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ステージ1-2 女神襲撃編
第17話 少女は吐き出す
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どうやら僕たちは、森のどこかに転移させられたみたいだ。
「ここ……どこだ。森の中なのは間違いないけど、一度も来たことがないぞ……」
辺りを見渡すが、僕以外に人はいない。当然、テュポーンズの味方も居なかった。
ここにいるのは腕が崩れ、全身が腐っているグールだけ。
「一人でやるには、数が多いな……」
何処にこんな隠れていたのか、四方八方をゾンビに囲われ逃げ道が残っていなかった。
火炎球を撃ってそこから抜け出すか。いや、それじゃあ木が燃えて火事が起こってしまうな……。
ここは剣で戦うか。
「グウェアアアア」
「おらっ」
正面から来るグールの首に斬りかかる。生き物の首を直接斬る経験は無かったがもう死んでるから簡単に斬れる。
そんな風に楽観視していたが、骨が硬すぎて首を落とせない。
「かってぇ……」
「グワァアアアアア」
「ぐわあああああああああああ」
骨が軋む音が鳴り響く。そして僕の右腕が破壊された。
「やめろっ! か、火炎っ」
まだ左手が残ってる。火事とか心配する前にこのままじゃ僕は死ぬ!
「はぁっ!? ぐふッ!!」
これ……右腕の骨は完全に折れちゃってるな。
しかも、僕が火炎球を唱えるより先にグールはその壊れた右腕を持ち上げ、僕はそのまま勢い良く10m先の木に叩きつけられた。
「……かうぇ……ぎゅう。燃やして……やる」
打ち付けられた衝撃で上手く声に出せない。それても残った左手から火炎球を最速で撃ち込んだ。
「ざまぁー……みろ。僕は……ぁ死なないから」
やっとの思いで立ち上がり、グールを焼却して出来たスペースに逃げ込む。
グール自体魔法なら一撃で倒せる、倒せるけどこのペースだと先に僕の魔力が尽きてしまう。
このままの火炎球じゃ今みたいな状態に太刀打ち出来ない。
「もう構えちゃったか……くっ【火炎球】」
もう一度左手を出して火炎球を手のひらに出してみるが、同じように撃つのはダメだ。
「一か八か……か」
僕は今生まれたばかりの火の玉を握り潰した。
……焼けるように痛い! けど、手は焼けてないぞ!?
「あ、魔力が漏れない……?」
いつも火炎球を発射した直後は瞬間的に力が抜ける感触があるが、今回はそんなことも起きていない。
手のひらの火を消さずに戦えるようになれば、僕にも勝機はある。
少しずつ手を開きたしかにそこに火炎が残っていることを確認する。
「【火炎鞭】!」
再度手を突き出し、僕はその場で一回転した。
勢い余って二回転目に入り、戦況を確認しなおす。
平均5500000ダメージを繰り出し、一体も余すことなく胴体の切断を完了。
正面に向き直ったタイミングで回転を止め、魔法の出力も中止した。
「勝った……」
疲労と回転酔いで力が抜け僕はその場で倒れ込んでしまった。
しかし、気を抜いてはいけない。まず右手は完璧に折れているのにアドレナリンで誤魔化してるだけだし、次のウェーブも警戒しないとだ。
体力が戻るまでは考察してみるか。
回転して景色を眺めて分かったのは、ここはかなりダンジョンの外側で今いるのは観光エリアとダンジョンの境目だということ。
加えて、近くから誰かの気配を感じてしまった。
テュポーンズの誰かならいいけど、そうじゃない可能性が高い。
何故なら、変な感じがするからだ。ダンジョンの奥地でもないこんな中途半端な場所で感じるような気配とは全く違う。
「……ジュマでもない?」
もしかしたら僕と共闘するかも、なんて淡い期待を抱きながら気配のする方へ駆け足で向かった。
* * *
「…………ウソ……だ」
新鮮な血の匂い。淀んだ空気。切り倒された大量の木。
そして、腹部の穴から血が吹き出している少女。
「ゼルちゃん。目を、開けて」
僕はゼルちゃんに駆け寄り止血を試みた。
だが、応急処置でとうにかなるような傷の大きさでは無かった。
姉ちゃんから買ってもらったばかりの包帯を巻いたがその時も僕の言葉に対する反応は無く、意識が消失していた。
「火炎球で止血は……危険だ、それにこんなに穴が大きいなら……塞げない」
彼女の頭を僕の膝に乗せて反応を見る。顔はとても青白く、唇からは血の気が引いていた。
それでも微かに心臓の鼓動が聞こえる。
まだ、生きている。
「て……た……くん」
「ゼルちゃん……焦らないでいい、動かないでいいよ」
「うっ……」
エルフの目がゆっくりと開き、虚ろな目がと目があった。さらに嘔気に襲われ口元を抑えていたので横向きにし、左手で背中をさすった。
「おぇ……んぐぅ」
アレゼルは嘔吐し、地面に吐瀉物が溢れた。
つぎに彼女が取った行動に意表を突かれ、僕は思わず思考を止めてしまった。
「ゼルちゃん……?」
なんと彼女はその吐瀉物を掴んだ。
安心と不安の入り混じった表情から僕は目が離せない。
「よか……った」
ゼルちゃんは仰向けになり、僕に目を合わせた。
──思い返せば、こんな至近距離で君の表情を見たのは久しぶりかもしれない。
変な悪魔のへラルに転移させられ、初めて異世界に来たあの日僕は君と出会った。
君を女神と言って僕は気絶させられ、目を覚ましたあとに純粋な笑顔で僕を出迎えた君──
ちがう、こんな走馬灯はいらない。
理解はしていた。今の僕にはどうしようもない事だって。
「代償の……風。ごめん……ね?」
腹部の違和感で意識が目の前のゼルちゃんに戻る。
全身の痛みや折れた右腕の違和感も消え去っていた。
ゼルちゃんが伸ばした手の先を見ると、僕のお腹にさっきの吐瀉物を押し付けていた。
──吐き出された物の異物感の他に、何かが体内に侵入してきている。
だから、なんだ? 最早そんなのはどうでも良かった。
ただ、生きてくれれば。
彼女の腕を掴んだが、押し付けたまま手を退かそうとしない。
「……生きてね」
──そして、手の抵抗が無くなり彼女はエルフから、ただの体に変わってしまった。
「……ゼル……ちゃん、どうして……」
この体だけでも持ち帰らないといけないんだ。
これ以上、汚されないように。
「……なんだ、この光は」
彼女の体からオーブみたいな小さな光の球体が噴出し始めた。
やがて彼女の体が透け始め、僕はただゼルちゃんの体を抱きしめて、食い止めることに必死になることしか出来なかった。
ほんの僅かな余熱を信じていたが、次第に小さくなるそれに目を向けられず、暫く何かに縋ろうとしていた。
「……ああっ……」
本当に一瞬だった。
もうそこに体なんて無くて、残った物は何だろう?
「──ほう、いきなりお前とは興奮するねえ」
何度その声を聞かされるのだろう。あと何回、嫌な思いを奴にさせられるのだろう。
「ジュマ……お前が殺ったんだろ」
「は? 何の話だよ。頭おかしくなったか、とうとう」
「【火炎球】」
「うぉっ!? 危ねえな。……お前、魔力の制御……出来たのか?」
「さっきからうぜぇんだよ。ぶっ殺してやる、ジュマ」
僕はさっきまでボロボロだった右手で剣を握り直し、左手で火炎球を放出した。
僕が君の敵を取る。
「ここ……どこだ。森の中なのは間違いないけど、一度も来たことがないぞ……」
辺りを見渡すが、僕以外に人はいない。当然、テュポーンズの味方も居なかった。
ここにいるのは腕が崩れ、全身が腐っているグールだけ。
「一人でやるには、数が多いな……」
何処にこんな隠れていたのか、四方八方をゾンビに囲われ逃げ道が残っていなかった。
火炎球を撃ってそこから抜け出すか。いや、それじゃあ木が燃えて火事が起こってしまうな……。
ここは剣で戦うか。
「グウェアアアア」
「おらっ」
正面から来るグールの首に斬りかかる。生き物の首を直接斬る経験は無かったがもう死んでるから簡単に斬れる。
そんな風に楽観視していたが、骨が硬すぎて首を落とせない。
「かってぇ……」
「グワァアアアアア」
「ぐわあああああああああああ」
骨が軋む音が鳴り響く。そして僕の右腕が破壊された。
「やめろっ! か、火炎っ」
まだ左手が残ってる。火事とか心配する前にこのままじゃ僕は死ぬ!
「はぁっ!? ぐふッ!!」
これ……右腕の骨は完全に折れちゃってるな。
しかも、僕が火炎球を唱えるより先にグールはその壊れた右腕を持ち上げ、僕はそのまま勢い良く10m先の木に叩きつけられた。
「……かうぇ……ぎゅう。燃やして……やる」
打ち付けられた衝撃で上手く声に出せない。それても残った左手から火炎球を最速で撃ち込んだ。
「ざまぁー……みろ。僕は……ぁ死なないから」
やっとの思いで立ち上がり、グールを焼却して出来たスペースに逃げ込む。
グール自体魔法なら一撃で倒せる、倒せるけどこのペースだと先に僕の魔力が尽きてしまう。
このままの火炎球じゃ今みたいな状態に太刀打ち出来ない。
「もう構えちゃったか……くっ【火炎球】」
もう一度左手を出して火炎球を手のひらに出してみるが、同じように撃つのはダメだ。
「一か八か……か」
僕は今生まれたばかりの火の玉を握り潰した。
……焼けるように痛い! けど、手は焼けてないぞ!?
「あ、魔力が漏れない……?」
いつも火炎球を発射した直後は瞬間的に力が抜ける感触があるが、今回はそんなことも起きていない。
手のひらの火を消さずに戦えるようになれば、僕にも勝機はある。
少しずつ手を開きたしかにそこに火炎が残っていることを確認する。
「【火炎鞭】!」
再度手を突き出し、僕はその場で一回転した。
勢い余って二回転目に入り、戦況を確認しなおす。
平均5500000ダメージを繰り出し、一体も余すことなく胴体の切断を完了。
正面に向き直ったタイミングで回転を止め、魔法の出力も中止した。
「勝った……」
疲労と回転酔いで力が抜け僕はその場で倒れ込んでしまった。
しかし、気を抜いてはいけない。まず右手は完璧に折れているのにアドレナリンで誤魔化してるだけだし、次のウェーブも警戒しないとだ。
体力が戻るまでは考察してみるか。
回転して景色を眺めて分かったのは、ここはかなりダンジョンの外側で今いるのは観光エリアとダンジョンの境目だということ。
加えて、近くから誰かの気配を感じてしまった。
テュポーンズの誰かならいいけど、そうじゃない可能性が高い。
何故なら、変な感じがするからだ。ダンジョンの奥地でもないこんな中途半端な場所で感じるような気配とは全く違う。
「……ジュマでもない?」
もしかしたら僕と共闘するかも、なんて淡い期待を抱きながら気配のする方へ駆け足で向かった。
* * *
「…………ウソ……だ」
新鮮な血の匂い。淀んだ空気。切り倒された大量の木。
そして、腹部の穴から血が吹き出している少女。
「ゼルちゃん。目を、開けて」
僕はゼルちゃんに駆け寄り止血を試みた。
だが、応急処置でとうにかなるような傷の大きさでは無かった。
姉ちゃんから買ってもらったばかりの包帯を巻いたがその時も僕の言葉に対する反応は無く、意識が消失していた。
「火炎球で止血は……危険だ、それにこんなに穴が大きいなら……塞げない」
彼女の頭を僕の膝に乗せて反応を見る。顔はとても青白く、唇からは血の気が引いていた。
それでも微かに心臓の鼓動が聞こえる。
まだ、生きている。
「て……た……くん」
「ゼルちゃん……焦らないでいい、動かないでいいよ」
「うっ……」
エルフの目がゆっくりと開き、虚ろな目がと目があった。さらに嘔気に襲われ口元を抑えていたので横向きにし、左手で背中をさすった。
「おぇ……んぐぅ」
アレゼルは嘔吐し、地面に吐瀉物が溢れた。
つぎに彼女が取った行動に意表を突かれ、僕は思わず思考を止めてしまった。
「ゼルちゃん……?」
なんと彼女はその吐瀉物を掴んだ。
安心と不安の入り混じった表情から僕は目が離せない。
「よか……った」
ゼルちゃんは仰向けになり、僕に目を合わせた。
──思い返せば、こんな至近距離で君の表情を見たのは久しぶりかもしれない。
変な悪魔のへラルに転移させられ、初めて異世界に来たあの日僕は君と出会った。
君を女神と言って僕は気絶させられ、目を覚ましたあとに純粋な笑顔で僕を出迎えた君──
ちがう、こんな走馬灯はいらない。
理解はしていた。今の僕にはどうしようもない事だって。
「代償の……風。ごめん……ね?」
腹部の違和感で意識が目の前のゼルちゃんに戻る。
全身の痛みや折れた右腕の違和感も消え去っていた。
ゼルちゃんが伸ばした手の先を見ると、僕のお腹にさっきの吐瀉物を押し付けていた。
──吐き出された物の異物感の他に、何かが体内に侵入してきている。
だから、なんだ? 最早そんなのはどうでも良かった。
ただ、生きてくれれば。
彼女の腕を掴んだが、押し付けたまま手を退かそうとしない。
「……生きてね」
──そして、手の抵抗が無くなり彼女はエルフから、ただの体に変わってしまった。
「……ゼル……ちゃん、どうして……」
この体だけでも持ち帰らないといけないんだ。
これ以上、汚されないように。
「……なんだ、この光は」
彼女の体からオーブみたいな小さな光の球体が噴出し始めた。
やがて彼女の体が透け始め、僕はただゼルちゃんの体を抱きしめて、食い止めることに必死になることしか出来なかった。
ほんの僅かな余熱を信じていたが、次第に小さくなるそれに目を向けられず、暫く何かに縋ろうとしていた。
「……ああっ……」
本当に一瞬だった。
もうそこに体なんて無くて、残った物は何だろう?
「──ほう、いきなりお前とは興奮するねえ」
何度その声を聞かされるのだろう。あと何回、嫌な思いを奴にさせられるのだろう。
「ジュマ……お前が殺ったんだろ」
「は? 何の話だよ。頭おかしくなったか、とうとう」
「【火炎球】」
「うぉっ!? 危ねえな。……お前、魔力の制御……出来たのか?」
「さっきからうぜぇんだよ。ぶっ殺してやる、ジュマ」
僕はさっきまでボロボロだった右手で剣を握り直し、左手で火炎球を放出した。
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