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ステージ2 トリテリア

第46話 混ざり合って綺麗だね

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「イザナミ……僕と勝負だ。その子の手を離せ」

「ほう……汝も『再生』するのか。興味深いな……そうだ。提案がある」

「……殴り合う以外にか?」

「あっはっはっ、雪女の娘の命を握ってるのは我だぞ?」


 やっぱりこっちの女神は卑劣過ぎるな。不本意だけど仕方ない、命を犠牲に出来ない。


「分かった。何をすればいい?」

「耐久テストさ」

「がぁッ……!」


 奴の攻撃が見えなかった。魔法なのか? それとも腕とか伸ばしてんのか。

 落ち着け。どんな攻撃を、例え脳をぐちゃぐちゃにされても治るから耐えながら考えよう。
 アマテラスと同じで魔法攻撃に違いないな。アイツは光だったし、最初に攻撃した時に炎で攻撃されたんだ。


「そろそろ……手を離してやれよ」

「別に構わないが、この負傷じゃいずれ死ぬぞ。ほらっ」


 イザナミはユメちゃんの身体を宙に投げた。僕はボロボロの身体で受け止めた。

 ユメちゃんの表情はとても険しく、正直いつまで耐えられるかわからない。丸眼鏡が乾きかけた血で汚れて可哀想だ。


「……イザナミ、一分だけくれ。僕がユメちゃんを治す」

「他人をか……? 出来る訳がないだろう」


 僕の再生させ続ける腹に刺さった石なら、この重症でも回復出来るかもしれない……。


「ユメちゃん……手を借りるね」

「…………うん」


 ゆっくり優しく丁寧にその小さな手を握り、僕の石に触らせる。
 しかし、ユメちゃんに変化は訪れない。


「……逃げ……てよ」

「逃げない」


 ……そうだ、魔力を流してみるか。今までは魔力を火炎って形にして放出していたけれど、直接肌が触れ合っているなら魔力を通じて石の効果が作動するかも。

 ユメちゃんの手は石を触らせたまま、僕はゆっくりと両手から直接魔力を流す。


「……天汰……君」

「大丈夫、落ち着いて……息を吐いて……」

「……感じる……」


 はあはあ……魔力がどんどん流れていくから疲れてきたな。頼む……上手く行ってくれ。


「……あっ……」


 よし、何とか止血は出来た。これなら、誰かの傷でも治せるんだ。
 難点なのは、僕の負担がデカすぎることかな……。

 だけど、まだ傷を塞いだだけだ。これを使って、ユメちゃんの気力も回復させる。


「これで……ある程度は動けるはずだ……くっ」

「……駄目だよ……苦しまないでよ……」

「その腹に付いている石が重要なのか……興味深い。それを我によこしてくれないか」


 ユメちゃんを治せた……女神が割り込んできたが無視してやろう。


「これで僕とお前で対等な勝負になりそうだな」

「対等か……本気で我に勝てると思っているのか?」

「当たり前だ。僕は既に倒しているからな」

「……なるほどなるほど……汝が殺したのか。どうだった? 弱かっただろう?」


 へえ、あくまでも僕が強いとは思ってくれないんだ。僕的には油断してもらえるなら結構だけど。


「お前よりは強かった」

「そうか……」


 ──ヘラルの気配がする。恐らく奇襲を仕掛けるつもりだ。
 イザナミの体力は誰だけ残っているのか……僕とユメちゃんを合わせて20億くらいだったはず。
 後どれくらい残っているのか分からない……けど。


「ユメちゃん、降ろすね」

「……勝てるの」

「勝つさ……」

「……わえの力を……あげるから」


 ユメちゃんが僕の背中に触れると、大量の魔力が流れてきた。

 これは……僕が上げた分の魔力じゃない。ひんやりとしてて、それでも優しく感じられるこの魔力は、ユメちゃんが元々持っている魔力じゃないか。


「……わえ、魔力だけは……沢山あるから」

「分かった、信じる」

「ふむ、もういいか? 冷めてきてしまった」


 僕の魔力を優に超えるユメちゃんの魔力を全身に纏い、テレイオスと刻まれた剣に僕の全魔力を乗せる。


「【火炎刃ファイアーブレード】! 天日・【レギナエ】!」

「ふっ……【炎輪】」


 光速で斬りかかったが、寸前でイザナミは魔法を放ってきやがった。
 この距離じゃ避けようにも中途半端で終わる。多少痛いだけだ、食らうしかない。

 ただ僕は、完全に無効化してやりたい。そう思った。


「「【妖氷柱アヤカシツララ】!」」


 二人の声が揃った。僕とユメちゃんの考えが一致していたみたいだ。
 僕はもうユメちゃんの技は理解出来ている、一発は直撃してるしね。
 何より、彼女の魔力が教えてくれている。

 目の前に突然現れた氷塊にイザナミは焦りの色を浮かべている。
 そして、僕達は神の炎を打ち破る。


1200000000120億0……!」

「その程度で……死ぬと思ったか……!? 人間如きが……!」

「まだだッ!」


 僕の中にある魔力とユメちゃんから貰った魔力を極限まで混ぜ、右手からそれを放った。


「【火炎氷塊】ァッ!」


 全身から魔力が抜けていく感覚が気持ち悪い。一直線に莫大な魔力の塊が奴の体内に潜り込み、大爆発を起こした。


「……やった」

「ウウッ……なんだ……この……威力は……!!」


 頭上に数値。8560000000856億0と記された黒色の文字は強烈だった。
 それを見てイザナミも自分の死を悟ったような顔を見せた。


「終わりだ……はぁ……」

「……人が……だせる威力では……ない」


 頭が痛い……イザナミの声も聞こえにくくなってきた。魔力の使い過ぎだ、これじゃ……最期を見れないじゃないか。
 それに、ユメちゃんも大丈夫なのか……?


「せめて……娘だけでも殺してやる……」

「やめ……ろ」


 左腕に力を込めたつもりだったが、いつの間にか剣を握り切れずに落としていた。

 足でさえ一歩も出せない。イザナミは身体で唯一残っている顔から火を吹き、それはユメちゃんに向かって飛ばされた。


「──【】」

「……あ」

「なんだ、この程度の魔力しか残ってないんだ。女神の癖して弱っちいな~」

「ヘラル……トドメは任せた……」


 どこに隠れていたのか知らないけど助かったぜヘラル。
 風に靡く悪魔の青髪がいつもよりも輝いて見えたのは気のせいだろうか。


「ワタシが忘れてた記憶、雪娘のお陰で思い出せた。この超綺麗な髪を見てさ……誰かが言ったんだ」

「黙れ……邪魔をするな……悪魔め」

「『この髪色はだ! まるであの花と一緒だ』ってさ」


 ヘラルは一歩ずつイザナミに近付き、目前に迫るところで立ち止まりある言葉を唱えた。


「【青薔薇アオバラ】」

「が────」


 真夜中の平地を青い光で照らし嗤うヘラルに僕は、初めて心から人ならざるものだと思ってしまった。 
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