上 下
10 / 14

10

しおりを挟む
「サヤカ、すまない」

笑いのツボに入ったお姉さんを残し、私達は早々に邸をでた。

とりあえず生活に必要な服など、街でルイ様に選んでもらうことになった。

お城からいただいたお小遣いはあるけれど、生活用品を購入するには心許ない。

いずれ働いて返しますと約束をして、ルイ様に購入していただいた

ルイ様は返す必要はない、と言ってくれたのだけど。

何から何までお世話になるのは気が引ける。

この国で働いていけるのかな。

聖女様が帰ってこられるまでは、どこかで働き口を探さないといけない。

買い物を終えて、ルイ様と過ごした家へと転移で移動する。


魔法って便利だ。
本当に一瞬で別の場所へと移動できる。

ただその際にルイ様と密着することになるのが慣れないけど……

「荷物はとりあえずこの辺りで。少し休もうか?」

ルイ様がお茶を淹れてくれる。



「サヤカ、先程は姉上がすまない。悪い方ではないのだが」

『とても明るいお姉さんですね』

正直、アンナ様とルイ様がうらやましいと思った。

私は一人っ子だし、両親は仕事でいつも留守だった。 

まぁ、私もスマホばっか触ってて。

たまに一緒にいても、まともに会話してなかったも。

大学に入ってからは、私もアルバイトを始めて忙しくて……

卒業して一人暮らしを初めてからは、数えるほどしか連絡をとっていない。

お母さん達も、さすがに急にいなくなったら心配してるよね…

連絡とってないから気づかないかな……

「サヤカはご家族は?

つらいことを聞いたな、すまない」

私の顔が曇ったのを、ルイ様は見逃さなかった。

『謝らないでください。

私は姉妹とかはいないです。
ルイ様には素敵なお姉さんがいてうらやましいです』

「姉上は、良くも悪くも強烈な印象を与えるからな。」

文句を言いながらも、アンナ様のことを話すルイ様の表情は明るい。仲の良さが垣間見える。 

『仲がいいのですね。
私の両親は、仕事でいつも忙しくて……

子供のころから、あまり家族で会話した記憶がないんです』

「そうか、お忙しい方達なのだな。」

『はい、でも…私が話そうとしなかったのかもしれません。

空気のような存在と思っていたので。

ひどい娘ですよね?

私…スマホばかりしてたし。
あ、スマホというのは友達と連絡とったりすることもできて、ゲームとかするものです。
親と会話するよりも、スマホ見てる方が楽しくて。

傍にいるのが当たり前だと。
ほんとにひどい娘です。私って。
しかもこんな風に突然いなくなって……
きっと、両親は……あれ、私…』


思わず涙が溢れて視界がぼやける。

ルイ様は椅子から立ち上がると、私の傍に近づいてきて優しく頭をなでてくれた。

「気休めになるといいのだが」

こんな風に撫でられると安心する。

自立して大人になったつもりだったのに、精神はまだまだ子供だ。

こんなんじゃダメなのに。

「異世界から来た者が、こちらに定着すると、あちらの世界にいる者の記憶が修正されるらしい」



『修正?』

「あぁ。文献にはそう書かれている。

あちらの世界を覗ける力を持った者がいたのだろうな。」

ルイ様は知っている異世界に関する情報を、ゆっくりと説明してくれる。

『それは、つまり…私も忘れてしまうということですか?
家族のことや日本のことも?』

「いや。忘れることはないが、気持ちが軽くなるようだ。

あちらの世界からサヤカの記憶は消えても、サヤカ自身は覚えている。

だが、会いたいというほどの強い想いは抱かなくなるそうだ。

実際は、どうなのかは分からない。

心に折り合いをつけて、気丈に振る舞っていたのかもしれないが━━そのように聞いている。

 サヤカ、酷なことを言うようだが、過去を振り返らず、これからのことを考えてはもらえないだろうか?

私が傍にいる」

『ルイ様?』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました

灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き? 僕はレイチェルのこと大好きだよ。」 没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。 それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。 けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。 なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。 あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。 奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...