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また白い光に包まれて莉子は目を閉じる。眩しさがおさまり、目を開けると、また見知らぬ場所にいた。


室内の家具はアンティーク調だ。
机の上には、読みかけの本や書類が散乱している。



バサリと何かが落ちる音が本棚の方から聞こえた。

音のした方向へおそるおそる近づいていく。

本棚の陰にローブ姿の男性がいた。
濃い紫色のロープを纏った男性は、黒く長い髪をゆるく一つに束ねていた。

落ちた本を拾い終えた男性とパチッと目があう。黒曜石を思わせるような漆黒の瞳。

男性はすぐに目を逸らした。

「勝手にお邪魔してごめんなさい』

「…」

何も返答がないので、莉子は「失礼します」と声をかけて退散しようとした。
 
出口へと向かい扉のとってに手をかけようとしたところ、突然背後から抱きしめられた。

「行かないでほしい」

「⁉︎ちょ、放してください!」

突然背後から抱きしめられた恐怖で、莉子は叫ぶ。

「私は…人見知りで…女性が苦手なのだ…だが、あなたを見た時…不思議な感覚になって…」

『それは、きっと、魅了魔法のせいです! もう、みんな距離感バグってませんか! 離れてください!」

男性を引き剥がすことに成功した莉子は、改めてその男性の服装を観察する。

まるで魔法使いのような服装をしていた。

「あの、もしかしてあなたは魔法使いさんですか?』


「魅了魔法?確かにあなたからは感じますね。でもこれは普通の魔法ではありませんね。何か特別な力を感じます。」

「もしかして、この魔法を解くことができますか? 」


「それがあなたの望みなのですか?」

「望み?」

「何か特別な使命があるのではないですか? この魔法はそういう特殊な魔法です。 与えられた使命を果たせなかった場合、命の危険も考えられます。」


「!」

莉子はそう言われて女神様の言葉が頭をよぎった。

本当に死んでしまうと言われたんだった。

色んな場所に飛ばされて、知らない人に言い寄られるのも怖いんだけど……

「良ければこちらに掛けませんか?」

男性はソファーを指さす。

莉子は渋々と男性の隣に腰掛けた。


 「「あなたは」」

私達は同時に話だしてしまった。

『すみません。お先にどうぞ』

「そ、そうですか、ではお言葉に甘えて。
少しいいですか?」

男性は莉子というよりも、莉子を覆う見えない何かを見回す。

莉子は綺麗な長髪の男性が物珍しくて思わず見惚れる。

「ふふ。そんなに見つめられると困りますね。」

『あ、すみません。とても綺麗な髪だなと思いまして』

「髪ですか…」

「いえっ、髪だけでなく綺麗な方だなと‥」

何を言っているのだろうと、恥ずかしくなり頬が朱色に染まる。

これもきっと魅了魔法のせいだ。



「ふふ。とても嬉しいですね。
あなたにかかってある魅了は、やはり特殊な魔法のようです。 解除は難しい」

そう言った後、膝の上に置いてある私の手に、自分の手を重ねる。


「そうですね。出来ないことはないでしょうが。
ですが、あなたは解く方法をご存知なのではないですか?」



「何か思い当たることがあるようですね。」

「あの、魔法使いさんは」

「イアンだ。」

「え?」

「私の名前はイアンだ。」

『イアンさま、私は莉子です」


「あなたといると、自分が人見知りだったのを忘れそうになります。なぜかとても安心します。来てくれてありがとうございます」


「いえ」

もはや本来の目的も忘れて、イケメンに囲まれて悪い気がしなくなっている。

ダメだ、しっかりしなくては。

憎しみあって殺しあってしまうなんて。

そんな未来は変えたい。


怨恨事件を私が防ぐことができるかもしれない。

このヤマは私が解決するんだ、とドラマの刑事のようなセリフが思い浮かぶ。



ふと、サイドテーブルに置かれている物に目が留まる。

『イアン様、これは写真ですか?』

「写真?これのことですか?これは写し絵です。思い出に残したい時に、我々魔法使いがよく使う魔法です。写っているのは、私の数少ない友人です。」


「すみません。拝見してもいいでしょうか?
イアン様、この方は、ご友人なのですか?」

「この方にご興味がおありですか?
なんだか妬けますね。

ですが、残念ながら、彼は、
行方知れずです。
あの戦争で…。

あの時、彼は、戦っていた魔族の弱点を見つけたと言っていました。
魔族は、ある薬草の匂いが苦手なようだと言っていました。

彼のおかげで一時は優勢でした。

ですが、恨みを買い彼に攻撃が集中してきたのです。

彼を転移させて、助けようとしたのですが…

そのまま消息不明です。無事でいてくれるとよいのですが」

「行方不明? この方は、アルバート様ではないのですか?」


「莉子殿は、アルバート殿をご存知でしたか。 ですが、アルバート殿ではありません。彼の弟のフィリップです」

「弟?」

「アルバート殿はフィリップを前線に立たせて、見殺しにしたのですよ! 
兄ならば自分が真っ先に矢面に立つべきでしょう!
フィリップは、自分を犠牲にして皆を守ったのに!

アルバート殿は、あいつは、フィリップをろくに探そうともしないで、死んだことにして墓まで作って‼︎ フィリップは……」

莉子は墓地での光景が甦る。

必死に墓前に祈っていた。アルバート様は決して誰かを見殺しにするような方ではないと思う。

心の拠り所がほしかっただけなのだと思う。

莉子は考えを整理するために目を閉じた。
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