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莉子は急に真っ白な光につつまれる。
光が眩しくてずっと目を閉じていた。
ゆっくりと目を開けると、私は広い部屋にいて、大きな鏡の前に立っていた。
周囲を見回すと、色調が統一された家具が目に入る。そのどれもが、素人目にも高価だろうと分かる豪華なものだった。
「やぁ、愛しい人。」
置かれた状況に混乱する莉子の元に、男性が近づいてくる。
太陽のように輝く黄金色の髪をした青年だった。
「どなたですか?』
「私はこの国の第2王子だ。愛しい人」
「愛しい?」
あぁ、この人物も重要人物の一人で、魅了魔法にかかったのだろうと莉子は瞬時に理解する。
サファイアのような蒼い瞳にみつめられて、妖艶な視線をむけられると莉子は自分の方が魅了魔法にかけられているのではないかと錯覚する。
「困った顔も可愛いね。」
そう言って親しげに耳元で囁く。
近すぎる距離に戸惑い、思わず後ずさる。
「あの、初めてお会いしたと思うのですが」
「うん。初めてだよ。」
そう言いながらも、男性はじりじりと莉子との距離をつめる。
男性と距離を取ろうと莉子は後ずさり、ついには壁際まで追い詰められる。
「どうしたの?怖がらないで。」
『近いです。離れてください』
「いやだよ。君は私のものだ。離れる必要はないだろう。ねぇ?」
魅了魔法のせいだと分かっていても、この世界の男性は距離感がおかしいのではないだろうかと恨めしく思う。
「あなたのものではありません!」
「ふ~ん。では誰のものなの?」
「誰のものでもないです!」
「私が誰か分かってるの?
私のものだと言ったらそうなんだよ。
誰も逆らえないんだから。」
なんて横暴な人なんだろう
壁に片手をついて莉子を逃がすまいとする男性。
開け放たれた窓からは風が吹き込んで、その瞬間サラサラと男性の髪が揺れる。
不覚にもカッコいいと思ってしまった。
あくまで容姿に関して。
「どいてください!」
莉子は強く男性を押し退けた。
「はは、私にこんなことをして、不敬罪にあたるが、まぁ今回だけは見逃そう。
名前は? 私はユリウスだ。」
「莉子……です。」
「莉子、珍しい名だ。とりあえず座って話そうか」
ユリウスに警戒しながら、莉子はソファーへと腰を下ろした。
「そんなに怯えなくても、何もしないさ。
莉子が逃げようとしなければね。
今日は私たちが運命の出会いを果たした記念すべき日だ。愛しい莉子。
気分が良いから、特別に私の秘密を教えてあげよう。」
「結構です!
そんな秘密を聞いてしまったら、何かの縛りが発生する気がしますので!
ご遠慮させていただきます」
「ははっ、威勢がいいね、縛りね~。まぁ、そんなこと言わずにさ、聞き流してくれていいよ。独り言だと思ってね。」
結局話し始めるのですか?と莉子は耳を塞ぎたくなる。
「この国で、私が何と呼ばれているか知ってるか?
道楽で戦争を起こしたわがまま王子だ。
あの戦争は…道楽などではない。」
道楽って、まさか、この方がアルフレッド様が言っていた戦争を起こした張本人⁉︎
「事の発端は、魔族の王家からの密告だった。
(魔族と人間で密通しているものがいる。)
まぁ、最初は、別に大したことではないと思った。
商売をする相手が、人間でなく魔族なだけ。秘密裏に誰と商売をしようが自由だ。
国単位では、まだそこまでの友好関係を築けていないが。
だが、どうやら単純な商売の話ではなかった。
そもそも王家が、個人が単なる商売していることなど密告してくるはずがないのに。
もっと重要な案件のことだと、早くに耳を傾けるべきだった。
一部の魔族が、戦争を仕掛けようとしていると。
あろうことか、欲に目が眩んだ人間が手引きしていると。
既に魔族が町に向かったと。
早急に対処する必要があった。
魔族側の王家のものは、表立って手助けはできないと。━━人間と友好的であると思われると、魔族から反感を持たれるから。
傍観することにしたようだ。
私は密告があったことは伏せ、とにかく兵を率いて向かった。だが━━。
多くの命と、信頼も失った…」
「!」
アルバート様から聞いた話と違って、ユリウス様は国民を守ろうとしたのだ。
莉子は衝撃の事実を知り、何も言葉が出てこない。
どんな言葉をかけても、気休めにしかならない。
過去に起こったことは取り消せない。
だからこそ、全ての行動には責任が伴う。特に王子ともなれば、その責任は重い。
「他の王族の方は今回のことをご存知なのですか?』
「あぁ。もちろん。
矢面に立つのは、第二王子。
後継者の単なるスペアの私。
功績を上げたとしても、その功績は第一王子へ。
予備の王子の役割なんてこんなものだよ。まぁ、兄がどう思ってるかは分からないけど」
光が眩しくてずっと目を閉じていた。
ゆっくりと目を開けると、私は広い部屋にいて、大きな鏡の前に立っていた。
周囲を見回すと、色調が統一された家具が目に入る。そのどれもが、素人目にも高価だろうと分かる豪華なものだった。
「やぁ、愛しい人。」
置かれた状況に混乱する莉子の元に、男性が近づいてくる。
太陽のように輝く黄金色の髪をした青年だった。
「どなたですか?』
「私はこの国の第2王子だ。愛しい人」
「愛しい?」
あぁ、この人物も重要人物の一人で、魅了魔法にかかったのだろうと莉子は瞬時に理解する。
サファイアのような蒼い瞳にみつめられて、妖艶な視線をむけられると莉子は自分の方が魅了魔法にかけられているのではないかと錯覚する。
「困った顔も可愛いね。」
そう言って親しげに耳元で囁く。
近すぎる距離に戸惑い、思わず後ずさる。
「あの、初めてお会いしたと思うのですが」
「うん。初めてだよ。」
そう言いながらも、男性はじりじりと莉子との距離をつめる。
男性と距離を取ろうと莉子は後ずさり、ついには壁際まで追い詰められる。
「どうしたの?怖がらないで。」
『近いです。離れてください』
「いやだよ。君は私のものだ。離れる必要はないだろう。ねぇ?」
魅了魔法のせいだと分かっていても、この世界の男性は距離感がおかしいのではないだろうかと恨めしく思う。
「あなたのものではありません!」
「ふ~ん。では誰のものなの?」
「誰のものでもないです!」
「私が誰か分かってるの?
私のものだと言ったらそうなんだよ。
誰も逆らえないんだから。」
なんて横暴な人なんだろう
壁に片手をついて莉子を逃がすまいとする男性。
開け放たれた窓からは風が吹き込んで、その瞬間サラサラと男性の髪が揺れる。
不覚にもカッコいいと思ってしまった。
あくまで容姿に関して。
「どいてください!」
莉子は強く男性を押し退けた。
「はは、私にこんなことをして、不敬罪にあたるが、まぁ今回だけは見逃そう。
名前は? 私はユリウスだ。」
「莉子……です。」
「莉子、珍しい名だ。とりあえず座って話そうか」
ユリウスに警戒しながら、莉子はソファーへと腰を下ろした。
「そんなに怯えなくても、何もしないさ。
莉子が逃げようとしなければね。
今日は私たちが運命の出会いを果たした記念すべき日だ。愛しい莉子。
気分が良いから、特別に私の秘密を教えてあげよう。」
「結構です!
そんな秘密を聞いてしまったら、何かの縛りが発生する気がしますので!
ご遠慮させていただきます」
「ははっ、威勢がいいね、縛りね~。まぁ、そんなこと言わずにさ、聞き流してくれていいよ。独り言だと思ってね。」
結局話し始めるのですか?と莉子は耳を塞ぎたくなる。
「この国で、私が何と呼ばれているか知ってるか?
道楽で戦争を起こしたわがまま王子だ。
あの戦争は…道楽などではない。」
道楽って、まさか、この方がアルフレッド様が言っていた戦争を起こした張本人⁉︎
「事の発端は、魔族の王家からの密告だった。
(魔族と人間で密通しているものがいる。)
まぁ、最初は、別に大したことではないと思った。
商売をする相手が、人間でなく魔族なだけ。秘密裏に誰と商売をしようが自由だ。
国単位では、まだそこまでの友好関係を築けていないが。
だが、どうやら単純な商売の話ではなかった。
そもそも王家が、個人が単なる商売していることなど密告してくるはずがないのに。
もっと重要な案件のことだと、早くに耳を傾けるべきだった。
一部の魔族が、戦争を仕掛けようとしていると。
あろうことか、欲に目が眩んだ人間が手引きしていると。
既に魔族が町に向かったと。
早急に対処する必要があった。
魔族側の王家のものは、表立って手助けはできないと。━━人間と友好的であると思われると、魔族から反感を持たれるから。
傍観することにしたようだ。
私は密告があったことは伏せ、とにかく兵を率いて向かった。だが━━。
多くの命と、信頼も失った…」
「!」
アルバート様から聞いた話と違って、ユリウス様は国民を守ろうとしたのだ。
莉子は衝撃の事実を知り、何も言葉が出てこない。
どんな言葉をかけても、気休めにしかならない。
過去に起こったことは取り消せない。
だからこそ、全ての行動には責任が伴う。特に王子ともなれば、その責任は重い。
「他の王族の方は今回のことをご存知なのですか?』
「あぁ。もちろん。
矢面に立つのは、第二王子。
後継者の単なるスペアの私。
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