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悪いことをしたら、お仕置きだと言ったはずですよ
そうだね君の言うとおりだよハァハァもっと踏みにじっておくれハニー
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「……からかうのも大概にしてよね」
耳元に残忍な威嚇の唸りを吹き込む。
「そ、そんな、なぜ私が……ああああ!」
ラウは卿の尻を蹴っ飛ばした。哀れドッタムポッテン卿は悲鳴を上げて階段から転がり落ちた。その横を冷たくすりぬけて、ラウはすたすたと出口へ向かう。
「帰る」
ドッタムポッテン夫人は半泣きで手を伸ばした。
「おおおお待ちになってハンター様、五倍ですわよ、特別に五倍にして差し上げますわょ! いくら貧乏でごうつくばりなハンターでもこれなら文句はないはず……」
ラウはぴたんと立ち止まった。ぐるんと振り返る。
願いを聞き届けてくれるのかと思い、思わず目を輝かせるドッタムポッテン夫人であった、が。
ラウは夫人を横目に睨み付けながら貧相な城主の顔のど真ん中に馬鹿でかいブーツの踵をごいん、とめり込ませた。そのままぐーりぐーりと入念に踏みにじる。
「お金の問題じゃないって言ったでしょ?」
「そ、そうだね君の言うとおりだよハァハァもっと踏みにじっておくれハニー……」
ふと気づいて、ドッタムポッテン卿の顔を見下ろす。どうやら仰いだ角度的に目のやり場が問題だったらしい。ラウはあわてて足を引っ込めた。
ドッタムポッテン夫人が、どすどすじゃらじゃらと駆け寄ってくる。
「もしハンター様が討伐を引き受けてくださらなければミシアを生け贄に出さなければならないんですの!」
ラウはぎろりと夫人を睨んだ。
「だから変態神官にやらせろって言ってんでしょ……」
「分かった分かった正直に言いますわ! 彼はとってもステキでセクシーでクールな殿方ですけれどもちょっと口説いて頂くにはお支度金が高すぎて払えないことが判明致しましたの! ですから丁重にお断りして帰っていただくことになったんですのよお分かりになりまして!?」
……。
今日、何度目の脱力だろうか。
「……ホントに五倍くれるんだろうね?」
滝のてっぺんから飛び降りるつもりで思い切りふっかけてみる。だがドッタムポッテン夫人は逆に諸手をあげての大喜びだった。
「あらいやだたった五倍でいいんですのね! 払いますわ思いっきり払いますっ! ですから早くあのごくつぶ――ではなくて豪遊ざんまいのはた迷惑な神官様を早く連れて出ていってくださいませな、ねえあなた!」
「そ、そうだね、そろそろ我が家の金庫が空になりそうだよハニー」
……。
げんなりである。つくづく、自分がまだ、人間社会の通貨単位に精通していない、ということを思い知らされる。いや待て、報酬が通常の五倍もらえるということは骨付き肉が何個買えるだろう……?
じゅうじゅうの骨付き肉が皿にてんこ盛りになっているさまを想像してラウはうっとりした。肉である。肉。ああ肉。麗しの肉肉肉……妄想に酔いしれるあまりヨダレをたらーんと垂らしそうになる。
とそこでラウははっと我に返った。ちょっと待て。落ち着け。そういうふうに骨付き肉で何個分なんていうさもしい換算をしているからいつまでたってもまともな金銭感覚が身に付かないんだ……。
とにかく、何が何だかわからないうちに引き受けさせられたものの、当初約束された謝礼よりは遙かに多い金額を手にすることができそうだった。これで相手にする魔妖が強ければ強いほど気合いが入るというものだ。
部屋の隅で待っていたミシアがラウに近づいてきた。
「ラウさま、お部屋にご案内しますわ。少しお休みになってはいかがでしょう……?」
「あ、うん」
別のことを考えていたラウは、ちょっぴりもじもじした。お腹がぐううううううと鳴る。
思わず、耳まで赤らめる。ミシアは得たりとばかりに微笑んだ。
「はい、ただいま。もう少しお待ち下さいませね。それまでどうぞごゆっくりなさって」
ラウは仕方なくうなずいた。ぐうぐうとうるさいお腹の虫を押さえ、素直にミシアの後をついて行く。
「どうぞ。こちらですわ」
静かな部屋へと通される。背後でぱたんとドアが閉まった。
ラウはくるりとひととおり部屋を見回した。続きの間がある。おそらく寝室だろう。手前のテーブルにとりどりの果物が盛ってある。
ラウはテーブルにとことこと近づいていった。何も考えず赤い果物を一つ手にとって上に放り投げ、つかみ取るなりぱくりとかぶりつきながらすたすた隣の部屋へと歩いてゆく。
とりあえず一休みしたかった。また、腹が鳴り始める。
きっと今寝ても、空腹で目が覚めるだろう。そうそう生きた人間を襲って生気を盗むわけにもいかない。とっとと大食いしまくって腹ぺこを紛らわせないと……。
なぜか、異様に眠い。奇妙にけだるい香りが部屋に漂っている。どこか遠くで、鈴が鳴っていた。
耳元に残忍な威嚇の唸りを吹き込む。
「そ、そんな、なぜ私が……ああああ!」
ラウは卿の尻を蹴っ飛ばした。哀れドッタムポッテン卿は悲鳴を上げて階段から転がり落ちた。その横を冷たくすりぬけて、ラウはすたすたと出口へ向かう。
「帰る」
ドッタムポッテン夫人は半泣きで手を伸ばした。
「おおおお待ちになってハンター様、五倍ですわよ、特別に五倍にして差し上げますわょ! いくら貧乏でごうつくばりなハンターでもこれなら文句はないはず……」
ラウはぴたんと立ち止まった。ぐるんと振り返る。
願いを聞き届けてくれるのかと思い、思わず目を輝かせるドッタムポッテン夫人であった、が。
ラウは夫人を横目に睨み付けながら貧相な城主の顔のど真ん中に馬鹿でかいブーツの踵をごいん、とめり込ませた。そのままぐーりぐーりと入念に踏みにじる。
「お金の問題じゃないって言ったでしょ?」
「そ、そうだね君の言うとおりだよハァハァもっと踏みにじっておくれハニー……」
ふと気づいて、ドッタムポッテン卿の顔を見下ろす。どうやら仰いだ角度的に目のやり場が問題だったらしい。ラウはあわてて足を引っ込めた。
ドッタムポッテン夫人が、どすどすじゃらじゃらと駆け寄ってくる。
「もしハンター様が討伐を引き受けてくださらなければミシアを生け贄に出さなければならないんですの!」
ラウはぎろりと夫人を睨んだ。
「だから変態神官にやらせろって言ってんでしょ……」
「分かった分かった正直に言いますわ! 彼はとってもステキでセクシーでクールな殿方ですけれどもちょっと口説いて頂くにはお支度金が高すぎて払えないことが判明致しましたの! ですから丁重にお断りして帰っていただくことになったんですのよお分かりになりまして!?」
……。
今日、何度目の脱力だろうか。
「……ホントに五倍くれるんだろうね?」
滝のてっぺんから飛び降りるつもりで思い切りふっかけてみる。だがドッタムポッテン夫人は逆に諸手をあげての大喜びだった。
「あらいやだたった五倍でいいんですのね! 払いますわ思いっきり払いますっ! ですから早くあのごくつぶ――ではなくて豪遊ざんまいのはた迷惑な神官様を早く連れて出ていってくださいませな、ねえあなた!」
「そ、そうだね、そろそろ我が家の金庫が空になりそうだよハニー」
……。
げんなりである。つくづく、自分がまだ、人間社会の通貨単位に精通していない、ということを思い知らされる。いや待て、報酬が通常の五倍もらえるということは骨付き肉が何個買えるだろう……?
じゅうじゅうの骨付き肉が皿にてんこ盛りになっているさまを想像してラウはうっとりした。肉である。肉。ああ肉。麗しの肉肉肉……妄想に酔いしれるあまりヨダレをたらーんと垂らしそうになる。
とそこでラウははっと我に返った。ちょっと待て。落ち着け。そういうふうに骨付き肉で何個分なんていうさもしい換算をしているからいつまでたってもまともな金銭感覚が身に付かないんだ……。
とにかく、何が何だかわからないうちに引き受けさせられたものの、当初約束された謝礼よりは遙かに多い金額を手にすることができそうだった。これで相手にする魔妖が強ければ強いほど気合いが入るというものだ。
部屋の隅で待っていたミシアがラウに近づいてきた。
「ラウさま、お部屋にご案内しますわ。少しお休みになってはいかがでしょう……?」
「あ、うん」
別のことを考えていたラウは、ちょっぴりもじもじした。お腹がぐううううううと鳴る。
思わず、耳まで赤らめる。ミシアは得たりとばかりに微笑んだ。
「はい、ただいま。もう少しお待ち下さいませね。それまでどうぞごゆっくりなさって」
ラウは仕方なくうなずいた。ぐうぐうとうるさいお腹の虫を押さえ、素直にミシアの後をついて行く。
「どうぞ。こちらですわ」
静かな部屋へと通される。背後でぱたんとドアが閉まった。
ラウはくるりとひととおり部屋を見回した。続きの間がある。おそらく寝室だろう。手前のテーブルにとりどりの果物が盛ってある。
ラウはテーブルにとことこと近づいていった。何も考えず赤い果物を一つ手にとって上に放り投げ、つかみ取るなりぱくりとかぶりつきながらすたすた隣の部屋へと歩いてゆく。
とりあえず一休みしたかった。また、腹が鳴り始める。
きっと今寝ても、空腹で目が覚めるだろう。そうそう生きた人間を襲って生気を盗むわけにもいかない。とっとと大食いしまくって腹ぺこを紛らわせないと……。
なぜか、異様に眠い。奇妙にけだるい香りが部屋に漂っている。どこか遠くで、鈴が鳴っていた。
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