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ステージ3 フェンリル編
第48話 清楚お姉さん
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「──あー、あー、朝の6時ですー起きて下さーい」
ああ……またこの声で起こされるのか……。
真っ暗な独房でただ一人目を覚ます。こんな生活がもう二週間……それくらい続いている。外の様子も一切見えない、唯一の他人の声がこの朝を知らせるアナウンスだけだ。
ヘラルも気がついた時には居なくて、正直僕の気力はほぼ限界を迎えかけていた。
「……はぁ。頭痛え」
まさかヘラルが悪魔だってバレただけですぐ捕まえられて二週間も放置食らうなんて……最悪だ。
食事とトイレだけはどうにかなっているけど、やっぱり孤独なのがキツい。
異世界に来て初めての孤独になるな、そういえば。
……そんなことを考えないようにしてたけど、いざ考え始めると心に来るものがある。
「火炎……って出ないか。この部屋で魔法も出せないし……ヘラルは何してんだろう」
この部屋はルースの酒場みたく結界魔法が張られていて魔法が撃てないんだったな。しかも、おまけに魔力まで吸い取っていくもんだから2時間おきにふらつくし……揺れにも慣れないしで……あー不安ばっかり出てきてるのは良くないな。
「一旦寝るか」
「よく寝れるね、天汰」
檻の向こうから呆れた様子で語りかける声が聞こえた。一度瞑った目を開けて光の方へ目を向けた。
「……ヘラル。どこ行ってたんだよ、僕一人でずっと閉じ込められてしんどかったよ」
「え……余裕ありすぎない? ワタシはもっと死にかけてるかと思ってたんだけど」
「いや普通に限界だけど。とりあえずここから出してくれ、魔力が安定しなくてキモいんだ」
「よーやく許可が降りたからね、出して楽にしてあげるよ」
「助かるよ」
ガシャリと音を立てて檻は開いた。久しぶりに見るヘラルの表情はどこか大人びて見えた。
「なんか……変わっちゃったなヘラル」
「VIP待遇を受けて成長しちゃったからね」
「なんだそれ」
ふぅー……檻の外は普通に魔力も吸われることも無いし楽だな。
艇内は機械が動いてるもんだと勘違いしてたけど、案外魔法で動いているのか?
そんな考え事をしながら下りのない階段を上がっていく。
「悪魔だから何でも言う事聞いてくれちゃってさあ、楽だったな~」
「それは良かったね」
「天汰、お風呂好きでしょ?」
「まあ好き寄りだけど」
「あるよ」
廊下を右に曲がると大浴場がそこにはあった。浮いてるのにこんな大きな風呂場を置けるとかどんだけこの船は広いんだ。
「とりあえず入ってくる、ヘラル待ってて」
「寒いからワタシも入る」
悪魔って風呂とか入るんだ……。
僕はいつも通り全身を洗い、そのまま湯船に身体を沈めた。
隣でヘラルはいつもの服のまんま浸かって遠くを眺めて考え事をしている。
「天汰と居る時間より一人の時間が長かったから……懐かしいなって思っちゃった」
「楽しめたんならいいだろー……僕は死ぬほどしんどかったけどね」
「そうじゃなくてさ、楽しくなかったんだよ。何でだろ」
「…………分からないな」
* * *
「──で、僕が出られた理由ってなんだっけ? こんな綺麗なスーツまで貰っちゃって」
「詳しい事はシェン達が説明してくれるよ」
「……お前も貰った服着ろよ」
暗い地下層を抜けてようやく人がいる階層に出てきた僕らを歓迎する声も当然無く、むしろ怪訝そうに見られるばかりだ。
しかし、ヘラルに従って進めば進むほど周囲の人の数が減り、一際豪華な扉が出現する。
「この先にシェンとニーダがいんのか……やっぱり、逮捕とかされるのかな……?」
「聞いてみよっか、三人に」
そう言うとヘラルは扉を開けた。中にはシェンとニーダの他に見覚えのない女性がチェアに座って、僕の目をしっかりと目を合わせようと視線を送ってきた。
そこでシェンが心底気まずそうに重い口を開ける。
「えーと、天汰だよな? 勢いで捕まえちまったけど……まーその、運営に引き渡す予定が変わったんだ」
そんな顔をされてもね……。
続いてニーダが前髪を指先で遊びながらため息をつき、テーブルの上に置かれたワインを勢い良く飲みきった。
「んまぁ……こうなったのはこの人のお陰だから感謝しなさいよ?」
そう言ってニーダは一番奥に座っている謎の女性を指差した。
「初めまして、私はイコ(・・)です。うふふ」
「あ、初めまして……」
誰だ……? なんで初対面の人が僕を助けた……?
ヘラルも何の疑問が沸かないのか? シェン達も何も言わないし。
イコという女性がずっと笑顔で僕を見つめてくるが言葉が続かず、ただお互いを見つめ合う謎の時間が一分近く続いた。
「ヘラル、天汰。もう座っていいぜ」
「……あ、失礼します」
「真面目ですね、天汰さん」
イコの容姿は特別派手な訳でもないし、貧しい服装でも無い。だからこそ二人と見比べるとどうしても違和感が凄く、ある意味異質な存在に思える。
だとしてもこの空間で浮いているのは僕だった。
「オレ達は運営に逆らう訳だからもう逃げるしか無くなったな、ハハッ」
「わらわは運営嫌いだったから丁度いいわ」
「そんな事言ったら失礼ですよ! 言葉づかい気を付けてください!」
イコに怒られて凹む二人。もしかしてなんだが、この人もフェンリルのリーダーなのか?
「あの、イコ……さんもフェンリルのリーダーなんですか?」
「一応そうだね! 後畏まらなくいいから! 私達全員こっちの世界の住民だしね!」
こっち側、というとどういうことだ?
「オレ達、というかここにいる5人はプレイヤーじゃないから気にすんな、ってことだ」
「何喋っても運営に補足されることは無いから不満幾ら洩らしても問題ないわよ」
「えっ……お前らもプレイヤーじゃないの!?」
「「お前らって言うなッ!」」
最強パーティーのトップ三人がプレイヤーじゃないってどういう事だよ。待てよ……となると一度も死んだ事が無いってことだよな?
何回でも死ねるプレイヤーとハンデがあるのにも関わらず戦い続けて生き残ってきた本気の強者じゃんか。
「自己紹介はここまでだ。こっからはオレ達が向かう国について天汰に説明するぜ」
「トリテリアから随分離れてしまったものね、後数時間で着く場所よ。支度しときなさいよ」
「説明が終わったら私が艇内を案内するね!」
うーん……イコさんは所謂清楚ってやつか。今まで出会った女性の中で一番マトモな気がしてきたぞ。
「テメエら話聞けよ。天汰、今から向かう国は──」
ああ……またこの声で起こされるのか……。
真っ暗な独房でただ一人目を覚ます。こんな生活がもう二週間……それくらい続いている。外の様子も一切見えない、唯一の他人の声がこの朝を知らせるアナウンスだけだ。
ヘラルも気がついた時には居なくて、正直僕の気力はほぼ限界を迎えかけていた。
「……はぁ。頭痛え」
まさかヘラルが悪魔だってバレただけですぐ捕まえられて二週間も放置食らうなんて……最悪だ。
食事とトイレだけはどうにかなっているけど、やっぱり孤独なのがキツい。
異世界に来て初めての孤独になるな、そういえば。
……そんなことを考えないようにしてたけど、いざ考え始めると心に来るものがある。
「火炎……って出ないか。この部屋で魔法も出せないし……ヘラルは何してんだろう」
この部屋はルースの酒場みたく結界魔法が張られていて魔法が撃てないんだったな。しかも、おまけに魔力まで吸い取っていくもんだから2時間おきにふらつくし……揺れにも慣れないしで……あー不安ばっかり出てきてるのは良くないな。
「一旦寝るか」
「よく寝れるね、天汰」
檻の向こうから呆れた様子で語りかける声が聞こえた。一度瞑った目を開けて光の方へ目を向けた。
「……ヘラル。どこ行ってたんだよ、僕一人でずっと閉じ込められてしんどかったよ」
「え……余裕ありすぎない? ワタシはもっと死にかけてるかと思ってたんだけど」
「いや普通に限界だけど。とりあえずここから出してくれ、魔力が安定しなくてキモいんだ」
「よーやく許可が降りたからね、出して楽にしてあげるよ」
「助かるよ」
ガシャリと音を立てて檻は開いた。久しぶりに見るヘラルの表情はどこか大人びて見えた。
「なんか……変わっちゃったなヘラル」
「VIP待遇を受けて成長しちゃったからね」
「なんだそれ」
ふぅー……檻の外は普通に魔力も吸われることも無いし楽だな。
艇内は機械が動いてるもんだと勘違いしてたけど、案外魔法で動いているのか?
そんな考え事をしながら下りのない階段を上がっていく。
「悪魔だから何でも言う事聞いてくれちゃってさあ、楽だったな~」
「それは良かったね」
「天汰、お風呂好きでしょ?」
「まあ好き寄りだけど」
「あるよ」
廊下を右に曲がると大浴場がそこにはあった。浮いてるのにこんな大きな風呂場を置けるとかどんだけこの船は広いんだ。
「とりあえず入ってくる、ヘラル待ってて」
「寒いからワタシも入る」
悪魔って風呂とか入るんだ……。
僕はいつも通り全身を洗い、そのまま湯船に身体を沈めた。
隣でヘラルはいつもの服のまんま浸かって遠くを眺めて考え事をしている。
「天汰と居る時間より一人の時間が長かったから……懐かしいなって思っちゃった」
「楽しめたんならいいだろー……僕は死ぬほどしんどかったけどね」
「そうじゃなくてさ、楽しくなかったんだよ。何でだろ」
「…………分からないな」
* * *
「──で、僕が出られた理由ってなんだっけ? こんな綺麗なスーツまで貰っちゃって」
「詳しい事はシェン達が説明してくれるよ」
「……お前も貰った服着ろよ」
暗い地下層を抜けてようやく人がいる階層に出てきた僕らを歓迎する声も当然無く、むしろ怪訝そうに見られるばかりだ。
しかし、ヘラルに従って進めば進むほど周囲の人の数が減り、一際豪華な扉が出現する。
「この先にシェンとニーダがいんのか……やっぱり、逮捕とかされるのかな……?」
「聞いてみよっか、三人に」
そう言うとヘラルは扉を開けた。中にはシェンとニーダの他に見覚えのない女性がチェアに座って、僕の目をしっかりと目を合わせようと視線を送ってきた。
そこでシェンが心底気まずそうに重い口を開ける。
「えーと、天汰だよな? 勢いで捕まえちまったけど……まーその、運営に引き渡す予定が変わったんだ」
そんな顔をされてもね……。
続いてニーダが前髪を指先で遊びながらため息をつき、テーブルの上に置かれたワインを勢い良く飲みきった。
「んまぁ……こうなったのはこの人のお陰だから感謝しなさいよ?」
そう言ってニーダは一番奥に座っている謎の女性を指差した。
「初めまして、私はイコ(・・)です。うふふ」
「あ、初めまして……」
誰だ……? なんで初対面の人が僕を助けた……?
ヘラルも何の疑問が沸かないのか? シェン達も何も言わないし。
イコという女性がずっと笑顔で僕を見つめてくるが言葉が続かず、ただお互いを見つめ合う謎の時間が一分近く続いた。
「ヘラル、天汰。もう座っていいぜ」
「……あ、失礼します」
「真面目ですね、天汰さん」
イコの容姿は特別派手な訳でもないし、貧しい服装でも無い。だからこそ二人と見比べるとどうしても違和感が凄く、ある意味異質な存在に思える。
だとしてもこの空間で浮いているのは僕だった。
「オレ達は運営に逆らう訳だからもう逃げるしか無くなったな、ハハッ」
「わらわは運営嫌いだったから丁度いいわ」
「そんな事言ったら失礼ですよ! 言葉づかい気を付けてください!」
イコに怒られて凹む二人。もしかしてなんだが、この人もフェンリルのリーダーなのか?
「あの、イコ……さんもフェンリルのリーダーなんですか?」
「一応そうだね! 後畏まらなくいいから! 私達全員こっちの世界の住民だしね!」
こっち側、というとどういうことだ?
「オレ達、というかここにいる5人はプレイヤーじゃないから気にすんな、ってことだ」
「何喋っても運営に補足されることは無いから不満幾ら洩らしても問題ないわよ」
「えっ……お前らもプレイヤーじゃないの!?」
「「お前らって言うなッ!」」
最強パーティーのトップ三人がプレイヤーじゃないってどういう事だよ。待てよ……となると一度も死んだ事が無いってことだよな?
何回でも死ねるプレイヤーとハンデがあるのにも関わらず戦い続けて生き残ってきた本気の強者じゃんか。
「自己紹介はここまでだ。こっからはオレ達が向かう国について天汰に説明するぜ」
「トリテリアから随分離れてしまったものね、後数時間で着く場所よ。支度しときなさいよ」
「説明が終わったら私が艇内を案内するね!」
うーん……イコさんは所謂清楚ってやつか。今まで出会った女性の中で一番マトモな気がしてきたぞ。
「テメエら話聞けよ。天汰、今から向かう国は──」
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