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ステージ2 トリテリア

第37話 ワンパンでカンスト目指して

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「左手出して」


 僕はヘラルに従い、左手を空に突き上げる。
 僕の左手にヘラルは触れ呪文のような言葉を唱えると、身体に変化が訪れた。


「……ァァ! 痛えええ!!」

「耐えて! 身体が無くなるのは一瞬だけだから!」


 意識が飛びそうになる痛みに僕は吐き気すら催したが、声を上げながらも耐え続けた。


「ワイはな、そんな待つ暇ないねん」

「グゥッ!?」

「ぐぁっ……!」


 アクマにヘラルごと腹を蹴られ僕は口から吐瀉物を撒き散らす。それでも腕の痛みは無くならない。
 ヘラルも耐えているんだ。


「あんた面白い奴やな? いくら腹やら顔面ぶん殴っても勝手に再生するの羨ましいな! これも治るか?」

「ガハッ!!」

「おー歯も生えるんや面白っ」


 更に強烈な脇腹蹴りを食らい、踏ん張りきれず二人揃って壁に叩きつけられる。


「そんで、どうなったら反撃してくれんの? 飽きてきたから殺すで」

「……もう完成してんぜ」


 相変わらず左手は痛むが感覚は完全に遮断され、適合が終わったようだった。
 ヘラルも出来たと知らせるような顔で僕を見つめている。


「……おー、真っ暗になったな! 闇に紛れてよく見えんけどどうなん? ワイに、勝てるん?」

「僕達は負けない」

「……今の天汰の手は悪魔の力100%全部出せる。正直、火力だけなら今のワタシよりちょっと強いかも」

「分かった。ヘラル、ね」


 僕の左手は明かりが無い為はっきりと見えない。しかし、寒さによる心臓の震えに似た感覚を僕は味わっていた。


「そんなでワイを倒せるって本気で思ったんの!? しゃーない! 一発、一発だけなら許したる。殴ってみいそれで」

「いいんだな? ヘラル」

「【黒薔薇クロバラ】」

「なんやこれ動けん! な、何や……?」

「……アクマ、避けようとしてるのバレバレだ。ヘラルがそんなの許す訳ないだろ」


 ヘラルが黒薔薇を使って相手の両足を縛り、僕の攻撃を避けられないようにする。
 縛られた事に焦りを隠せなくなってきたアクマは、額から汗を流して急に命乞いをし始めた。


「あ……あのな、一発だけとは言うたけど縛るのは無しやないか?」

「ワタシと同じ『悪魔』なんでしょ? 人を騙した癖にそんな事言える立場じゃないよ?」


 それはヘラルも同じな気がするが……まあいいさ。これで殴れるから。


「行くぞ」

「待てや! ワイみたいな悪魔にもなれん可哀想なアクマを助ける気はないんか!?」

「無い。食らえ」


 握り拳を作り、全力で振りかぶり左腕で殴りかかる。全てはこの一撃の為に。


「【火炎拳カエンケン】!」


 悪魔の腕に僕の魔力を投入し火力を高める。表面的には火は闇に包まれて目視出来ないが掌にかなりの魔力が溜まっていることを実感している。


「ま──」

「オラァッ!!」


 振りかぶった拳はアクマの頬に当たり、それと同時に僕は全魔力を放出する。
 マスコットみたいに黄色い肌が、悪魔の拳に触れただけで蕩けていく。

 奴の目には涙が溜まり、完璧に恐怖に飲まれた顔になっている。

 そしてとうとう魔力が悪魔の腕を貫通して光を放った。
 暗闇の中急に光ったもんだから僕もついつい驚き、顔を一瞬背けてしまった。
 ただ、光の直前に見えた数値が今までに前例のない大きさで、僕はそっちに強く驚いていた。


「……ああ……死ぬ……?」


 魔力でアクマを吹き飛ばし壁に叩き付ける。打ち付けられたアクマは微動だにせず、うわ言を一人呟いていた。


「……ワイは……生き……る」

「無理だ。お前が今くらったダメージを教えてやるよ。8700050008億7500万5千ダメージだ」

「クソが……」


 悪魔の腕は僕を睨み一言罵り、息絶えた。
 塔全体を渦巻いていた闇が次第に引いていき、やっと異常に暗かった部屋に目が順応して見えるようになった。


「ヘラル……」

「どう? これがワタシの本来の実力よ。ワタシが誰よりも強いって分かった?」

「あの……痛いから早くこの腕消してくれないか?」


 本来、悪魔の腕がある場所にあったのは僕の腕だ。僕の身体はどれだけ欠けようが自然に再生してしまう。
 だから、この腕は再生しようとする僕自身の腕を常に削り、蝕み続けていた。

 そのせいで切断するような苦しみを味わい続けていたのだ。
 何とかそれを怒りに昇華していたので、殴る時には気にならなかったが戦いが終わると脳は騙しきれなくなっていた。


「……はい。契約解除、もう腕生えてきた……ちょっと……気持ち悪い」

「僕もそう思うよ」


 そうだ、すっかり苦しみで忘れそうになっていたけどここにはまだ捕まっている彼女が居たんだ。


「おーい! 僕達がアクマを倒したぞー!」

「ワタシもやったー」


 糸に縛られた女のいる部屋に駆け込み、早口で事情を説明する。


「声自体は聞こえていたのですが……間違えないんでしょうか?」

「うん、悪魔のワタシがそう言うんだから間違いないよ」

「ここを出よう! この部屋の壁がワープ出来るようになってるんだ」

「私……動けないんですが」

「なら僕が溶かすよ」


 僕は腰を下ろし、女に近付き絡まっている糸に手を伸ばす。
 ゆっくりと丁寧に残してあった魔力を流し込み、糸だけを燃やしていく。
 数分で糸は解け、女も身動きご取れるようになると今度は恥ずかしそうに僕達に話す。


「その……服が無いので少し恥ずかしいと言いますか……」

「……しょうがないか。本当はヘラル用に買って貰ってたんだけど、これ着てください。服というかマントなんですけど、全身は隠せると思いますんで」

「……ありがとう……ございます」


 僕がマントを手渡すと女はすぐさま全身をマントで覆い、安堵の表情を僕に向けた。
 そしてもう一人、別の感情で僕を睨む者がいた。


「は? それは違うじゃん。ワタシの服とか言ってたけど一度もそんな事言ってなかったよね。何、なんなの当てつけ?」

「ごめんなさい……脱ぎます……」

「脱がなくていいです……」


 そんな小漫才をしばらく繰り広げて後で今度はケイさんに頼んで違う服を買うことを約束し、下の階層に戻る準備を済ませた。


「この壁に触れればいいですよね……?」

「うん。心配なら天汰に手でも握ってもらえば? ふんっ」

「なんでまだ怒ってんだ……えっ」

「久しぶりに外出るので……手を握らせてもらいます……い、嫌なら離しますのでっ!」

「え……いやそのままで平気ですけど」


 僕達三人は揃って壁に触れ、ケイさん達のいる三階層に向かった。
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