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ステージ2 トリテリア
第31話 ピンク色のオカルト思考
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「ふむふむ……なんとな~く、理解は出来た……ような?」
「……難しい問題でしたよね、すみません」
何百年の歴史をたった五分に詰め込む荒業を成し遂げたテレイオス家の従者は、貰ったTシャツに着替えながら何度も僕に目を合わせようとしてくる。
何かした覚えはないんだけどな。
「ところでお三方はいつからここに……?」
「ん? お三方って誰のことですか? 俺達二人じゃないですか」
……忘れてた。僕の胸元からひょっこり姿が見える彼女の存在を。
ヘラルはまだ眠ってこそいるが、その姿を他人がバッチリ見たら三人目としてカウントするだろうな。
何とか誤魔化さないと、カエデさんだけに話すのも都合が悪い。
「もしかして……あなたは『視える』体質なんですね……?」
「視える、とは」
「……僕の周りにはよく幽霊が纏わり付くんです。なのであなたは幽霊をみてしまったんでしょう……」
無理があるか? 従者は顎に手を置いて何やら考え事をしているみたいだ。
「……そういうこと……なんでしょうか。驚かせてしまいましたね」
「……おー、俺には見えないんだけど!? 天汰、俺の周りには? いない?」
「はい、いないです」
「良かったぁー!」
よし、カエデさんも何とかなったぞ。
めちゃくちゃ焦ったな……。
「そうだ、僕達知りたいことが沢山あるんでトリテリアとテレイオス家に起きた出来事を教えてもらいたいです!」
「なら、一度屋敷に訪れてみませんか? 今は……仕えるべき相手も、いませんので」
「仕える相手が居ない?」
「ああ、それは後ほど伝えますから着いてきてください」
僕は何の迷いも無く、恐らくカエデさんも同様に従者を追いかけて路地を抜けた。
「……こちらです。あの大きくて……多少散らかっている屋敷がテレイオス家の象徴です」
「かなり大きいな……俺達回りきれるかな?」
かなり悠長に語ってはいるが、誇張抜きにして相当に土地が広い。
土地の規模だけでいえばルドベキアの城の半分くらいはあるように見える。
「こちらから入ってください」
領地内は所々散らかり、ゴミや落書きをされた跡がかなり目立っていたが室内に入ると飴玉のように甘い香りが漂っていた。
「うおー良い匂いしそう!」
「僕もそう思います」
「外の敷地はしょっちゅう嫌がらせで汚されちゃうんですが、流石に中までは侵入してくる人いないので綺麗なままなんです」
こんなに国は荒れているのに、侵入までしてくる人がいないのは珍しいな。
歩いても床は軋まないし、壁にも傷一つ跡が見えないのを見ると建物自体が新しく、人が出ていったのもつい最近のことだろう。
「……なんか、物音がしますね」
「奥の部屋に誰かの声が。俺が見てきます」
ズカズカと音を立てて物音がする奥の部屋に向かっていくカエデさんを見て不安になり、僕は一つ提案する。
「僕も着いていきますが、一旦待って何人いるのか声を聞いてみましょう」
「わかった!」
「静かに、行きましょう」
ゆっくり1歩ずつ部屋に近付き、声の数を探るため壁に耳を付ける。すると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「──な~んかダンジョンにしては中綺麗過ぎるなー? ユメちゃん当たってる?」
「……絶対ダンジョン」
絶対に聞こえちゃいけない声が、言っちゃいけない状況で聞こえてきたので僕は突っ込まずにはいられず、躊躇無く扉を開けて声を荒らげる。
「ここは他人んち!! 謝って! この人に!」
「お、天汰~カエデもいる。何してんの? 見てよウチらのスクショ、盛れてない!?」
「……ここはダンジョン」
「あ、ああ……助けてカエデさん……」
「へースクショ結構綺麗に……じゃねえや、天汰の言うとおりここテレイオスさんの家だから!」
カエデさんの説教が三分ほど続き、僕はその間腰を抜かして立てなくなった従者さんに付き添い続けた。
「──謝罪して」
「すみませんでした」
「……ごめんなさい」
ケイさんとユメちゃんは従者さんに土下座を披露し困惑させてしまい、カエデさんが頭を抱えてしまった。
「あの、従者さん。テレイオス家に何があったのか説明してくれませんか?」
「分かりました」
そう言って従者さんから出てきた言葉は驚きばかりだった。
テレイオス家の失踪は当主であるロゼ・テレイオスが悪魔を召喚し、トリテリアを救おうと計画したことが始まりだった。
最初こそ上手く入ってなかったものの協力者はとても多く、何とか召喚までの準備に漕ぎ着けたある日のことだ。
ロゼを始めとする一族の者達の半数が急に失踪したという。
それから残った一部の者達は次々と去り、残った者は人々の恨みを買い何人も殺されていったとのことだ。
「──これまでが、私以外の人達の知っている話です」
「俺の知らない間にそうなっていたなんて……!」
心底悔しそうに頭を下げるカエデさんに、従者さんは軽く自嘲じみた笑いで話を続けた。
「ロゼ様は知っていたのです。悪魔を呼ぶには人々から集めた物だけじゃ足りないことを」
「足りない物……」
「あの人は、ご子息や兄弟を引き連れてとある場所で儀式を勝手に行ったんです」
悪魔を呼び出す儀式か、今思えばヘラルも悪魔だというのに、権威を最近はあまり感じられないのは何故だろうな。
「足りない物というのは人の魂だったんです。彼等はその為に自分のご子女を利用したんです」
「ご子女って……自分の娘!? おかしいよ、そんなの普通は出来るわけないじゃん……」
「……こわい」
その後テレイオス家に起こった出来事というのは、オチさえ分かっていれば予測も簡単に出来た。
「結局、悪魔の召喚は失敗して彼等は殺されました。帰ってきた人は……誰もいません」
「……つまり、ウチらでそこを探索すれば真相が分かるってことじゃん!」
「……いえ、そこは危険です。例の組織によって封鎖されていて……普通は入れません」
「──従者さん。僕を……信じてくれませんか。絶対に僕達なら解決できます」
僕は従者さんだけに胸元の彼女の存在を見せつける。口には出さず意図だけを受け取って欲しい。
「……他の人には伝えないでくださいよ。場所は儀の塔、トリテリアを出てから南東10km先にある森の中央にあります」
「よし。すぐに向かうぞー! ワクワクしてきたー!」
「ユメちゃんトイレ大丈夫?」
「……うん」
「ありがとうございます」
何とか伝わったみたいだ……この子が悪魔かは知らないだろうけど、何とか変態の域で耐えたか。
「……神の御加護があらんことを」
こっちでは珍しい神頼みを耳にして僕は戸惑ったが、興味が無いのかケイさんとカエデさんは反応をせずあっという間に部屋を飛び出てしまった。
「……ユメちゃんはトイレか」
「……終わった、行こう……天汰君」
僕はもう一度一礼して、ユメちゃんと屋敷を出ていった。
そして最後に従者さんは「さようなら」と言って扉を閉めた。
「なんで俺達じゃ駄目で、天汰はOKだったんだ……? 見た目か……?」
「カエデがオーバーリアクション過ぎておかしかったからでしょ」
「……いつもおかしい」
「いつもおかしい!? ユ、ユメちゃん!?」
次の目的地は儀の塔か。武器や防具を新調したばかりだから試す絶好の機会だ。
「……なんか温かい」
こっそりと服の中を覗くと、ヘラルがよだれを垂らしながら僕の胸に顔を埋めていた。
そのニヤけ顔がとても不細工で何故か心が落ち着いた。
「……難しい問題でしたよね、すみません」
何百年の歴史をたった五分に詰め込む荒業を成し遂げたテレイオス家の従者は、貰ったTシャツに着替えながら何度も僕に目を合わせようとしてくる。
何かした覚えはないんだけどな。
「ところでお三方はいつからここに……?」
「ん? お三方って誰のことですか? 俺達二人じゃないですか」
……忘れてた。僕の胸元からひょっこり姿が見える彼女の存在を。
ヘラルはまだ眠ってこそいるが、その姿を他人がバッチリ見たら三人目としてカウントするだろうな。
何とか誤魔化さないと、カエデさんだけに話すのも都合が悪い。
「もしかして……あなたは『視える』体質なんですね……?」
「視える、とは」
「……僕の周りにはよく幽霊が纏わり付くんです。なのであなたは幽霊をみてしまったんでしょう……」
無理があるか? 従者は顎に手を置いて何やら考え事をしているみたいだ。
「……そういうこと……なんでしょうか。驚かせてしまいましたね」
「……おー、俺には見えないんだけど!? 天汰、俺の周りには? いない?」
「はい、いないです」
「良かったぁー!」
よし、カエデさんも何とかなったぞ。
めちゃくちゃ焦ったな……。
「そうだ、僕達知りたいことが沢山あるんでトリテリアとテレイオス家に起きた出来事を教えてもらいたいです!」
「なら、一度屋敷に訪れてみませんか? 今は……仕えるべき相手も、いませんので」
「仕える相手が居ない?」
「ああ、それは後ほど伝えますから着いてきてください」
僕は何の迷いも無く、恐らくカエデさんも同様に従者を追いかけて路地を抜けた。
「……こちらです。あの大きくて……多少散らかっている屋敷がテレイオス家の象徴です」
「かなり大きいな……俺達回りきれるかな?」
かなり悠長に語ってはいるが、誇張抜きにして相当に土地が広い。
土地の規模だけでいえばルドベキアの城の半分くらいはあるように見える。
「こちらから入ってください」
領地内は所々散らかり、ゴミや落書きをされた跡がかなり目立っていたが室内に入ると飴玉のように甘い香りが漂っていた。
「うおー良い匂いしそう!」
「僕もそう思います」
「外の敷地はしょっちゅう嫌がらせで汚されちゃうんですが、流石に中までは侵入してくる人いないので綺麗なままなんです」
こんなに国は荒れているのに、侵入までしてくる人がいないのは珍しいな。
歩いても床は軋まないし、壁にも傷一つ跡が見えないのを見ると建物自体が新しく、人が出ていったのもつい最近のことだろう。
「……なんか、物音がしますね」
「奥の部屋に誰かの声が。俺が見てきます」
ズカズカと音を立てて物音がする奥の部屋に向かっていくカエデさんを見て不安になり、僕は一つ提案する。
「僕も着いていきますが、一旦待って何人いるのか声を聞いてみましょう」
「わかった!」
「静かに、行きましょう」
ゆっくり1歩ずつ部屋に近付き、声の数を探るため壁に耳を付ける。すると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「──な~んかダンジョンにしては中綺麗過ぎるなー? ユメちゃん当たってる?」
「……絶対ダンジョン」
絶対に聞こえちゃいけない声が、言っちゃいけない状況で聞こえてきたので僕は突っ込まずにはいられず、躊躇無く扉を開けて声を荒らげる。
「ここは他人んち!! 謝って! この人に!」
「お、天汰~カエデもいる。何してんの? 見てよウチらのスクショ、盛れてない!?」
「……ここはダンジョン」
「あ、ああ……助けてカエデさん……」
「へースクショ結構綺麗に……じゃねえや、天汰の言うとおりここテレイオスさんの家だから!」
カエデさんの説教が三分ほど続き、僕はその間腰を抜かして立てなくなった従者さんに付き添い続けた。
「──謝罪して」
「すみませんでした」
「……ごめんなさい」
ケイさんとユメちゃんは従者さんに土下座を披露し困惑させてしまい、カエデさんが頭を抱えてしまった。
「あの、従者さん。テレイオス家に何があったのか説明してくれませんか?」
「分かりました」
そう言って従者さんから出てきた言葉は驚きばかりだった。
テレイオス家の失踪は当主であるロゼ・テレイオスが悪魔を召喚し、トリテリアを救おうと計画したことが始まりだった。
最初こそ上手く入ってなかったものの協力者はとても多く、何とか召喚までの準備に漕ぎ着けたある日のことだ。
ロゼを始めとする一族の者達の半数が急に失踪したという。
それから残った一部の者達は次々と去り、残った者は人々の恨みを買い何人も殺されていったとのことだ。
「──これまでが、私以外の人達の知っている話です」
「俺の知らない間にそうなっていたなんて……!」
心底悔しそうに頭を下げるカエデさんに、従者さんは軽く自嘲じみた笑いで話を続けた。
「ロゼ様は知っていたのです。悪魔を呼ぶには人々から集めた物だけじゃ足りないことを」
「足りない物……」
「あの人は、ご子息や兄弟を引き連れてとある場所で儀式を勝手に行ったんです」
悪魔を呼び出す儀式か、今思えばヘラルも悪魔だというのに、権威を最近はあまり感じられないのは何故だろうな。
「足りない物というのは人の魂だったんです。彼等はその為に自分のご子女を利用したんです」
「ご子女って……自分の娘!? おかしいよ、そんなの普通は出来るわけないじゃん……」
「……こわい」
その後テレイオス家に起こった出来事というのは、オチさえ分かっていれば予測も簡単に出来た。
「結局、悪魔の召喚は失敗して彼等は殺されました。帰ってきた人は……誰もいません」
「……つまり、ウチらでそこを探索すれば真相が分かるってことじゃん!」
「……いえ、そこは危険です。例の組織によって封鎖されていて……普通は入れません」
「──従者さん。僕を……信じてくれませんか。絶対に僕達なら解決できます」
僕は従者さんだけに胸元の彼女の存在を見せつける。口には出さず意図だけを受け取って欲しい。
「……他の人には伝えないでくださいよ。場所は儀の塔、トリテリアを出てから南東10km先にある森の中央にあります」
「よし。すぐに向かうぞー! ワクワクしてきたー!」
「ユメちゃんトイレ大丈夫?」
「……うん」
「ありがとうございます」
何とか伝わったみたいだ……この子が悪魔かは知らないだろうけど、何とか変態の域で耐えたか。
「……神の御加護があらんことを」
こっちでは珍しい神頼みを耳にして僕は戸惑ったが、興味が無いのかケイさんとカエデさんは反応をせずあっという間に部屋を飛び出てしまった。
「……ユメちゃんはトイレか」
「……終わった、行こう……天汰君」
僕はもう一度一礼して、ユメちゃんと屋敷を出ていった。
そして最後に従者さんは「さようなら」と言って扉を閉めた。
「なんで俺達じゃ駄目で、天汰はOKだったんだ……? 見た目か……?」
「カエデがオーバーリアクション過ぎておかしかったからでしょ」
「……いつもおかしい」
「いつもおかしい!? ユ、ユメちゃん!?」
次の目的地は儀の塔か。武器や防具を新調したばかりだから試す絶好の機会だ。
「……なんか温かい」
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