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貴女から奪ったすべてを、今
愛するものの血を食らって生きる。それが
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血も、妖気も。制御できない魔力が全身をがつがつと食い荒らし、蝕んでいる。今にも破裂しそうだった。
もう、聖銀の封印程度ではのた打ち回る獣の本能を抑えきれない。
自分の身体でも、何でも良い、ばらばらに食いちぎってしまいたかった。
壊してしまいたかった。何もかも引き裂いて──
「ラウ!」
切迫の声が響き渡った。
冷たく、昏い、氷の刃のような声。だが、その声はすぐにくじけ、力なく心折れて消えてゆく。
また、ぎゅっと抱かれる。
人間の臭い。
男の臭い。
憎い、憎い、あの銀の炎と同じ臭いだった。
消えろ。
ラウは憎悪のこもった唸り声をあげて腕を振り払おうとした。
何度傷つけても罠のように執拗に押さえ込んでくる腕に牙を立て、首を振って噛みちぎる。
「ラウ……!」
苦悶の呻きが狂気を呼び覚ました。
ラウは流れる血を舐めすすって笑った。
抱き支えてくれる人間の背中を爪でめちゃくちゃに掻きむしり、傷つけ、けたたましく泣き、呻き、絶叫をあげては壊れ果てた妖気に呑まれて血に狂う。
「眼を……覚ましてください、ラウ……!」
嫌だ。ラウは半狂乱で吠える。
隷属の首輪にずっと魔力を押さえ込まれていた反動で、自身では何一つ制御できない妖気が全身をのたうちまわっている。
血の味にラウの中の魔物がまた笑った。
死ねばいい。何もかも、食い尽くしてやればいい。自分さえも。
狂った衝動に突き動かされ、もがき続けて。やがてついには精も根も尽き果てて動けなくなる。
もう、これ以上、狂いたくない。
次、また飢餓感に襲われてしまえば、今度こそアリストラムの生気を喰らい尽くしてしまう。魔力が潰えれば一蓮托生だ。
そんなことになったら二人とも眠りの中で永遠に死に続けることになるだろう。
そうまでして、なぜ。
いっそ殺してくれればいいのに、と思った。
ラウは気を失いながら声を殺してむせび泣いた。泣きながらアリストラムの血を浴び、その甘美な死の味にまみれ、牙を軋らせて身もだえる。
愛するものの血を食らって生きる。それが魔妖の性だ。
また闇がすべてを塗り込めた。
血の臭いを漂わせるしずくが、くぼみにたまったぬるい水に跳ね返る。
ぽたり、ぽたりと。
心に波紋を広げながら闇に吸い取られていく水琴の音。
アリストラムは組み敷いた下に横たわる、かつてラウだった魔妖の身体を茫然と見つめていた。
もう、どちらが狂っているのかも分からない。
「ラウ」
隷属の首輪によって押さえ込まれていた、ラウの本当の姿。それは昨日までのラウではなかった。
どんなに眼をそらしても、魂が薄暗い陰に呑み込まれてゆく。
肌に貼り付いた銀緑の髪。力なく垂れた三角の耳。
輝きを失ったしっぽの毛並みが、べったりと濡れて、地面に貼り付いている。
陽の光に当たれば、きっと誰よりも笑い、弾み、まぶしいほどに光って見えただろうその顔は、だが今はひどくやつれはてて生気が無く、深海魚の眼のように濁って見えた。
聖銀の魔力で犯し続けた、ぬめるような肌の感触。くろぐろと引き延ばされた肉感的な女の影が、ラウの肌を妖艶に光らせている。
今は、眠っている。だが穏やかな眠りではない。
何もかも失った泥のような眠りだった。
放置すれば死ぬまで眠り続けるだろうその命を繋ぐには、魔力をつなぎ、生気を吹き入れてやるしかない。
だがほんの少しでも魔力を移せば、その魔力が逆にラウの体力を根こそぎ奪ってゆく。
絶叫とともに身悶え、七転八倒しながら自らを傷つけ、暴れ、全ての力を使い果たして再び元の昏睡状態に陥る。その繰り返しだ。
あれからどれほどの時間が過ぎたのかも分からない。
いつまで続くのかも分からない。
終わりのない絶望の行為にアリストラムは力なく笑った。
何度も、抱いた。
何度も。
じっとりと濡れた、柔らかすぎる無力な身体を抱きしめる。
もう、聖銀の封印程度ではのた打ち回る獣の本能を抑えきれない。
自分の身体でも、何でも良い、ばらばらに食いちぎってしまいたかった。
壊してしまいたかった。何もかも引き裂いて──
「ラウ!」
切迫の声が響き渡った。
冷たく、昏い、氷の刃のような声。だが、その声はすぐにくじけ、力なく心折れて消えてゆく。
また、ぎゅっと抱かれる。
人間の臭い。
男の臭い。
憎い、憎い、あの銀の炎と同じ臭いだった。
消えろ。
ラウは憎悪のこもった唸り声をあげて腕を振り払おうとした。
何度傷つけても罠のように執拗に押さえ込んでくる腕に牙を立て、首を振って噛みちぎる。
「ラウ……!」
苦悶の呻きが狂気を呼び覚ました。
ラウは流れる血を舐めすすって笑った。
抱き支えてくれる人間の背中を爪でめちゃくちゃに掻きむしり、傷つけ、けたたましく泣き、呻き、絶叫をあげては壊れ果てた妖気に呑まれて血に狂う。
「眼を……覚ましてください、ラウ……!」
嫌だ。ラウは半狂乱で吠える。
隷属の首輪にずっと魔力を押さえ込まれていた反動で、自身では何一つ制御できない妖気が全身をのたうちまわっている。
血の味にラウの中の魔物がまた笑った。
死ねばいい。何もかも、食い尽くしてやればいい。自分さえも。
狂った衝動に突き動かされ、もがき続けて。やがてついには精も根も尽き果てて動けなくなる。
もう、これ以上、狂いたくない。
次、また飢餓感に襲われてしまえば、今度こそアリストラムの生気を喰らい尽くしてしまう。魔力が潰えれば一蓮托生だ。
そんなことになったら二人とも眠りの中で永遠に死に続けることになるだろう。
そうまでして、なぜ。
いっそ殺してくれればいいのに、と思った。
ラウは気を失いながら声を殺してむせび泣いた。泣きながらアリストラムの血を浴び、その甘美な死の味にまみれ、牙を軋らせて身もだえる。
愛するものの血を食らって生きる。それが魔妖の性だ。
また闇がすべてを塗り込めた。
血の臭いを漂わせるしずくが、くぼみにたまったぬるい水に跳ね返る。
ぽたり、ぽたりと。
心に波紋を広げながら闇に吸い取られていく水琴の音。
アリストラムは組み敷いた下に横たわる、かつてラウだった魔妖の身体を茫然と見つめていた。
もう、どちらが狂っているのかも分からない。
「ラウ」
隷属の首輪によって押さえ込まれていた、ラウの本当の姿。それは昨日までのラウではなかった。
どんなに眼をそらしても、魂が薄暗い陰に呑み込まれてゆく。
肌に貼り付いた銀緑の髪。力なく垂れた三角の耳。
輝きを失ったしっぽの毛並みが、べったりと濡れて、地面に貼り付いている。
陽の光に当たれば、きっと誰よりも笑い、弾み、まぶしいほどに光って見えただろうその顔は、だが今はひどくやつれはてて生気が無く、深海魚の眼のように濁って見えた。
聖銀の魔力で犯し続けた、ぬめるような肌の感触。くろぐろと引き延ばされた肉感的な女の影が、ラウの肌を妖艶に光らせている。
今は、眠っている。だが穏やかな眠りではない。
何もかも失った泥のような眠りだった。
放置すれば死ぬまで眠り続けるだろうその命を繋ぐには、魔力をつなぎ、生気を吹き入れてやるしかない。
だがほんの少しでも魔力を移せば、その魔力が逆にラウの体力を根こそぎ奪ってゆく。
絶叫とともに身悶え、七転八倒しながら自らを傷つけ、暴れ、全ての力を使い果たして再び元の昏睡状態に陥る。その繰り返しだ。
あれからどれほどの時間が過ぎたのかも分からない。
いつまで続くのかも分からない。
終わりのない絶望の行為にアリストラムは力なく笑った。
何度も、抱いた。
何度も。
じっとりと濡れた、柔らかすぎる無力な身体を抱きしめる。
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