43 / 69
刻印を抑える唯一の方法
「言うな! 言わないで! 聞きたくない!」
しおりを挟む
目に見えない、異様なまでの力がラウを縛り付けていた。射すくめられたような恐怖に、視線さえそらすことができない。
圧倒される。寒気が全身を覆い尽くす。声が、凄まじい圧力を増していく。
「うそだ」
「嘘じゃないわ。分からないでしょうね、ラウさま。……魔妖の貴女には」
薄く開かれたミシアのくちびるが、赤紫色に濡れて、光っていた。
「刻印に触れられただけで……ビクンって……身体がなっちゃう、あの感じ。刻印に息を吹きかけられただけで……狂いそうになる、あの気持ちが」
「やめて」
「……わたしを見て。もっと、ちゃんと、はっきりと。見て」
いやいやとかぶりを振るラウの顔を、ミシアは両手で挟み込み、真正面を向かせようとする。
「触って……れて……欲しくて……たまらないの。もっと……もっと……いやらしいことして欲しいの……」
眼が、常軌を逸する妖艶な輝きを帯びてゆらめき燃えている。
「……一度……抱かれたら……もう止められないの……人としての尊厳をすべて失ってもいいから……気が違ってもいいから……何度でも……死ぬまで抱かれ続けたいって……思ってしまうの。貴女たちみたいなバケモノの……子供を何十匹も孕まされるだなんて考えただけで気が狂いそうになるのに、もっと……もっと、けだものみたいなことをされたいって……人じゃないものにされて……死ぬまで壊され続けても……もっと、もっと……!」
声も、出ない。
「地獄よね」
ミシアは、思わずぞくりとするほど凄絶な瞳で微笑んだ。
「でも、ね。その地獄から逃れる方法があるんですって。レオニスさまから教えていただいたわ」
「刻印から逃れる方法……?」
「ええ。アリストラムさまが発見したのよ。ずっとその方法を使って症状を抑えていたらしいわ」
ラウは呆然とミシアを見上げた。
「抑えるって……どうやって?」
無意識に聞き返してしまう。
だが。
(たとえ、貴女が望まなくても、この真実だけは……絶対に)
嫌な予感がふいに沸き上がった。
知りたい、と思うと同時に、知ってはいけない、とおののく感覚とが同時に襲ってくる。
まさか。
違う。記憶がフラッシュバックする。
燃え上がる闇。銀色の闇。今もナイフみたいに心臓に突き刺さったまま抜けない、死の寸前のゾーイの叫び。
あたしはあいつを助けなきゃならない。
あいつって。あいつって、誰のこと?
違う。
そんなこと、あり得ない。
有り得るはずがない。
絶対に──
「教えてあげる。アリストラムさまはね、刻印の支配から逃れるために」
ミシアは肩を震わせ、笑っている。
けたたましい笑いだった。
「その刻印を刻んだ魔妖を」
「言うな」
ラウはミシアの声を遮った。
耳をふさぎ、目をそらし、声を嗄らして怒鳴る。
「言うな! 言わないで! 聞きたくない!」
「殺したのよ」
ミシアが口にした、致命的な一言が。
心臓をつらぬく。
絆を断ち切る。
心を押しつぶす。
鮮烈な血の雨となって、容赦なく降り注ぐ残酷な言葉の槍。無数の槍。
殺した。殺した。殺した。アリストラムが。ゾーイを。殺した──
けたたましい笑いが降り注いだ。
圧倒される。寒気が全身を覆い尽くす。声が、凄まじい圧力を増していく。
「うそだ」
「嘘じゃないわ。分からないでしょうね、ラウさま。……魔妖の貴女には」
薄く開かれたミシアのくちびるが、赤紫色に濡れて、光っていた。
「刻印に触れられただけで……ビクンって……身体がなっちゃう、あの感じ。刻印に息を吹きかけられただけで……狂いそうになる、あの気持ちが」
「やめて」
「……わたしを見て。もっと、ちゃんと、はっきりと。見て」
いやいやとかぶりを振るラウの顔を、ミシアは両手で挟み込み、真正面を向かせようとする。
「触って……れて……欲しくて……たまらないの。もっと……もっと……いやらしいことして欲しいの……」
眼が、常軌を逸する妖艶な輝きを帯びてゆらめき燃えている。
「……一度……抱かれたら……もう止められないの……人としての尊厳をすべて失ってもいいから……気が違ってもいいから……何度でも……死ぬまで抱かれ続けたいって……思ってしまうの。貴女たちみたいなバケモノの……子供を何十匹も孕まされるだなんて考えただけで気が狂いそうになるのに、もっと……もっと、けだものみたいなことをされたいって……人じゃないものにされて……死ぬまで壊され続けても……もっと、もっと……!」
声も、出ない。
「地獄よね」
ミシアは、思わずぞくりとするほど凄絶な瞳で微笑んだ。
「でも、ね。その地獄から逃れる方法があるんですって。レオニスさまから教えていただいたわ」
「刻印から逃れる方法……?」
「ええ。アリストラムさまが発見したのよ。ずっとその方法を使って症状を抑えていたらしいわ」
ラウは呆然とミシアを見上げた。
「抑えるって……どうやって?」
無意識に聞き返してしまう。
だが。
(たとえ、貴女が望まなくても、この真実だけは……絶対に)
嫌な予感がふいに沸き上がった。
知りたい、と思うと同時に、知ってはいけない、とおののく感覚とが同時に襲ってくる。
まさか。
違う。記憶がフラッシュバックする。
燃え上がる闇。銀色の闇。今もナイフみたいに心臓に突き刺さったまま抜けない、死の寸前のゾーイの叫び。
あたしはあいつを助けなきゃならない。
あいつって。あいつって、誰のこと?
違う。
そんなこと、あり得ない。
有り得るはずがない。
絶対に──
「教えてあげる。アリストラムさまはね、刻印の支配から逃れるために」
ミシアは肩を震わせ、笑っている。
けたたましい笑いだった。
「その刻印を刻んだ魔妖を」
「言うな」
ラウはミシアの声を遮った。
耳をふさぎ、目をそらし、声を嗄らして怒鳴る。
「言うな! 言わないで! 聞きたくない!」
「殺したのよ」
ミシアが口にした、致命的な一言が。
心臓をつらぬく。
絆を断ち切る。
心を押しつぶす。
鮮烈な血の雨となって、容赦なく降り注ぐ残酷な言葉の槍。無数の槍。
殺した。殺した。殺した。アリストラムが。ゾーイを。殺した──
けたたましい笑いが降り注いだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる