いろいろと、諸々(もろもろ)です。

E崎:だいたいは大丈夫と思いたい。

D原:願望なんですか?

E崎:まぁ、俺の話はいいから、お前の話をしろよ。

D原:はい……、聞いて下さい。

ト書き:間

A田:次の日の昼休み

E崎:あー、聞いてくれ! 今日から、俺は、毎日、昼休みはこの教室で、ガンプラを組み立てるけど、気にするな!

B山:先生! すさまじく気になります!

E崎:え? そう?

C川:っていうか、意味が分かりません!

E崎:ほら? 小学校とかだと、昼休みも先生が教室にいて、一緒に給食たべるよね?

A田:そうですね。

E崎:それと、同じだよ。

A田:「同じ」と言われても、共通点が見つけられないレベルなんですけど?

E崎:忖度(そんたく)してくれ。

B山:無理です!

E崎:大したことじゃねーじゃん?

C川:僕らの安らぎの時間を奪わないで下さい。

E崎:いやいや、存分に安らいでもろて。

C川:だから、先生がいたら無理です。

E崎:なーんで? 俺がいたら出来ないような安らぎ方でも、してんのかなぁ?

B山:はぁ? それ、どういう意味ですか? 先生?

E崎:そーいう意味だよぉ。「いじり」と「いじめ」みたいなビミョーなやつだよ。

A田:「介入」ですか?

E崎:解釈は個人の自由だ。

B山:親に言って、学校にクレーム入れてもらおう。

E崎:入れてもろてー。俺の評価なら、これ以上、下がりようがないから。B山君。

C川:勤務時間中にガンプラ作ってるって、管理職にチクるぞ。

E崎:チクってもろてー。管理職には、「必要があって、玩具(がんぐ)・プラモデルなどを持ち込みます」と言ってあるから。C川君。

A田:先生、そういうのは、詐欺まがいというのでは?

E崎:グレーゾーンはセーフなんだよ。

B山:え? あんたが、それ、言っちゃうの?

C川:ダメでしょ?

E崎:とにかく、俺は、毎日、昼休み、教室でガンプラを組み立てる!

ト書き:間

A田:その日の放課後

D原:先生、なんで、ガンプラなんですか?

E崎:んー? じゃあ、何のプラモデルがいいんだ?

D原:そうじゃなくて! そこじゃなくて! なんで毎日、昼休みに教室でガンプラを組み立てることにしたんですか?

E崎:いや、主に、嫌なことをされるのは、昼休みなんだろ?

D原:そうですけど?

E崎:で、ちょっと調べたんだけど、B山とC川って、昼休みは教室以外に行き場所ないみたいだ。

D原:そうなんですか?

E崎:まぁ、他では、サッパリ、威勢(いせい)が悪いらしい。

D原:はぁ。

E崎:だから、おまえが、別の場所に連れて行かれて、いじめられる心配はないと思っていいぞ。

D原:はあ……、はぁっ? だから、教室に張り付くことにしたんですか?

E崎:まぁ、大まかには、そんなところだ。

D原:はあ……、で、なんでガンプラ?

E崎:それは、趣味だ。

ト書き:間

A田:さらに、翌日の昼休み

B山:おい、D原、おまえ、E崎に何か、言ったんじゃねぇだろうな?

C川:ことと次第(しだい)によっちゃあ……。

E崎:ビコ――――――ン!

A田:先生? なんか、今、先生の頭の毛の一部が、束(たば)になって立ちましたけど?

E崎:説明しよう! これは、「いじめアンテナ」だ! 半径20メートル以内にいじめを感知すると、「ビコ――――――ン!」の音とともに立つのだ!

B山:いや、先生、口で「ビコ――――――ン!」って、言ってるし。

C川:左手でなんかスイッチ押してるの丸見えだし。

E崎:そういうのは、着ぐるみのチャックと一緒で、見えても見えないことにしろよ。

A田:先生、そんなもの、どこで売ってるんですか?

E崎:売ってるわけねぇだろ? 作ったんだよ! 秋葉原に行って、呼び込みのメイドさんには目もくれずに、パーツを買い集めて、自分で作ったの!

B山:え? いじめを感知すると立つとか。

C川:スイッチは見えないとかの設定は?

E崎:ごほん……、これは、「いじめアンテナ」……。

A田:先生、それ、もう、いいです。

ト書き:間

A田:さらに、翌日の昼休み

E崎:B山とC川! こっち、来い!

B山:なんすか?

E崎:いいから、来い!

C川:なんなんすか?

E崎:おまえら、どうせ、アレだろ? 写真撮って「勤務時間中にガンプラ作ってる教師」とか言って、ネットに上げる気なんだろ?

B山:そうですよ。

C川:文句あるんですか?

E崎:大アリだぁーーーーーーっ! そんな遠くから撮った写真でズゴックのカッコよさが伝わるとでも思ってんのかぁ?

B山:はい?

E崎:そんな遠くから撮ったんじゃ、ズゴックのカッコ良さが伝わらねぇ、って言ってるんだよ!

C川:意味が分かりません。

E崎:いいか? 現役教師が勤務時間中に堂々とガンプラ作ってる写真だよ! 当然のことながら、バズるだろう! ならば、ズゴックのカッコ良さを布教せんで、どうするね?

B山:そこなんですか?

E崎:そこだよ? まさに、そこだよ? ジャスト、そこだよ?

C川:他に、言うことは、ないんですか?

E崎:実は、ある。貸せっ!

B山:あ、俺のスマホ。

E崎:やーっぱりなぁ。

C川:なんですか?

E崎:写真にGPS情報が付く設定になってるじゃねーか。

B山:え?

E崎:おまえ、特定されちゃうよぉ?

C川:そんな、俺たちなんか、特定したって……。

E崎:バズったら、注目浴びるんだよ?

B山:あ。

E崎:あとな、遠くから撮ったら、誰かが写り込むかも知れねーだろ? 顔が写り込まなくても、制服から、ウチの学校が特定されるかもな?

C川:あの、それ、ガチで、ズゴックより大事なことなんじゃ……?

E崎:ズゴックを馬鹿にするな!

ト書き:間

D原:それからも、E崎先生は、毎日、昼休みは教室でガンプラを組み立て続けた。私と、B山、C川の関係は、目に見えて改善するわけではなかったが、とりあえず、落ち着いてお弁当が食べられるのは、助かっている。

ト書き:間

D原:先生、ありがとうございます。

E崎:え? 何が?

D原:いえ、先生だって、昼休みは職員室で休みたいでしょうに。

E崎:あ? 俺、職員室に、居場所ないけど?

D原:先生?
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