35 / 69
罪深く、柔らかく。触れられて、ふるえて。
自分とは違う名を
しおりを挟む
反応、してしまう。
触れるか、触れないか。そんな力の入れ方なのに。
たったそれだけの、ことを。
こんなにも、感じて……
あえなく吐息の洩れる唇を深く奪われ、舌をからめ取られて、とろりとした欲望に混ぜ合わされる。
「う……んっ……」
みだらに広げた聖神官のコートの上で。
アリストラムは。
ラウの手首を片方だけ地面に押さえつける。
もう一方の手は、愛おしげに指をからめて。
理性の消え失せた視線だけが、ラウの向こうにいる誰かを探して、さまよっていた。
唇を重ね、かすれた声でささやく。
「早く、命令してください」
身悶えるような吐息が。
耳朶に、ふっ、と吹きかかる。
身体が、びくっ、と震える。
「ぁ……っ!」
耳元を通り過ぎてゆく、甘いささやき。
唇が、押し当てられる。
熱い湿り気が、肌に汗を滲ませる。
切なくも苦しい吐息とともに、心を揺り動かされる。
ラウは無意識に身体をアリストラムへとゆだねながら、それでも支配されつくしてゆく感覚に抗って、ほろほろとうずめ泣いた。
「ゾーイ」
熱情に浮かされた吐息がラウを包み込む。
普段のアリストラムならば決して立てぬような声で。
泣くような、笑うような、うわずった自分の声に、ますます身体の奥がびくん、と震え上がる。
ラウは涙混じりに拒絶しようとした。
「……違う……」
「もっと、よく、見せてください」
優しい熱情に、ほんの少しだけ、強情な力が交じる。
「ゃ……ぁっ……」
ラウは拒絶しようとして、わずかに腰をずり上げた。アリストラムは強引にラウの腰を押さえ込んだ。
「貴女の、すべてが見たい」
甘やかな……喘ぎが。
途切れる。
刻印の光が罪深く降りかかった。
ラウは眼を閉じてなお染み込んでくる翡翠の光に身悶えた。
触れられるたびに、腰の奥が、息を呑んだように跳ね上がる。
「愛しています」
荒い息に覆い尽くされて。
意識が、断片になってかすれ飛ぶ。
「ゾーイ」
耳元で何度も、名を、呼ばれる。
自分とは、違う名を。
ゾーイ。
すべての音が、潰え去る。
その名前だけが、壊れた器械のように頭の中で反響していた。
「ゾーイ」
また、アリストラムが喘いだ。胸に、ゾーイの刻印をくろぐろと宿して。
「愛しています」
「や、だ……違う、あたし……あたしは……!」
刻印に宿されたゾーイの色が。ゾーイの声が。まとわりついてくる。
もう、ゾーイはいない。
もう二度と戻っては来ない。
笑ってもくれない。
突然襲ってきた人間に、殺されて、
里もろともすべてを焼き尽くされて、
眼を灼き潰すかのような、あの銀の光炎に呑み込まれて。
ゾーイは、死んだ。死んだ。死んだのに。どうして。
心は抗っている、のに。
身体が、溶けてゆく。
触れるか、触れないか。そんな力の入れ方なのに。
たったそれだけの、ことを。
こんなにも、感じて……
あえなく吐息の洩れる唇を深く奪われ、舌をからめ取られて、とろりとした欲望に混ぜ合わされる。
「う……んっ……」
みだらに広げた聖神官のコートの上で。
アリストラムは。
ラウの手首を片方だけ地面に押さえつける。
もう一方の手は、愛おしげに指をからめて。
理性の消え失せた視線だけが、ラウの向こうにいる誰かを探して、さまよっていた。
唇を重ね、かすれた声でささやく。
「早く、命令してください」
身悶えるような吐息が。
耳朶に、ふっ、と吹きかかる。
身体が、びくっ、と震える。
「ぁ……っ!」
耳元を通り過ぎてゆく、甘いささやき。
唇が、押し当てられる。
熱い湿り気が、肌に汗を滲ませる。
切なくも苦しい吐息とともに、心を揺り動かされる。
ラウは無意識に身体をアリストラムへとゆだねながら、それでも支配されつくしてゆく感覚に抗って、ほろほろとうずめ泣いた。
「ゾーイ」
熱情に浮かされた吐息がラウを包み込む。
普段のアリストラムならば決して立てぬような声で。
泣くような、笑うような、うわずった自分の声に、ますます身体の奥がびくん、と震え上がる。
ラウは涙混じりに拒絶しようとした。
「……違う……」
「もっと、よく、見せてください」
優しい熱情に、ほんの少しだけ、強情な力が交じる。
「ゃ……ぁっ……」
ラウは拒絶しようとして、わずかに腰をずり上げた。アリストラムは強引にラウの腰を押さえ込んだ。
「貴女の、すべてが見たい」
甘やかな……喘ぎが。
途切れる。
刻印の光が罪深く降りかかった。
ラウは眼を閉じてなお染み込んでくる翡翠の光に身悶えた。
触れられるたびに、腰の奥が、息を呑んだように跳ね上がる。
「愛しています」
荒い息に覆い尽くされて。
意識が、断片になってかすれ飛ぶ。
「ゾーイ」
耳元で何度も、名を、呼ばれる。
自分とは、違う名を。
ゾーイ。
すべての音が、潰え去る。
その名前だけが、壊れた器械のように頭の中で反響していた。
「ゾーイ」
また、アリストラムが喘いだ。胸に、ゾーイの刻印をくろぐろと宿して。
「愛しています」
「や、だ……違う、あたし……あたしは……!」
刻印に宿されたゾーイの色が。ゾーイの声が。まとわりついてくる。
もう、ゾーイはいない。
もう二度と戻っては来ない。
笑ってもくれない。
突然襲ってきた人間に、殺されて、
里もろともすべてを焼き尽くされて、
眼を灼き潰すかのような、あの銀の光炎に呑み込まれて。
ゾーイは、死んだ。死んだ。死んだのに。どうして。
心は抗っている、のに。
身体が、溶けてゆく。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる