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ステージ4 へラル編

第90話 ゾンビ【side:ヘラル】

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「分かった。じゃあ、二手に別れて探そうよ。何百人も収容されているし、顔は覚えてるからね、ワタシ」

「任せた!」


 ワタシ達は二手に別れて三人のオリジナルを探し回る。天汰が戻ってくきたのは嬉しいけど、ラルはまた眠ってしまったのか?


「見たことない人ばっかり……いつからここで眠ってたんだろ……?」


 全身スライムの少女に筋骨隆々なドワーフ男、カプセルから溢れそうな大きさの鳥人間など、人間以外の種族もクローンを作っているみたいだ。

 ワタシが探しているのは忍者みたいな男にエルフの少女、そして大柄な人間だけど、全く見当たらない。
 レア度が三人とも高いのか?

 そういえばツバキが自分で何かの報酬だからレアリティが高いって自虐していた気がするな。


「…………いた! 天汰、ここにいたよ! アレゼルって書かれてる!」

「――良くやった! あっ、隣はダイアさんだ!」


 ようやく見つけた。二人とも前に出会ったときと同じ格好をしている……が、なんというか見た目が……。


「……あれ、天汰? こんなに……大人っぽかったっけ?」

「ゼルちゃん……何年眠ってきたんだよ……」


 ガラス越しに見えるアレゼルは、ワタシ達よりも背が高くお姫様みたいにスラッとして綺麗な女性だった。

 ワタシ達が知っている彼女の姿は凄く子供っぽくて、ジュマにも簡単に騙された幼い少女で、目の前のエルフはまるで別人にしか見えない。

 天汰の言うとおり、ここで何年も封印されてきたから身体だけは成長しきってしまったのだろう。

 天汰は手元にある名前が記された機械に手を乗せ、デタラメにスイッチを押していくとガラス部分が扉になり、横にスライドして開かれ中から美人が倒れ出てきた。


「ゼルちゃん!」


 彼女が頭を打ち付ける前に天汰は地面の隙間に滑り込み、彼女の顔に手を当てる。


「生きてるね、まだ」

「ああ……だけど魔力が感じられない……ゼルちゃんが本当に生きているか分からない」


 その時、天汰の石が突然輝き始めた。この色で輝いたのはあの時以来かもしれない。

 やがて光は天汰から女性の身体に移り、胸の部分で一層強く光り輝いた。


「……天汰……!」

「……ゼルちゃん……?」


 震える声で彼女をそっと揺さぶって目覚めを待つ。ワタシも彼も気付いていた。ワタシ達は彼女が目を覚ますんだと確信していた。


「…………ここ、は……どこ……?」

「ゼルちゃん!」


 天汰は彼女の声を聞いた途端微笑み、優しくアレゼルを抱き締めた。
 声色も顔付きも以前と全く異なるが、この一言で彼女がアレゼルであることがワタシにも分かる。

 彼女はまだはっきりとワタシ達の顔が見えていないようで、目をパチパチとさせてワタシと天汰の顔を交互に見比べていた。


「……どうしたの……? 天汰くん……へラルちゃん、二人して……アタシは……」

「ゼルちゃん、僕達生きてるよ。姉ちゃんもリチアも……生きて帰ろう、ゼルちゃん!」

「皆があなたを待ってる……!」

「……そっか……アタシ……死んでたんだ……」


 安堵した表情で涙を流すアレゼルにワタシも少しつられて涙目になりかけていると、天汰は彼女の涙を拭いゆっくりと頭を持ち上げた。


「今からダイアさんツバキも助ける。だからここで落ち着くまで横になってて。後……へラルは服を探してきて! 大人用三着、任せる!」

「分かった」


 ワタシは二人から離れて纏える物が無いか探し回る。その間に天汰はダイアを同じように蘇らせていた。

 クローン室を走り回って分かったことがある。ワタシ達以外、誰も服なんて着ていない。
 やっぱり何年も放置するには服が邪魔なんだろう。

 そもそもここにいたのはジュマくらいか……ラルが殺してしまったし、服を探しに行くにしても上には悪魔がいるから行動するのは不可能だ。


「ゼルちゃん……俺が見えるか……!? ダイアだよ、生きてたんだな……良かった」


 部屋の端に居ても涙を流して喜ぶダイアの声が聞こえてくる。後はツバキだけか。

 服はもう見つからなそうだし、ワタシはワタシでツバキを捜索を始め、すぐに隠し扉の存在に気付いた。


「……皆、ここに扉がある」

「本当だ。ゼルちゃん、ダイアさんこっちです」

「あ、あの……アタシ達に服……ありませんか……?」

「俺は絶対に見ないからな、ゼルちゃん!」


 二人が恥ずかしそうに局部を隠して歩いてくるが、天汰は全く気にしない様子でワタシを越して隠し扉を開ける。

 中はさっきまでのカプセル街と違い、少数のカプセルと特注らしきコスチュームが何着か壁に掛けて置かれていた。


「……いた、ツバキ」

「ツバキはあんまり変わらないね」

「浮かれている暇は無いよ皆。早速で悪いけど、生きて帰るには戦わなきゃいけないから」


 パネルを叩きながら天汰は言う。音を上げて動き出すカプセルをワタシ達は眺め、外の様子にも警戒を行い完璧に開き切ると同時に中からツバキが地面に倒れ込んだ。

 アレゼルの時と同様に天汰が頭をぶつけるのを防ぎ、ツバキは意識を取り戻した様子だった。


「……ここは……どこっすか……?」

「ツバキくん!」
「ツバキ!」


 ツバキが二言目を言う前に彼らは強く抱き締める。ツバキ達の目には大粒の涙が溜まっていた。
 でも、天汰だけはまた優しく微笑んで、ツバキの涙を手で拭き取り言葉を続ける。


「ありがとう、僕を守ってくれて。皆が……へラルもそうだけど、皆が居なかったら僕はここまで来れなかった」

「……天汰。外で異変が起こってる」

「それは僕も気付いたよ、へラル。皆、色々身体が成長して違和感があるかもしれないけど、今から戦う準備をしてほしい」

「あの……ワタシさ、ちょっと反省してて……三人はクローンだから女神襲撃に耐えられないって言っちゃったやつ……ごめん」


 今伝えるべき話題じゃないと思うけど、どうしても伝えたい、今を逃したら二度と伝えられない気がしてワタシは言葉を漏らした。


「今する話っすか……? でもまあツバキは平気っすよ。実際弱かったっす」

「誰も気にしてませんよ、へラルちゃん。それよりも! 戦いましょう! アタシ、今度は負けませんから!」

「……へラルも分かるだろ?」


 天汰がワタシに微笑む。恐らく、彼が言いたかったのは三人の魔力についてだ。

 三人の魔力は以前とは比べ物にならない程大きく、強くなっていた。
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