秋桜に誓った愛

華澄

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第1章 初恋

第4話 黒い秋桜

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長い廊下を歩いて部屋に戻ると、母が華子はなこを待っていた。

「母上様!?」

「あぁ、愛しい私の華姫はなひめ。おかえりなさい。」

「…」

「どうしたの?さぁ、こちらへいらっしゃい。」

「は、はい…」

「旦那様から、結婚のお話をされたのでしょう?早速準備を始めなくては!ふふっ、楽しみね。」

煌びやかな着物と装飾品が数多く並んでいる。

「あ…母上様は忠長ただなが様との縁談をご存知だったのですか?」

「ええ、勿論知っていましたよ。お相手は三井みつい家の長男ですから、不手際があっては困りますし。」

(三井家の長男…確かに家柄は申し分ないわ。でも、本当は家柄など何だっていいのに…)

忠長との縁談に不満がある訳ではない。ただ提示された結婚を受け入れるだけ。そこに愛など存在しないからだ。
その日、どんなに美しい着物を見ても華子の目に明かりが灯ることはなかった。




そして翌日、華子は涙する。
想い人から届いた黒い秋桜コスモスを見て。

不運にも、屋敷の中で唯一信頼している清子きよこが、ほんの少し傍を離れているときだった。

黒い秋桜の花言葉は…

『恋の終わり』

花言葉帳にある字を信じたくない。何かの間違いであってほしい。
その一心で、華子は庭へ走った。

「華姫様!?お、お待ちください!そのようにお急ぎになられては危険です!」

侍女の制止を振り切って走る。
(清子を待っている時間は無いのだから、自分で何とかしなくては。)
偶然一人の時に黒い秋桜を見たせいで、華子は冷静さを失っていた。

残酷にも、華子が必死に走った先には曇り空の庭があるのみ。人など誰も居なかった。

「あぁ…なんてこと…」
華子は周りの目を気にする余裕もなく泣き崩れた。

縁談の噂が彼の耳に入ったのか、それとも高松家が彼を遠ざけたのか。どちらにせよ、華子に為す術なくこの恋は終わった。



その後のことは、華子の記憶に無い。

気がつけば夕食の時間だった。
清子のおかげで部屋に戻れたのは確かだ。

(私って本当に駄目ね…)
そう思うと余計に心が沈む。

「華子様。どうか一口だけでも召し上がってください。」

「…今は、何もしたくないの。」

「華子様…承知いたしました。明日は召し上がってくださいね。」

その言葉には答えず、少し間を空けてから口を開く。
「ねぇ清子」

「はい」
清子は泣き疲れた華子に合わせてゆっくりと返事をした。

「三井家へ、一緒に行ってくれる?次期三井夫人の侍女として。」

「結婚のことを考えていらっしゃったのですね。ご安心ください。私はずっと華子様にご一緒させていただきますよ。」


少しずつ過去の恋を封印していく。

こうして、華姫と謳われる美しい姫の初恋が終わりを迎えた。
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