上 下
102 / 105
最終章 アニバーサリー

第101話 賑わいいきなり疑心暗鬼

しおりを挟む
「…………」

「……」

「……寒いわね」


 永遠に感じられる時を過ごし、とうとう話す話題も尽きた僕達は、ただひたすらにその時が来るまで待ち続けていた。

 だが、未だに何もクローピエンスから連絡は来ない。もしかすると僕は騙されたんじゃないかと一瞬考えてしまったが、あの時の2人の表情や喋りから嘘は感じられなかったしあり得ないはず。


「ん……えへ……へへ……」


 いつの間にかイコさんは僕の肩によだれを垂らしながら眠ってるし。


「……友達?」


 それを見てユメちゃんにドン引きされるし、踏んだり蹴ったり。
 ニーダとシェンも暇そうに灰色の空を眺めて自分の世界に浸っている様子だし、もうかれこれ5時間は経つんじゃないか。

 そうすると、もう夜になっているはずなんだけど……あまりに連絡が遅い。灰の霧も濃くなって余計に視野が狭まっているし、僕達を見失った可能性はある。

 まあ、声も聞こえないんだけど。


「ユメちゃん、流石に遅いから探しに行こうか」

「……そうだね」


 僕はゆっくりと立ち上がって、イコさんを床にそっと寝かせてユメちゃんと探しに行くことにする。


 今いる場所はクローン工場の近くだ。他の奴らは中で待機していることにしていたため、すぐに工場に足を踏み入れた。


「……普通にいる」

「なあ、まだ何も起こっていないのか? えーと、あなたは……」


 当たり前のように彼らは談笑をしていた。僕はその中でも以前の戦闘で見覚えがあったある男に声をかけた。


「マギノです。あの時は君のお仲間にメガネを叩き割られましてね……ちょっと憎んでますよ?」

「はあ……」


 皮肉交じりに話す彼は、マギノと呼ばれるクローピエンスの一員で、薄紫色でくせっけの髪にインテリそうなメタルフレームなメガネをかけている。

 エレーナから聞いた情報だと、この人は話が長くて冗談を頻繁にかましてくるから要注意だと聞いていた。

 まあ、第一声を聞いただけでそういう人なんだと理解した。


「……どうして連絡……しないの?」

「おっと、怒らないくださいよ。こっちだって驚いてますよ。1時間前にグラスティンさんに尋ねましたけど、『ちょくちょく様子も見に行ってみたが特に何も起きてないぞ!』って言ってましたし」

「……それ、わえ達を……裏切ってない?」

「まさかあ」


 いや、どうだろう。普通に裏切られた可能性はあるかも。


「なんか不安そうですね。じゃグラスティンさんの所まで行きます?」

「お願いします」


 小馬鹿にするようなマギノの言葉にユメちゃんはほんの少し苛つきを見せたが、僕が頭を下げると険しい表情を辞めてくれた。

 マギノも納得してくれたようで、上機嫌に僕達を案内し始める。


「あの人はここです。玉座に1回は座ってみたかったとか」

「聞こえてるぞ!」


 声に驚いて気まずそうにその場を去るマギノを気にせず、2人で扉を開くとそこにグラスティンとエレーナが何かをじっと眺めて待っていた。


「残念ですけど、まだ何も外で起こっていませんね。集めるのが早すぎたかもしれません……」

「天汰、オレにもよく分からないことが起こっているのは確かだ。運営の上層部がオレ達の企みに気付いたのかもしれない。だから、こっちから行動を起こそう」

「行動? 一体何を?」

「先手を取ろう。女神襲撃が起こらないなら一度オレ達で『アマタ』の集団を作って女神の出現先を誘導するんだ。主要国なら最低10人は控えているし、小国でも3人は待機させてある」


 なるほど、グラスティンもある程度作戦を考えていたのか。策も無く待機していた僕と違って。


「……良さそう」

「ふふ、だろう?」

「あの……私が思ったことなんですけど、間違ってたらすみません。そもそも女神襲撃が起きるって事前に知っていたんですか」


 エレーナからの素朴な質問の答えを考えてみる。それはただ事前に聞いていた仲間がいるから……なんだけど、当の本人がこの場にいないから説明出来ないよな。


「それで私、もしかしたらなんですけど、それ自体が嘘な可能性ってありませんか?」

「……嘘?」


 まさかの意見に思考が固まる。嘘の可能性……流石にあの2人が嘘をつく訳ないし……ただ、僕と交流があったことは余裕で見抜かれている。

 だから、2人はむしろ狙い撃ちされてしまった可能性を否定出来ない。

 もしこの仮設が本当なら、待っていても意味が無いんじゃないか?


「――つまり、『女神襲撃自体が嘘で何も起きないかもしれないから、待つだけ無駄』。だからグラスティンの意見に賛成ってことでいいです?」

「あっ、そうですそうです!」

「決まりだな。今お前達が着ている服装に声を変えられる仮面があれば誰が誰だがバレずに済む。内ポケットに入れてあるから着用してくれ」

「分かった。ユメちゃんもお願い」


 内ポケットを探り、大きく顔面を全て隠せる仮面を取り出して装着する。
 視界も付ける前とほぼ変わらないのでめちゃくちゃ便利だ。


「外でもう一度集合だ。そっちは外の奴らと合流してこれを伝えてくれ。指揮はオレが執る」

「よし、ユメちゃん行くぞ!」


 2人と別れ、外まで駆け足で飛び出してみんなの元へ戻っていく最中突如彼女が口にした一言で僕は足を止めてしまった。


「……天汰君は……みんなを信じられるの?」


 薄々感じていたことではあったけど、過去の事もあってユメちゃんは人間不信だ。

 だから、僕や自分を思って言ってくれてるんだと思うけど。

 不安に思っているのは君だけじゃなかったり。


「当たり前だよ。だってみんな僕を信じてくれてるから! まあ……うん!」


 思い返せば、ここで出会った人と会う度ひと悶着を何回も起こしている気がする。

 リチアだって死刑かどうかで大分揉めた印象だし、フェンリルなんか敵対してもおかしくなかった。クローピエンスに至っては元々敵だし……ユメちゃんも、揉めたし。

 ……あれ、本当に信じられる人って……誰だ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...