55 / 105
ステージ3 フェンリル編
第54話 悪魔と天汰
しおりを挟む
……あれ、ここはどこだ。たしか僕はフェンリルの二人の信者に思いっ切り膝蹴りされて……そこからの記憶が無いな。
そうなると僕は今、その蹴ってきた奴に持ち運ばれているのか。僕は辺りを見渡そうとしてみたけど見えない以前にそもそも目が開かない。
「起きなさい天汰。王の前よ?」
「おいおい……テメエ、まさかまた気絶させたか?」
「はい。一発ならいいかなと」
「良い訳ねえだろーが!!」
何やら声が聞こえてくる……この声はシェンとニーダか? 後、さっき僕を蹴ってきた奴。
とにかく今は起きないといけない。手足の感覚はあるし何かを失った訳でもないんだ、目を覚ませ。
僕は声を上げて『僕は生きてます』と、言おうとしてみたが声にならずに、
「ぼ……ぅぁ……て……ぁす」
とうめき声が漏れただけだ。
「天汰、寝たいなら寝てていいよ。ワタシが後で話すから」
「私も後で教えます……よ!」
げっ、ヘラルとイコさんも近くに居るのか……って待ってくれ、スルーしてたけどニーダが王の前だって言った……?
起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ!! 僕が一番悪目立ちしてるじゃないか!
本当なら石で回復してるはずなのに、目が開かないのはシンプルに疲労なのか!?
ならしょうがない。最悪声は聞こえているし黙って聞いておくか。
「……ま、いいだろう。そこの少年は眠らせておこう」
これがこの国の王様の声か。見た目は何も分からないけど声だけなら優しい印象を受けるな。
距離も相当離れている……リチアの時と比較してとにかく人が多いな、ただ魔力的にはそこまで強くはない。
……僕も知らないうちに魔力で人数も分かるようになってたんだな。
「──シェン、ニーダ。シラカバ国に現れた魔導怪獣の討伐の依頼達成してくれたようだが、報酬は何だね? 5000万ルードか? それとも、一年分の食料とかが良いか?」
「いえポンパー様。どっちも入りません、間に合ってます。オレ達が欲しいのはスキルなんですよ」
スキル……あっ、ヘラルが前に武器を改造して連撃スキルを付与してたな! あれって結構レアだったのか?
「ほう? ではどんなスキルを望むか? S級の付与魔術師ならすぐに呼べるが……」
「このガキが腰に携えてるこの剣にまず付けてほしいのだが……よっと」
そう言ってシェンは僕のテレイオスと記された剣を無理矢理剥ぎ取って多分王様に見せている。
僕の剣に驚いたのか、王様は声を上げて嘆いていた。
「テレイオス……トリテリアのロゼ公爵は逝去なさったと聞いていたがこの剣は何か関係あるのだろうか……?」
「あっ、それは……ワタシと寝ている奴で貰い受けました」
「ふむ……模造品では無さそうだ……分かった。今からこの国にいる付与魔術師に頼んでみよう。ではもう下がって良いぞ」
ヘラルが割と嘘を付いてるけどまあいいか。案外僕が王室っぽい所で眠っていても何にも言われないし楽だったな。
「ありがとうございます。では帰りましょうか、天汰は……どうしましょうか」
「しょーがねえな、オレが帰りは持ち帰ってやるよ。天汰が目が覚めて暴れたらお前はまたぶん殴ったりしてしまうだろうからな」
「はい。その自覚はあります」
暫くの間、どうでもいい二人のイチャイチャ会話をシェンに担がれながら聞く事になった。
* * *
数時間過ぎても僕の瞼は相変わらず重く、身体も上手く動かせない。意識も飛び飛びだし、僕には今いる場所が飛空艇の一室だってことしか分からない。
「──19時で~す。……って、これなんて読むの? あ、りょーかいりょうかい。えー──」
ふ、相変わらず下手な放送だな。しかし、今までの独房とは音量が違うことに加え、ソファーのような感触が床にあることからいつもと違う部屋……しかも高級そうだ。
「……ああーっ……やっ……と見える」
今までの異世界旅で気が付かない内に疲労が溜まっていた。数時間ぶりに瞼が開いてすぐ電球を直視してしまい、非常に目に悪い光を浴びた。
思い返すとマトモに休めた期間は初日だけだったな……トリテリアにいたのも一日経ってないし。
……皆は元気にしているだろうか。眠り心地が良いソファーの上だからかノスタルジックな感情に浸りつつある僕の心が疲れているんだ。
「姉ちゃん、元気かな……」
「──よ、やっと起きた? 疲れた? 隣座りたいからちょっと起きてよ」
ヘラルがガチャリと扉を開けてこの部屋に訪れてきた。というか、ここがヘラルの部屋なのかな、異常に広いしやたら豪華に出来てるし。
僕はゆっくりと身体を起こしてい背もたれに持たれかかる。まだ立ち上がるのは面倒だなあ……と、考えている間にはもう隣にヘラルが座っていた。
「ほら、この剣返しにきた。あなたが寝ている間にこの剣に【猛撃】が付与されてるから」
「【猛撃】って、何?」
僕はずっと思っていたのだが、連撃だの猛撃だの付与出来る人がいるならどの武器にも付与すればいいんじゃないか?
その技術自体を学ぶことさえ出来たらカンストが一気に近付くと思うが……。
「【猛撃】は【連撃】の上位互換だね。猛撃は攻撃する度に2倍、3倍……って威力がどんどん増していく。……まあ、すぐにカンストは出来るね」
他に何かを言いたそうに僕の目をヘラルが見つめる。
僕には以前から思っていた疑問がある。一度も口には出さなかったのは、否定されることが怖かったからだ。
多分、ヘラルも僕がこれから言うことは何となく分かっているのだろう。
言ったら、同じ関係ではいられないかもしれない。ただ、僕は伝えなければならないと思ったから、口に出してみよう。
「なぁ、ヘラル」
「何かな」
「僕がダメージカンストしても姉ちゃんがいる世界には帰れないんだろ」
「……」
ヘラルは初めて言葉を詰まらせた。目も分かりやすくヘラルが泳ぎ出しているし、何かを言いかけた口がピクピクと震えている。
でも、僕はそこまで知っていた。結局ヘラルは悪魔だったけど、姉ちゃんを異世界に召喚しようとしてるし、僕を召喚した元凶だけど悪い奴ではないって何となく分かってるつもりだ。
だからこそ、僕からヘラルに宣言しないといけないんだ。
「満足出来る旅を続けよう」
「……え」
「その代わり、姉ちゃんを呼んだ目的を教えてくれ」
「……ワタシは、嘘をついてないよ」
青い髪が風もないのに優雅に靡いている。
赤黒い小さな角が対照的で、瞳が僕の顔を反射している。
あぁ……こんなに僕の髪も琥珀色に染まったのか……。
「天汰、ワタシを信じて。今はカンストを目指すの諦めないで」
「……うん」
「もう少しなんだよ、徐々に皆があなたの存在に気付き始めてるの」
「……誰が? もしかして、運営が?」
「……そうだよ、運営がワタシ達に気付きだしてる。……それで、もう少ししたら全部教えられるから、ワタシがあなたを召喚した理由を」
「分かったよ。運営がね……」
「そう、運営の中でもこっちの世界に生まれ育った精鋭部隊、クローピエンスがワタシ達を追いかけてきてる」
「クローピエンス?」
クローピエンス……実際にある言葉じゃないしどっちの世界でも耳にしたことがないな。ヘラルの眼差しは真剣そのものだし嘘は言っていないだろう。
「ワタシが復讐したい相手なんだ。ワタシも創ってワタシを捨てた黒幕なの」
ヘラルの初めて見せる悲しみの表情に僕は思わず笑いが溢れてしまった。
「な、何笑ってるの……!」
「あははっ、実はさ、僕も迷ってたんだよ。姉ちゃんが好きな人が沢山いるこの世界を守る為に戦ってカンストを目指すか、ヘラルの為に戦うかって」
「は……? どういうこと」
僕が何を言っているのか出来ていないようで、ヘラルは奇異の目を向けてくる。
要するに僕は、どっちの味方をするかで揺れていたのだ。姉ちゃんかヘラルか。
でもそんな話じゃなかった。姉ちゃんの味方になることはヘラルの敵になることじゃないし、逆だってそうだ。
「ヘラル、僕と暴れよう。好き勝手やって全員に迷惑かけよう。クローピエンスだろうとプレイヤーだろうと関係ないね。ヘラルの復讐も手伝うし、ヘラルも僕が帰れる方法を復讐が終わったら教えてね」
「……いいね、楽しそうだ」
ようやくいつもの笑顔が現れた。やっぱりこうじゃないと落ち着かなくなってきた頃だったんだ。
じっとヘラルの目を見つめ合っていると、ヘラルが右手の小指を僕の目の前に突き出し、
「ゆびきりげんまん、やろうよ」
とヘラルは言った。
僕とヘラルにとってゆびきりげんまんの意味は変わらない。ただダメージカンストを目指そうってだけの意味で、それはこれからも一緒だ。
「オッケー」
僕はヘラルの小指を小指で重ねる。
「「ゆびきーりげーんまん……」」
「「嘘ついたら……」」
「えーとヘラル。本当は『針千本飲ます』なんだよ」
「……知ってたよ! もう……言いづらいな」
ヘラルはその場でため息を落とした。まあたしかに変なタイミングで言い出した自覚はある。
「ヘラル、大丈夫だろう。僕とヘラルは家族だし友達だろ?」
「まだ言ってんの? ……そうだけどさ」
「……はは、えーとさ」
僕はこの時ある異変に気付く。ヘラルもそれに気が付いたのか顔が青ざめ始めだした。
「……そのー……言っていいかな、天汰」
「うん。えっと……イコさん……? いつから……聞いてたのかなあ?」
扉は閉められているけど、たしかにそこにイコさんの気配がする。僕もヘラルもそこまでイコさんに対して疎くないのだ。
「ごめんなさい! 二人が何してるのか気になって……つい!」
「ははっ、別に気にしないでいいのに」
僕はヘラルの指を離して立ち上がり、イコさんを部屋に入れようとドアノブに手を掛ける。
「あっ天汰さん、ちょっと開けるのは……!」
「え、何でですか?」
何で嫌がるんだろう……僕達に見破られたことがそんなにショックだったのかな?
そうして僕はゆっくりとノブを回して扉を開けると、そこには……。
「キエエエェェ!! ヘラル様に何ちょっかいかけてるのよ!?」
「うわああああ蹴るなッガッ!」
またこのメイドかよ……今度は僕の顔面を渾身の一撃をぶち抜き、その衝撃で僕は壁に叩きつけられる。
霞む視界の中、イコさんの他にも大体20人近くの他のメイドの姿を見える……どんだけの人に会話聞かれていたんだ……思い返してみると割とクサい台詞吐いていたような……ああ、なんか恥ずかしく……なって……きた。
これから先の出来事は僕の記憶に残っていなかったから僕はここで気絶したと思う。
そうなると僕は今、その蹴ってきた奴に持ち運ばれているのか。僕は辺りを見渡そうとしてみたけど見えない以前にそもそも目が開かない。
「起きなさい天汰。王の前よ?」
「おいおい……テメエ、まさかまた気絶させたか?」
「はい。一発ならいいかなと」
「良い訳ねえだろーが!!」
何やら声が聞こえてくる……この声はシェンとニーダか? 後、さっき僕を蹴ってきた奴。
とにかく今は起きないといけない。手足の感覚はあるし何かを失った訳でもないんだ、目を覚ませ。
僕は声を上げて『僕は生きてます』と、言おうとしてみたが声にならずに、
「ぼ……ぅぁ……て……ぁす」
とうめき声が漏れただけだ。
「天汰、寝たいなら寝てていいよ。ワタシが後で話すから」
「私も後で教えます……よ!」
げっ、ヘラルとイコさんも近くに居るのか……って待ってくれ、スルーしてたけどニーダが王の前だって言った……?
起きなきゃ起きなきゃ起きなきゃ!! 僕が一番悪目立ちしてるじゃないか!
本当なら石で回復してるはずなのに、目が開かないのはシンプルに疲労なのか!?
ならしょうがない。最悪声は聞こえているし黙って聞いておくか。
「……ま、いいだろう。そこの少年は眠らせておこう」
これがこの国の王様の声か。見た目は何も分からないけど声だけなら優しい印象を受けるな。
距離も相当離れている……リチアの時と比較してとにかく人が多いな、ただ魔力的にはそこまで強くはない。
……僕も知らないうちに魔力で人数も分かるようになってたんだな。
「──シェン、ニーダ。シラカバ国に現れた魔導怪獣の討伐の依頼達成してくれたようだが、報酬は何だね? 5000万ルードか? それとも、一年分の食料とかが良いか?」
「いえポンパー様。どっちも入りません、間に合ってます。オレ達が欲しいのはスキルなんですよ」
スキル……あっ、ヘラルが前に武器を改造して連撃スキルを付与してたな! あれって結構レアだったのか?
「ほう? ではどんなスキルを望むか? S級の付与魔術師ならすぐに呼べるが……」
「このガキが腰に携えてるこの剣にまず付けてほしいのだが……よっと」
そう言ってシェンは僕のテレイオスと記された剣を無理矢理剥ぎ取って多分王様に見せている。
僕の剣に驚いたのか、王様は声を上げて嘆いていた。
「テレイオス……トリテリアのロゼ公爵は逝去なさったと聞いていたがこの剣は何か関係あるのだろうか……?」
「あっ、それは……ワタシと寝ている奴で貰い受けました」
「ふむ……模造品では無さそうだ……分かった。今からこの国にいる付与魔術師に頼んでみよう。ではもう下がって良いぞ」
ヘラルが割と嘘を付いてるけどまあいいか。案外僕が王室っぽい所で眠っていても何にも言われないし楽だったな。
「ありがとうございます。では帰りましょうか、天汰は……どうしましょうか」
「しょーがねえな、オレが帰りは持ち帰ってやるよ。天汰が目が覚めて暴れたらお前はまたぶん殴ったりしてしまうだろうからな」
「はい。その自覚はあります」
暫くの間、どうでもいい二人のイチャイチャ会話をシェンに担がれながら聞く事になった。
* * *
数時間過ぎても僕の瞼は相変わらず重く、身体も上手く動かせない。意識も飛び飛びだし、僕には今いる場所が飛空艇の一室だってことしか分からない。
「──19時で~す。……って、これなんて読むの? あ、りょーかいりょうかい。えー──」
ふ、相変わらず下手な放送だな。しかし、今までの独房とは音量が違うことに加え、ソファーのような感触が床にあることからいつもと違う部屋……しかも高級そうだ。
「……ああーっ……やっ……と見える」
今までの異世界旅で気が付かない内に疲労が溜まっていた。数時間ぶりに瞼が開いてすぐ電球を直視してしまい、非常に目に悪い光を浴びた。
思い返すとマトモに休めた期間は初日だけだったな……トリテリアにいたのも一日経ってないし。
……皆は元気にしているだろうか。眠り心地が良いソファーの上だからかノスタルジックな感情に浸りつつある僕の心が疲れているんだ。
「姉ちゃん、元気かな……」
「──よ、やっと起きた? 疲れた? 隣座りたいからちょっと起きてよ」
ヘラルがガチャリと扉を開けてこの部屋に訪れてきた。というか、ここがヘラルの部屋なのかな、異常に広いしやたら豪華に出来てるし。
僕はゆっくりと身体を起こしてい背もたれに持たれかかる。まだ立ち上がるのは面倒だなあ……と、考えている間にはもう隣にヘラルが座っていた。
「ほら、この剣返しにきた。あなたが寝ている間にこの剣に【猛撃】が付与されてるから」
「【猛撃】って、何?」
僕はずっと思っていたのだが、連撃だの猛撃だの付与出来る人がいるならどの武器にも付与すればいいんじゃないか?
その技術自体を学ぶことさえ出来たらカンストが一気に近付くと思うが……。
「【猛撃】は【連撃】の上位互換だね。猛撃は攻撃する度に2倍、3倍……って威力がどんどん増していく。……まあ、すぐにカンストは出来るね」
他に何かを言いたそうに僕の目をヘラルが見つめる。
僕には以前から思っていた疑問がある。一度も口には出さなかったのは、否定されることが怖かったからだ。
多分、ヘラルも僕がこれから言うことは何となく分かっているのだろう。
言ったら、同じ関係ではいられないかもしれない。ただ、僕は伝えなければならないと思ったから、口に出してみよう。
「なぁ、ヘラル」
「何かな」
「僕がダメージカンストしても姉ちゃんがいる世界には帰れないんだろ」
「……」
ヘラルは初めて言葉を詰まらせた。目も分かりやすくヘラルが泳ぎ出しているし、何かを言いかけた口がピクピクと震えている。
でも、僕はそこまで知っていた。結局ヘラルは悪魔だったけど、姉ちゃんを異世界に召喚しようとしてるし、僕を召喚した元凶だけど悪い奴ではないって何となく分かってるつもりだ。
だからこそ、僕からヘラルに宣言しないといけないんだ。
「満足出来る旅を続けよう」
「……え」
「その代わり、姉ちゃんを呼んだ目的を教えてくれ」
「……ワタシは、嘘をついてないよ」
青い髪が風もないのに優雅に靡いている。
赤黒い小さな角が対照的で、瞳が僕の顔を反射している。
あぁ……こんなに僕の髪も琥珀色に染まったのか……。
「天汰、ワタシを信じて。今はカンストを目指すの諦めないで」
「……うん」
「もう少しなんだよ、徐々に皆があなたの存在に気付き始めてるの」
「……誰が? もしかして、運営が?」
「……そうだよ、運営がワタシ達に気付きだしてる。……それで、もう少ししたら全部教えられるから、ワタシがあなたを召喚した理由を」
「分かったよ。運営がね……」
「そう、運営の中でもこっちの世界に生まれ育った精鋭部隊、クローピエンスがワタシ達を追いかけてきてる」
「クローピエンス?」
クローピエンス……実際にある言葉じゃないしどっちの世界でも耳にしたことがないな。ヘラルの眼差しは真剣そのものだし嘘は言っていないだろう。
「ワタシが復讐したい相手なんだ。ワタシも創ってワタシを捨てた黒幕なの」
ヘラルの初めて見せる悲しみの表情に僕は思わず笑いが溢れてしまった。
「な、何笑ってるの……!」
「あははっ、実はさ、僕も迷ってたんだよ。姉ちゃんが好きな人が沢山いるこの世界を守る為に戦ってカンストを目指すか、ヘラルの為に戦うかって」
「は……? どういうこと」
僕が何を言っているのか出来ていないようで、ヘラルは奇異の目を向けてくる。
要するに僕は、どっちの味方をするかで揺れていたのだ。姉ちゃんかヘラルか。
でもそんな話じゃなかった。姉ちゃんの味方になることはヘラルの敵になることじゃないし、逆だってそうだ。
「ヘラル、僕と暴れよう。好き勝手やって全員に迷惑かけよう。クローピエンスだろうとプレイヤーだろうと関係ないね。ヘラルの復讐も手伝うし、ヘラルも僕が帰れる方法を復讐が終わったら教えてね」
「……いいね、楽しそうだ」
ようやくいつもの笑顔が現れた。やっぱりこうじゃないと落ち着かなくなってきた頃だったんだ。
じっとヘラルの目を見つめ合っていると、ヘラルが右手の小指を僕の目の前に突き出し、
「ゆびきりげんまん、やろうよ」
とヘラルは言った。
僕とヘラルにとってゆびきりげんまんの意味は変わらない。ただダメージカンストを目指そうってだけの意味で、それはこれからも一緒だ。
「オッケー」
僕はヘラルの小指を小指で重ねる。
「「ゆびきーりげーんまん……」」
「「嘘ついたら……」」
「えーとヘラル。本当は『針千本飲ます』なんだよ」
「……知ってたよ! もう……言いづらいな」
ヘラルはその場でため息を落とした。まあたしかに変なタイミングで言い出した自覚はある。
「ヘラル、大丈夫だろう。僕とヘラルは家族だし友達だろ?」
「まだ言ってんの? ……そうだけどさ」
「……はは、えーとさ」
僕はこの時ある異変に気付く。ヘラルもそれに気が付いたのか顔が青ざめ始めだした。
「……そのー……言っていいかな、天汰」
「うん。えっと……イコさん……? いつから……聞いてたのかなあ?」
扉は閉められているけど、たしかにそこにイコさんの気配がする。僕もヘラルもそこまでイコさんに対して疎くないのだ。
「ごめんなさい! 二人が何してるのか気になって……つい!」
「ははっ、別に気にしないでいいのに」
僕はヘラルの指を離して立ち上がり、イコさんを部屋に入れようとドアノブに手を掛ける。
「あっ天汰さん、ちょっと開けるのは……!」
「え、何でですか?」
何で嫌がるんだろう……僕達に見破られたことがそんなにショックだったのかな?
そうして僕はゆっくりとノブを回して扉を開けると、そこには……。
「キエエエェェ!! ヘラル様に何ちょっかいかけてるのよ!?」
「うわああああ蹴るなッガッ!」
またこのメイドかよ……今度は僕の顔面を渾身の一撃をぶち抜き、その衝撃で僕は壁に叩きつけられる。
霞む視界の中、イコさんの他にも大体20人近くの他のメイドの姿を見える……どんだけの人に会話聞かれていたんだ……思い返してみると割とクサい台詞吐いていたような……ああ、なんか恥ずかしく……なって……きた。
これから先の出来事は僕の記憶に残っていなかったから僕はここで気絶したと思う。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる